【Column / Report】
コザの天ぷら【コツのいらないアジア音楽】VOL.30
Music Lane Festival Okinawa 2025開催レポート前編

前回に続き、今回は1月に沖縄市で開催されたMusic Lane Festival Okinawa 2025(以下MLFO2025 )の初日と2日目(ショーケースライブ1日目)の様子をご紹介していきます。

アーティストに頼もしさを感じる1日目
– keynoteセッション&オープニングセレモニー

仕事を定刻に終わらせ高速道路のインターチェンジを抜け車を走らせる。暖冬に慣れきった体に沖縄ではかなり低めの気温15度はちょっと堪えるな、なんて思いながら。少し足元が冷たい。
雲行きが怪しかった景色は次第に小雨に変わり、夕方の渋滞の車の列が一段と延びていく。残念ながらフェスの幕開けのkeynoteセッション アジアフェスティバルの最新地図のカンファレンスは遅刻しての入場に。
ミュージックタウン音市場3階ホール前のホワイエでゆるっと和やかに開催された昨年とはうって変わって、ミュージックタウン音市場ホール改めTune Core Japanステージの座席はほぼ満員御礼状態。スクリーンに投影されたデータを熱心に見て、メモを取る国内外の出演アーティストと帯同のスタッフの数に驚かされる。始まったな、と思うのと同時に今年はどんなステージと人々との出会いに立ち会えるか、ワクワクと高鳴る。

聞くとこの日の那覇空港は、国内便最大2時間到着遅れが発生していた模様。遅延と交通渋滞の大混乱の中、私の後から会場入りするアーティストには若干疲れた表情も見える中、Banana Joggingのメンバーたちが歌を口ずさみながら陽気に会場に入ってきた。タイの人の陽気さと渋滞慣れした感じ、昨年も同じようにクスッとしたことを思い出す。
カンファレンスが終わり、どっとホワイエに人が溜まり始めたと同時に、我先にと音楽のプロ(=デリゲーツ)にアピールを始める出演者。昨年は賑やかな場に慣れていないアーティストの中には喫煙所に隠れてしまう人も見かけたが、今年は様子が全く違う。馴染み同士の海外デリゲーツの情報交換の輪に果敢に入り、自ら英語でアピールする人、互いの好みの音楽ジャンルから楽曲コラボレーションするときの楽曲制作スタイルについて盛り上がるミュージシャン…と出だしからかなり積極的だ。
バーカウンターには、各国から持ち寄られたお菓子やアルコールの差し入れも並び話題に事欠かない。軽食を食べる隙なく、会話の輪が至る所で出来上がり広がっていく。
今回、私はMLFO2025のマーケティングスタッフとしても参加していることもあり、このフェスでしか映せない出演者の姿をカメラにおさめようと、ポスターへのサイン動画の撮影や、アーティストコメント動画の撮影をしていたらあっという間に終了時間の22時を回っていた。語りも酔いも足りないデリゲーツとアーティストは、夜のコザの街角に場所を移して延長戦。夜深くまで賑わっていた。

沖縄コザで繋がる面白さを実感する2日目
(ショーケースライブ1日目)

Speed Meeting / アーティストとデリゲーツ(音楽関係者)がお互いの情報交換や売込みを行う。

気温16℃寒空ながらも晴れて絶好の周遊フェス日和の2日目。お昼にホワイエに立ち寄る。ビジネスパス購入対象のパワーランチ開始時刻の見通しが立たずに不安そうなスタッフをよそに、テーブル各々、アーティストとデリゲーツの商談が盛り上がりすぎてミーティングの落とし処が見あたらないほどの熱気(本当に熱気で私のメガネが曇るほどでした!)。メジャー流通のレコード会社に所属していなくとも、有名な音楽事務所に所属していなくとも、マネージャーがおらず自らすべてをこなす1人親方のアーティストにも、1ターン9分間×申し込み回数分、世界中忙しく動き回る海外デリゲーツと対話するチャンスが出演者に用意されるのがこのMLFO2025 のすごいところ。今回、残念ながら選考にもれたアーティストもめげずに次回も(自身の腕を磨きながら)、応募チャレンジをしていってほしいと願ってやまない。

