【Column / Report】
コザの天ぷら【コツのいらないアジア音楽】VOL.31
Music Lane Festival Okinawa 2025開催レポート後編

前編に引き続き、今回も1月17日から19日に沖縄市コザで開催されたMusic Lane Festival Okinawa 2025(以下MLFO2025)のフェスティバルレポートをお届け。今回は後編。(速報前編はこちらから)

いよいよ最終日

 終わってしまう寂しさを感じながら、ホテルをチェックアウトして主会場であるミュージックタウン音市場へ向かう。気温17度、霧雨で視界が曇り蒸す暑さ。屋外では立っているだけで体力が奪われる天候。到着すると、昨日に引き続きホワイエではspeed meetingが開催され、昨日一昨日と交流を深めた音楽のプロ=デリゲーツとアーティストはさらに突っ込んだ話題で盛り上がる様子をキャッチ。
 今日こそはカンファレンスに参加しようと、カンファレンス会場となっているラグーンコザに移動。ミュージックタウン音市場でエレベーターを待っていると、コライティングキャンプの制作スタジオに入っていた台湾チームの林潔⼼ ddkogi88Quanzoが昼食を取ろうとこちらに向かってきた。会場近くの沖縄そばを食べにいくそう。ミセスグリーンアップルの鼻歌を歌い、笑いながらエレベーターを降りていった。良い雰囲気で曲づくりがすすんでいる様子が伺えこちらも笑顔がほころぶ。
 到着したラグーンコザでは、今回MLFOのプログラム・ディラクターを務める山口哲一氏と、株式会社LABの脇田敬氏、音楽評論家の柴那典氏の3名の共著、音楽未来会議の内容だけではなく、沖縄にまつわる国内の音楽シーンのトレンドや、沖縄の音楽シーンの多様性などについて、かなりフランクに盛り上がっていた。最後の質疑応答では、目指すべき日本の音楽シーンについて、登壇者の期待や現状の課題点を、時には歯に衣を着せずにズバっとやりとりをしていて、視座に富む時間でした。

“音楽未来会議 in 沖縄”(同名の書籍の出版記念イベントとして開催された)

今日も今日とて

 昼食をとりつつマーケティングスタッフとしてSNS用の投稿の情報を準備しながら、スタッフ用のチャットを眺めていると、今日も今日とて各会場のリハーサルは調整時間過大につき時間超過で進むスケジュール。昨日に引き続き連絡用のチャット欄も大渋滞中。今日も混乱は続きそう。(そしてこの混乱さえも慣れてきている自分にも面白さを感じてしまう)(*注)

SADOG(Taiwan)

 ミュージックタウン音市場1階ではじまっている台湾のロックバンSADOGを少し見ながら、胡屋十字路を渡る。交差点を渡る前から7th heaven kozaの 開場開演の待ち侘びる列が外の歩道まで延びているのが見えた。会場前に到着し、まだ開場が遅れていることがわからないまま並ぶ観客も多いかと思い、会場前で「只今の予定で7th heaven koza、開場は予定より45分遅れる予定です!」と叫んでみた。ショーケースライブであればー通常であれば、1組でも多く演目を見るため入場のために伸びた人の列は散開するタイミング。しかしアナウンスが終わっても並ぶ列の長さはほとんど変わらない。絶対見たいから移動しない、とチラホラ並ぶ列から聞こえてきた。頼もしいお客さんのメッセージに元気をもらう。

2回選出のプレッシャーと頼もしさ

 実は今回のMLFO2025、沖縄のアーティストだけに限らず、海外セレクションからも、日本のセレクションからも2回選出の演者が多数いたことが特徴的strawman & celineDelicious Grapefruits MoonJohnnivanさらさsnowyそして今からはじまるSPENSRだ。2回目は難しい。何が難しいか。観客の目が、他のアーティストとの比較だけではなく、昨年の自身の(都心のライブとは違う観客動員の多いとは言えないイチ地方の沖縄の)ステージとも比較されてしまう、初出演の人たちにはないハードルがある。それらの壁を乗り越えて、尚且つ国内外のデリゲーツにアピールしなければならない。

