【Report / リポート】
コライトで生まれる1人だけでは作れないもの
Music Lane Open Lecture Vol.14 “コライトの現在地”
講師:高波由多加さん

“旅する選曲家”として、アジアを中心に海外を飛び回る

“旅する選曲家”としてシーンと人に寄り添う音楽を国内外のミュージシャンたちと制作し、数々の音楽プロジェクトを手掛ける「Namy&Inc.」のCEO・高波由多加さんを講師に迎えた「Music Lane Open Lecture Voi.14」が2023年11月15日にミュージックタウン音市場で開催されました。今回のテーマは「コライトの現在地」。
コライト(Co-Write)とは、複数のミュージシャンがそれぞれの得意分野を活かしながら、共同で音楽を制作する手法のこと。ネットを通じたファイル交換で、国境を超えたコラボレーションが手軽にできるようになっていることもあり、コロナ禍でも注目されました。

「コライトと僕の人生は密接に結びついている」と断言する高波さんが、その意義や実践的な取り組み、展開などについてレクチャーしました。

取材・文:真栄城潤一

繋がる手段としてのコライト

「繋がるための1つの手段としてコライトがあります」と高波さんは強調します。

「音楽性をちゃんと持ったミュージシャン同士のコラボから、新しい音楽ジャンルが創出されると思うんです。国外のミュージシャンを招いて、あえて観光地ではない場所に行ってみたり、宗教や政治も含めた対話を重ねながら、違うカルチャーを持つ人たちでどんな歌詞や楽曲が生まれてくるのか。その中には1人だけでは作れない、真似事ではないオリジナリティも含まれています。コライトの面白さと意義はそこあると思います」

さらに、コライトを企画する際の実践的なポイントとして先ず権利関係の契約をしっかりと押さえることを挙げました。「仲良しだったミュージシャンたちが権利関係で揉めるのが1番もったいないですよ」。
ミュージシャン同士が音楽的にリスペクトし合っていることも当然必須条件。それを踏まえた上で、同じようなジャンルではなくて、ある程度化学反応を楽しめるような組み合わせで行うことも重要だと説明。

また、海外アーティストには「日本で公演をしたい」と考えている人が多いので、キャンプを組む時には「発表の場として、公演もセットにすべきですね」とも付け加えました。
滞在先については、スタジオが近ければミュージシャン同士のコミュニケーションの濃度が変わるし、宿に最低限の音響設備があると望ましく、音楽が生まれる幅が広がると話しました。

 

どんなメリットがあって、どう企画するのか

Co-Write Day Fukuoka
R→L:VUIZE (TAIWAN) × Ai Kakihira (JAPAN)

Co-Write Day Fukuoka
寝食を共にして、音楽に没頭する

取り組みとしては、2023年9月に開催した自主企画イベントの「コライトデイ」を紹介しました。
1つの場所にミュージシャンたちが一定期間集まって制作を行う「コライトキャンプ」を福岡と糸島で開催。福岡ではホテルに滞在しながらスタジオをレンタルし、1週間程度で制作からレコーディング、そしてライブまで行いました。さらに糸島では、また別のミュージシャンたちが集まり、事前準備していた楽曲を無しにして、現地でのフィールドレコーディングも実施しながら、ゼロから共同制作していく様子について語り、その過程を記録した動画も紹介しました。

この取り組みについて高波さんは「すべてが上手くいった」と断言します。

「コライトによって自分がやることに自信が持てたというミュージシャンもいましたし、スランプだったミュージシャンの新しい扉を開けた瞬間もありました。ただコラボするだけじゃない影響がそれぞれにあるんですよね。あと、言葉の壁があることで、逆に非言語コミュニケーションを大切にすることができたという面もありました」

こうしたメリットも提示した一方で、いくつかの懸念や課題も挙げます。ミュージシャンたちのマッチングの精度を上げていくことや、余白を残したスケジューリング、通訳的なことが出来る人材の確保など、企画したからこその現場感のある指摘が並びました。

そして制作面では、ある程度間口は広げた上で、どの作り手が主導権を持つか、どのミュージシャンがどこまでやるか、そういった線引きや判断をするプロデューサーの存在が必要だと強調。こうした課題点を踏まえて「コライトのキュレーターが今後少しでも出てきてほしいし、この取り組みを続ければ日本の音楽シーンに直結する可能性もあります」と語りました。

高波由多加さん。
コライトの取り組みが、日本の音楽シーンに直結する可能性も。

これからのコライト

高波さんはかつてサラリーマン生活を送るかたわら、「NAMY」というプロジェクトでDJをしながら色んなジャンルのクラブに行って音楽を聴きまくり、レコードを買い漁っていた中でとある確信を抱いたと言います。「それぞれの現場で出会ったミュージシャンの音楽性を活かして組み合わせれば、絶対に面白くなる」。

この直感に基づいて自身のプロジェクトを通して様々なミュージシャンを繋いで、巻き込み、PRして音楽の現場を流動させることで「みんながより良い音楽を作る環境ができるんじゃないか」という思いが、国内外問わず様々なミュージシャンたちとのコライトを仕掛ける現在の活動の原点になっています。

成果をライブで発表することも重要。

今後の展望については、制作した楽曲のリリースパーティーを積極的に行っていくことや、コライトキャンプをブラッシュアップした上でファンがついているフェスとドッキングさせること、そして地域の観光事業の中で現地企業や地域の曲を制作してプロモーションするなど、様々な構想を述べ、「これからも、ミュージシャンたちと共同生活をしながら、思ったことを実現していきたいですね」と締めくくりました。

高波由多加 (NAMY)さんプロフィール

Namy& Inc. CEO & Founder / PLAY TODAY Founder.
旅する選音家としてシーンに人に寄り添う音楽を国内外のミュージシャン達とともに時には創り、時にはセレクトしたりと日々を楽しく活動中。Spotifyでの総再生回数が8000万回を超える覆面プロジェクトAmPm(アムパム)をはじめ Tokimeki Records, Snowk 等、海外のリスナーが多い音楽プロジェクトを手がける。

Namyand

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