6組の海外アーティストと、日本のクリエイターによるコライティング。楽曲は春先に発表の予定。

痺れを切らしたスタッフが昼食会場への移動を促し、大勢の人が1階のランチ会場へと移動していった。私はがらんとしたホワイエをあとにし、事務所奥にあるスタジオ通路へ。こちらではコライティングキャンプに参加中のミュージシャンたちが楽曲を制作中。ある1室では、イタリア&モンゴルから参加するstrawman&celineのstrawmanがギターのフレーズをいくつか試し弾きしながら他のメンバーに相談していたり、他の部屋では韓国のHOAのメンバー同士、演奏タイミングが合わずどっとした笑い声が漏れ、のぞいた私に気が付き手を振ってくれたり。奥のスタジオにいたインドネシアのLittlefingers  のDavidHalimとSUNWICHの Aliefia Augustineのチームは会議机で真剣に楽曲の方向性について話し合っていて、3室3様の様子を覗きつつ、お邪魔にならないようにそそくさと事務所前の配信ブースに移動。

 

こちらでは、フェスのマーケティング支援のため参加する株式会社LABのみなさんが、インタビューブースのセッティング中。ケーブルやパソコンの接続テストを慌ただしく準備するなか、私もSNS用の情報発信の準備をしていると、カンファレンスに立ち寄る暇なく、あっという間にショーケースライブ(=見本市ライブ)の開始予定時刻の16:00。

今年のMUFO2025、カンファレンスが充実した反面、那覇行き最終バス出発の22時までの限られた時間でショーケースライブが開催されるため、昨年よりも見たいアーティストの演目被りが大発生するタイムテーブル!(実は私でさえどうやってステージを見るかを決めかねた状態でフェス当日を迎えました)

恐らく、MLFO2025的ショーケースライブをみるパターンは大きく分けて2つ。

①1ステージ30分をたっぷり味わい尽くす、見るアーティスト厳選パターン

②とにかく沢山のアーティストをみるため、約15分で次々と会場を行き来する、デリゲーツ同様の回遊パターン

見る目星がつかないまま、昨年同様②のパターンで見ようと改めてタイムテーブルを見ようとスマホを開いた時、MLFO2025スタッフグループチャットで衝撃のコメントを目にしてしまうのです。

予測不可能の幕開け!

“リハーサル押しているため開場開演、間に合いません”“見通し立ちません”

ーなんてこと?!大混乱の幕開け。
ライブハウスの音響スタッフさんと海外ミュージシャンのコミュニケーションは英語で行われている。母国語が互いに英語ではない中、細かなニュアンスを伝えながらステージセッティングを行っていくのは一筋縄ではいかないのは想像に容易い。さらにショーケースライブという性質上、セッティングの時間は本当にタイトに組まれている。演目スケジュールの“巻き”“押し”自体もショーケースライブの醍醐味ではある訳だが、のっけからスタッフでさえ予測不可能という混乱のなかスタート、ミュージックタウン音市場1階広場でチケットはリストバンドに次々引き換えられていく。

気を取り直して私がはじめに向かったのは、ミュージックタウン音市場の裏通りにあるライブハウス OTORAKU 。日本のセレクションのAi Kakiharaからスタート。発表されているアーティストビジュアルやミュージックビデオにあまり本人が登場しておらず、フェスが開催されるまで謎も多く気になっていたアーティスト。昨年リリースの“超機車的機車人 ~Super Auto-bike~ / Ai Kakihira, VUIZE王鍾惟”がリリース当時からお気に入りだったこともあり楽しみにしていた。サポートメンバーのドラマー、ギタリストと共に登場しAi Kakiharaはボーカル、キーボード、サンプラーを操りながら演奏するバンドスタイル。彼女のステージの面白いところは、MCで柔らかな笑顔とトークで物腰の柔らかさをみせたかと思うと、演奏では手元で様々な機器を操る器用さだけに留まらず、憑依するかのごとく1曲ごと役になりきるステージングと芯の強さを感じる歌声が見事。シルクロードのタクラマカン砂漠のオアシスを想起させるような心地よいメロディに、オリエンタルさが印象的なギターコードが耳に届く。さらに木の実を束ねて作られた木製打楽器チャフチャスのカラカラとした音が要所要所に挟み込まれ魅せたい世界観がくっきりと立ち上がる。まんまとギャップに鷲掴みになってしまった。