SPENSR

 プレッシャーと観客の期待を背負い、開演45分押しでのスタート。今回SPENSRはbandメンバーにキーボーディストも引き連れフルバンドセットでの登場。鍵盤の滑らかな高音のコードと低音のよく鳴るベースの音が入ることで音域の幅の広さが際立ち、昨年に増して音の立体的にハッキリとして聴こえる。昨年も聴いたはずのI Guess youがこれほど化けるか…。リズムの血脈を一層強く感じ、食い入るように見てしまった。SPENSRの歌声は演奏も相まって、リズムの留めと、ここぞというタイミングで絶妙にテンポ崩しながらも調和するグルーヴが心地よい。
サビで重ねられる高域のコーラスによって倍音が広がり艶も感じられる。昨年の初の海外公演ー台湾での音楽フェス出演や韓国のライブ出演が、SPENSR自身の自信となっていると感じさせる、より表現力に磨きがかかったステージだった。

見逃せない初来沖出演者

 続いてミュージックタウン音市場3階Tune Core Japanステージへ移動する。過去に下北沢で観て以来の久々のKingo(with The Vibrations)のステージの序盤。楽曲 Tonight, We Celebrateからのスタート、楽器チームThe Vibrationsの爽快な演奏の中、Kingoがステージに登場。rapのフロウとR&Bのグルーヴィなリズムでステージ狭しと巧みに行き来し、“一緒に踊っていくぜ沖縄!”とフロアに向かってダンスに誘う。ピースした指先で観客の目と自分自身の視線をジェスチャーで合わせ、見逃すなと言わんばかりの堂々としたステージ。たまたま私の隣には音楽フェス自体が初体験の小学生の男の子。生演奏の音圧に驚きながらも、目をキラキラと輝かせ飽きる様子も見せずに「かっこいい!!」と呟き夢中になってステージを見ている。幼い子どもにもストレートに伝わる程、純度の高い楽曲のパワーが感動的。なんとも華やかなステージだった。

Kingo(with The Vibrations)

 雨上がりの高い湿度の中、コザの商店街を移動し、Crossover Cafe 614へ到着。ソファに座り落ち着いて見たいなぁ…と思っていた期待的観測は見事に叶うことのなく、僅かな立ち見スペースの隙間に入り込む。シーケンサー、キーボードを巧みに操り歌を奏でるJun Futamataのステージ。バックのスクリーンには1曲1曲に合わせて作られた抽象的な造形の作り込まれた映像作品が絶好のタイミングで流れ、歌いながら、同時に歌声を観客の目の前で多重録音。声の音数をその場で増やし、どんどん空間的広がりを作り出す。さらには会場のCrossover Cafe 614の木造りのあたたかなイメージも合間って、彼女の透明感がありつつ壮大な歌声に吸い込まれていくようだ。楽曲あなたの骨が、オパールにかわる頃 (feat. Siggi String Quartet) では細くもピンとした緊張感に澄み渡る弦楽の音と、強靭なJun Futamataの声の芯の強さを感じつつも、空間的な浮遊感と安定感が両立している。一つ一つが芸術的。芸術のインスタレーションを見ているかのような美しいステージだった。

Jun Futamata @ Crossover Cafe 614

 Jun Futamataのステージを後にして、向かったのは7th heaven koza。先程みていたものと180°違った強烈なインパクトのある公演がこちらでは興じられていた。台湾から参加しているTickle Tickle 癢癢台湾の中でも特に10代20代前半の若い世代からの注目が高い男女混合バンドだ。

