【Column】
国境を越える音楽の柔軟性
コラボ曲満載の柯泯薫misi Ke 香港公演を追って
ー コザの天ぷら【コツのいらないアジア音楽】VOL.39

いつものようにSNSをチェック中、以前沖縄でライブを行ったこともある台湾のシンガーソングライターの柯泯薫misi Keの香港公演のお知らせをキャッチ。しかしこのお知らせ、少しだけ引っ掛かりが残る。なぜかというと、海外人気も高い日本のポストロック/マスロックバンドLITEと、DJ/トラックメイカーとして活躍するDÉ DÉ MOUSEのバンドFake Creatorsに過去、柯泯薫misi Keが招聘された時の楽曲が使用されていたから。

【Far Dreams / Fake Creators feat.柯泯薫misi Ke (Art Direction:JACKSON kaki) 】

本人の最新リリース楽曲ではなく、あえてこの作品で公演のお知らせ映像が作られているということは…何か意図があるに違いないと、公演の詳細を確認してみる。なんと香港公演のサポートに、LITEのドラマー山本晃紀と、DÉ DÉ MOUSEの名前が連なっているのを発見し私は歓喜した。

アジアのアーティストとのコラボ(Co-Write)作品を個人的に楽しみはじめてしばらく経つが、コラボCo-Write作品の唯一の弱点は、コラボ曲を間近でみるチャンスが(信じられないほど)限られること。見逃すと次にいつチャンスが巡ってくるかわからない。そんな機会がなんと今回、アーティストの活動拠点である台湾でも、日本でもなく、香港で興業が行われるという。香港の企画制作者もなんてチャレンジングなことを…と、見てみると企画制作は、今年1月沖縄で開催されたmusic lane festival okinawa 2025にデリゲーツで参加していた香港ClockenflapのCoraさん!

コラボ楽曲のステージ披露を見てみたいワクワクと、出演者が別々の国とエリアから招聘される単独公演である点、さらに香港のライブハウスの様子や香港の音楽好きはどんな反応なのかも気になり二重にも三重にもワクワクが収まりません。私はその勢いで旅行比較サイトを見てみると、沖縄から香港までは時間にして約3時間程(沖縄⇔仙台間と同じ程度)。価格も確認していくと、海外の格安LCCで燃料サーチャージ込み込み往復2万円の表示。沖縄からアジアに出かける気軽さ、地域的有利性を感じずにはいられません。沖縄から東京に行くよりも魅力的な航空券の価格に、このチャンスを逃すものかと私は決心を固めます。

【Home And Dry / DÉ DÉ MOUSE & Misi Ke (映像制作:DÉ DÉ MOUSE)

公演直前には、DÉ DÉ MOUSEと柯泯薫misi Keの共同制作の5曲入りのEPが発売されるなど、開催が近づくにつれて様々なお知らせがSNSを通じて発信される中、私が特に注目したのは、今回の香港公演のスタジオリハーサルが、東京だったこと!プロモーションやスケジュールの都合もあるかと思うが、公演ひとつを作り上げるのに、公演に関わる人全てが柔軟であるに越したことはないのだと考えさせられました。

いよいよ当日、台風の隙間を縫って那覇空港を飛び立ち香港国際空港からトラムを利用し会場へ。入場列に並ぶ香港のファンは柯泯薫misi Keへ贈るプレゼントのぬいぐるみを思い思いに携え、入場後そのままステージ袖に並べていきます。まるで柯泯薫misi Keの応援団ブースが、フロアモニターの端、ステージの端っこに出来上がっていく様子はなんとも愛らしい光景です。2025年10月に自身の主演映画の公開も直前、大忙しのはずの柯泯薫misi Keが、忙しさを露ほども見せず満遍の笑みでステージに登場。柯泯薫misi Keの弾き語りから始まり、続いてギタリスト樂承宇 Yue Yuとともに、アコースティックギターのあたたかさと空間の広がりを感じる楽曲を披露。さらにドラマー山本をステージに迎え入れたトリオセット、最後にDÉ DÉ MOUSEが合流し全曲リアレンジを施したFake Creatorsとのコラボ曲が惜しげもなく全曲披露された。壮大で儚く、幻想的な世界観を纏うFake CreatorsのEPの作品群ではあるが、ライブでは柯泯薫misi Keや他のメンバー自身がこれらの楽曲を披露できる歓びにあふれ、繊細でありながらも楽曲に描かれる主人公に頼もしさを感じることのできる、非常にハートウォーミングなステージ。アンコールではDÉ DÉ MOUSEとの最新コラボ楽曲“ MOTHER SEA , MOTHER EARTH ”も初披露され大団円で終演を迎えた。

国境を超えた楽曲制作に始まり、暗中模索のステージ制作にマーケティング、ホームではない場所での単独公演を成功させようとするパワー。一つの公演に想像つかないほど演者と制作スタッフの挑戦が見え隠れする素晴らしい公演でした。

Coraさんとは来年1月、沖縄での再会を願う言葉を交わし、蜻蛉返りで空港に戻り沖縄へ。余韻冷めやらぬ中、また次のワクワクを求めて、私自身もアジアの音楽を追いかけてフレキシブルに動き回らねば、と気の引き締まる初香港弾丸旅でした。

 

筆者紹介

サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛聴する、コラム・エッセイスト。 Music Lane Festival Okinawa 2026応援団。

Instagramにて、邦楽アーティストとアジア圏のアーティストのコラボ(コライト)曲に特化した楽曲レビューを不定期更新中。

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