Ai Kakihira @ OTORAKU

うっとりと聴いていたい気持ちに後ろ髪をひかれながら次に向かったのは、印象的な壁画がトレードマークのコザパルミラ通りにあるライブハウス Crossover Cafe 614。会場の中ではフィリピンからやってきたVincent Ecoのステージ終盤に潜り込む。
先程観たステージとは打って変わってオーソドックスなバンドスタイルの演奏。入った瞬間から、観客とステージとフィーリングがばちっと調和していることを肌で感じ、予習しておいた(内省的だと思っていた)楽曲のイメージが早々に崩れる。実は、ワンマンライブなどで起こるような演者とステージの温度感が整い調和がとれた感じ、実はMLFO2025の特徴でもあるショーケース(見本市)ライブの形式で作り上げることは非常に難しい。短い演奏時間中も、ひっきりなしに観客の入退室が起こるため1曲ごと会場の雰囲気が崩れてしまいやすいのだ。それがどうだろう。自分が入り込むことでその調和を乱してしまうのではないかと、すこし申し訳なさを感じてしまう程、会場全体が良い雰囲気が出来上がっている。彼のステージは1曲1曲、クライマックス直前の映画のワンシーンを切り取ったかのような抒情さと、感情がずどんと真っ直ぐに響くストレートな歌詞と旋律が、クラシックさを残すオルタナティブロックで奏でられる。
その相性はぴったりすぎて、孤独でありながら、様々な愛の形をみせるショートムービーのよう。昼のまだ早い時間から感情が揺すぶられすぎて“The Way Things Go”では目頭に涙を溜めながらみることになるとは思いもしなかった。

 

そうはいっても、ショーケースライブはどんどんと進んでいく。涙目のままではいられない。ハンカチで顔を押さえつつ、商店街をさらに移動する。前回のコラムで紹介したTURTLE ISLANDやすずめのティアーズなど、今年は日本のセレクションからも見逃せない出演者も多く、矢継ぎ早に複数の会場を訪れつつ、夕方18時。日が落ち始めミュージックタウン音市場1階広場はライブを見るに良い時間帯になってきた。

Dhira Bongs、サポートで沖縄のベーシスト安田陽さんが参加。

インドネシアから参加のDhira Bongs。過去、京都で開催されている音楽フェス“京都音楽博覧会”でのステージ経験もある彼女。客席ひとりひとりにアイコンタクトを取りながらの堂々としたプレイ。頭上に投影されるスクリーンの映像も1曲ごと全て作り込まれ、Dhira Bongsのコンセプトであるエクスプロラティヴ•ポップス(冒険家になった気分で、という理解をしている)が視覚的にもわかりやすい。黄色のジャケットを身に纏ったキュートな彼女が、映像にうつるピンクのkawaiiモチーフやファニーな猫と共に、宇宙空間の中、ワクワクの音楽探検をしているかのごとく、ASIAN KUNG-FU GENERATION Gotchとのコラボ(コライト)曲 “Make Me Fallin in Love Again”をはじめ、元気をもらえるポップなステージを披露した。

ZY THE WAY 中庸(台湾)

そのまま同じ建物 3階のTune Core Japanステージに移動し、台湾のZY THE WAY 中庸。元々、ボーカル凱琳がフューチャリングで参加した、“就當家裡/Matt Hsu’s Obscure Orchestra”をコロナ禍に愛聴していたこともあり、現地に行かずとも沖縄で観るチャンスに恵まれたことを喜んでいたグループのひとつ。世界中から集まったマルチで活動するメンバーで構成されるクルーで、古代中国の詩にジャズ、即興、未来的なサウンドを融合するープロフィールを見て、いくら才能あろうとも、このメガ盛りコンセプトがひとつにまとまるのか⁈と、不思議でならなかった。すでに中盤にさしかかるステージ、暗めの照明のなかミドルテンポのピアノとシンバルの音も心地よく、落ち着いたジャジーな雰囲気に、回遊してバタバタと落ち着かなかった心と身体の力がふっと抜けるのがわかる。ステージ上のスクリーンには青空や草原、月夜などの映像と共に、オリジナルの歌詞、中国語・日本語・英語と3ヶ国語の歌詞の同時翻訳が当てられ、彼女たちの魅せたいものと観客のイメージが視覚的に繋がりやすく、かつ堅苦しくなく親しみやすさがある。凱琳のボーカルの心地よい歌声に浸っていると、続くメンバーの蔡子雍が本をめくりスタンバイ。奏でられるスネアドラムのリズムにのせてポエトリーリーディングのように漢詩を読み上げていく。スタンドマイクの前ですらりと立つ姿もスポットライトに照らされて雰囲気がある。朗読の抑揚がリズムの様でいてメロディのようでいて、新鮮な感覚。JAZZの動的なグルーヴと、朗読の静的なアプローチが組み合わさり、新しい音楽の姿を感じさせるものだった。