 MCでは1曲ごと中国語と英語を交えて丁寧に楽曲の解説が入り、楽譜スタンドに立てかけられたスケッチブックには楽曲の日本語名が一目みてわかるように案内され、めくりながらの漫才のようなスタイル。日曜朝の戦隊もののテレビ番組のような奇抜な衣装にも驚かされる。その見た目からコミックバンド的な要素が強いのかと思いきや、楽曲は80年代の日本歌謡的な、むしろ演歌的な郷愁をまとった楽曲が得意な彼女たち。バラード調の楽曲では観客にキャンディを配りながら場末のスナックのママのように観客とコミュニケーションをとって親しみやすさを魅せたかと思ったら一変、楽曲 牧羊人ê 報仇(日本語タイトル:羊飼いの復習)では歌とともに新聞紙を破りシャウトしながら楽曲に込められた激情を表現し、勢いそのままステージからフロアに突進!視覚と聴覚のギャップとインパクトが強烈。楽曲、コンセプト…色々なものがチグハグだが人情味のある(そのギャップがクセになる)不思議な魅力に溢れるステージだった。

Tickle Tickle 癢癢 @ 7th Heaven Koza

 

鹿洐人Human Hart (Taiwan)

 どんどんとステージを見ていく中で、日曜の夕方、今回のMLFO2025の会場の中で最もメインステージから離れたベニュー、パークアベニュー通りに位置するSLUMBARに到着。台湾から男女混合スリーピースバンド鹿洐人Human Hart。終盤のステージ直前に地下のフロアに到着。入った瞬間に厳かな雰囲気にこの数日感じたことのない異質さを肌で感じる。アーティスト紹介文に書かれていたパワー・ロックの言葉では納まらないずっしりとした重厚感を感じる静寂の中、楽曲 反方向がスタート。アコースティックギターで爪弾き、掻き消えそうに震えながらも内なる熱さを感じる歌が乗る。次第にベースが加わり、ドラムが刻み、スリーピースという最低限の人数で奏でるられているとは思えないほど、中盤に向かって音数がどんどん増えていく。わかりやすく例えるなら、さながらラヴェルのボレロのように。そこから終盤に向けバイオリンをはじめとしたストリングスが加わり重ねられ、歌も演奏もさらに激しくなる。クライマックスには人間の一切の刹那を歌に乗せるかのごとくさらけ出されるメロディ、そして重厚なエチュード。その雄大さに驚きと感動で立ち尽くしてしまうほど、圧倒のステージだった。

やはり気になる2回選出組

 フェス自体もいよいよ終盤。一つでも多くのステージも見逃すまいと、残り少なくなったステージを引き続き駆けながら移動する。Tune Core JapanステージはJohnnivanの終盤のノリの良いDanced Onceのピーク直前。ステージセッティング、照明のライティング、そしてバンドの演奏の全てが大迫力で飛び込んでくる。感情を爆発させ、はち切れんばかりのフロア。デリゲーツも音楽好きの観客も関係なくごちゃ混ぜになり、ある人は人差し指を天井に突き挙げ頭を揺らし、またある人はたまたま居合わせた隣の人の肩を抱えて、ステージ前方にかけより夢中になってステージにかぶりつく。後方で、腕組みをして、「ふむふむ、お手並み拝見」的な人が見当たらない。1つカウベルが鳴らされる度、タンバリンが掲げられる度に熱狂に包まれ、ゾーンに入ったかのようの会場内。うごめくグルーヴの塊になったようだ。昨年MLFO2024参加をきっかけに、韓国のフェス出演から韓国のイベントへの招聘、そして海外エージェントとの契約とスターダムを駆け上がらんとするJohnnivan。昨年以上の活躍を期待せずにはいられない大興奮のステージだった