Blufog

その後、(どのバンドにも多く自分たちのやりたいことに繋がりますように、と願いながら)どんどんハイペースに7バンド。どのアーティストも、誰かの琴線に響くよう、チャンスを逃すまいとステージから発する気迫に圧倒されるステージが続く。

タイムテーブルの遅れが予想できないまま胡座バス停前のライブハウス 7th heaven kozaへ。時間は早まることなく、この時点で開場開演は70分ずれ込んだままだ。日本のセレクションから2人組ロックユニットBlufogのステージ。Spotifyに表示されているのはわずか3曲。ざらりとした荒さを感じさせながらも、ukインディーの懐かしさと人間味に惹かれて今のうちに見ておきたいと思っていたアーティスト。どんなステージになるか未知数ゆえに、そのわからなさにワクワクを感じてしまい足を運ぶ。煙幕につつまれ、2人が登場し、インカムマイクを使い、楽曲“Close to Me”をはじめドラムのRikutoがボーカルを執り、中央や上手スペースを存分に使ってギターDaigoがプレイするスタイル、かと思いきや、曲によってはドラムのRikutoからドラムセットから出てきて7th heaven koza名物のセンターステージでマイクを握りR&Bやラップのバースを繰り出し、ボーカルとしても多彩さも披露。2人組でありながらも視覚的動作のメリハリもあり、オルタナインディーの新しい展開を感じて、これからの活躍が期待せずにはいられないステージだった。

TOSH(band set)

21時を過ぎて昼とは全く違う風景になった華やかなコザの街を急いでTune Core Stageに移動する。TOSHのステージ終盤になんとか間に合った。何度か彼のステージは見ているが、今回は沖縄でフルバンドsetの初披露。これまで観てきた楽曲が、ドラムやキーボード、ベースが加わりディテールが際立ち壮大さを増し、かつナラティブに表現されている。無骨さが際立つロックアプローチで観客を驚かせた楽曲”don’t you dare“をはじめ、これまでのギターボーカル&DJの2人体制のエレクトロ色の強い公演とはまた違った、ハードロックやプログレッシブロックな側面も感じられ、ステージ全体から発せられる音の迫力に圧倒される。海外デリゲーツが、放っておくわけないだろうな、と思わせる圧巻のステージだった。

まだ終わらない?!あと2組!

大きなホールで大音量の音楽を浴び、ああ楽しかったと一息つくタイミング。時計をみると22時那覇行き最終バスのデッドラインすれすれ、そこでホワイエで大声で叫ぶスタッフの声が聞こえてきた。
“この後、RIS-707が22時、NIKO NIKO TAN TAN22時50分から開始となります!7th heaven kozaまだ終わっていません‼︎お時間のある皆様お立ち寄りください!”

(マジで⁈)

 

ホワイエにいた観客やミュージシャン全員そう思ったはず。昼の15時から半径2.5キロエリアを歩き回り、ライブ会場は基本スタンディング。足にはじわじわと乳酸が溜まり始め、立っているのもキツくなってもおかしくない。それでも、新しい音楽が大好きな観客とデリゲーツ、MLFO2025をきっかけに繋がったミュージシャン仲間の有志を応援しようと、ミュージックタウン音市場のエレベーターを降り、胡屋十字路にむけて、ホワイエにいたミュージックラバーが一斉に大移動!満員御礼の2ステージ、沖縄の観客の大声援をうけ、NIKO NIKO TAN TANはアンコールの応酬!終演時刻はなんと驚きの23:20。

NIKO NIKO TAN TAN@ 7th Heaven Koza

…そしてさらに番外編へと続くのです。海外デリゲーツを招いているMLFO2025は、実は深夜も至る所でチャンスを逃すまいとナイトタイムでもアーティスト自身が県内至る所で自主企画ライブを開催しています。加えてフェスの感想戦や各国の音楽シーンの情報交換のため、さらに居酒屋に連日繰り出すデリゲーツ&ミュージシャンたち。この、なにが起こっているのかスタッフも、参加者当人もわからない程の盛り上がりは翌朝までパワフルに続くのです。様々なナイトイベントを訪問し私がベッドにたどり着いたのは朝6時。興奮と混沌のままフェスは最終日へと続きます。

つづきはまた次回!

SLUM BARで深夜まで行われたサイドイベント

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筆者紹介
サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛聴する、コラム・エッセイスト。 Music Lane Festival Okinawa 2025応援団
Instagramにて、邦楽アーティストとアジア圏のアーティストのコラボ(コライト)曲に特化した楽曲レビューを不定期更新中 。

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