Johnnivan @ TuneCore Japan Stage

 観客は〆のステージをどこの会場で見るか考えながら21時をまわっても八方へ分かれていく、私が足を運んだのは昨年のMLFO2024出演をきっかけに、モンゴルのPlaytime Music Festival、韓国のBusking Worldcup出演を決め、アジアに活動を拡げているイタリア&モンゴルの2人からなる男女ユニットstrawman. & celine。彼女らは今回フェスの出演だけではなく、楽曲制作のコライティング合宿への参加もあり、会期中大忙しのなか、この時間を迎えた。
 会場に入った瞬間、これまでみた他のアーティストのステージよりも相当、出力音量が絞られている。ー聞くところによると、Crossover Cafe 614は連日の賑わいに、strawman. & celineのステージ前に、騒音の注意のため警察が立ち寄り騒然となった場面があったとか。昨年出演の際も音響トラブルがあったstrawman. & celine、今年は万全の対策で臨んだであることを想像すると、少し報われなさに苦しくなる。…と思っていたが、怪我の巧妙とでもいうのか、軽妙洒脱。
 楽曲は、より神聖さが増し繊細で神々しさを感じさせるgobi普段から彼らの音楽はライブハウスだけに留まらず、ギターとバイオリンを携え、教会やカフェや園庭、海辺、ストリートと様々な場所での演奏を行うタフなスタイル。私の心配は杞憂でしかなかった。彼女たちらしい、陽だまりのような陽気さと軽快さはそのままに、就寝まえにゆったりと暖炉で寛いでみるかのような暖かくリラックスした時間を過ごすことができた。

HOME @ TuneCore Japan Stage

 そこからHOME、インドネシアのSUNWICHと見続け今年のMLFO2025は閉幕。…が、気持ちはまだまだ終わらない(終わりたくない)。翌日には、仕事を早々に切り上げMLFO2025で見ることが叶わなかった韓国のHOA、タイのFOLK9、マレーシアのSu San、インドネシアのLittlefingersを見るため、那覇のイベントに駆け付ける。私と同じくフェスを名残惜しむかのように駆け付ける音楽好きたちと共に、こちらも大盛り上がり。
 Littlefingersのライブでは“チームIndonesia”として女性2人組ユニットDVYが登場。MLFO2025でも見られなかった共演にありつくことができ、Su Sanは所狭しと黒蝶のように壇上でひらひらと舞い、甘くも悪戯な遊び心にあふれた歌声に、私の心は撃ち抜かれてしまった。どこか抜けているようでキュートなメロディとシンプルながらに陶酔感のある演奏のFOLK9にワクワクが止まらず、HOAの“ネオ・ビートルズ”の懐かしくも新しい、コンセプチュアルなステージにフロア中老いも若きも飛び跳ねざるを得ないダンサブルなステージを体感。(来年の参加を検討される方は、フェスの前後に開催される場外編イベントのチェックもお見逃しなく)まだまだ余韻に浸っていたいところですが、音楽ファンとしてのレポートはここまで、以下はスタッフとしてのお知らせです。

早速届いた嬉しいニュース

 MLFO2025が終わりおよそ2ヶ月。MLFOは、アーティストと国内外のデリゲーツのマッチングを目的にしたイベントです。その成果がこのレポートを書いている間にも、続々到着しています。
|  すずめのティアーズ “Stallion World Music Festival-MOTHER TONGUE”(4/17-25|中国|北京・上海)出演決定!
|  TOSH(band set)、Johnnivan “Savage Festival | 野人祭 出演が決定!
|  HOA(韓国)大阪で開催される“RE-VINTAGE JAZZ 2025″出演決定!
他にも、
| コライティングキャンプで制作された楽曲が順次リリース予定
| LAWIN(タイ)の日本ツアーにDelicious Grapefruits Moonが帯同
など、アーティスト同士のコラボなニュースも到着中。沢山のサプライズなニュースを受け取ることが、このフェスに関わった沖縄の音楽好きのご褒美です(アーティストのみなさん、良いニュースはどんどんMLFOにも情報共有を忘れずに!)今年も嬉しいニュースを参加した皆さんと共有できることを楽しみにしています。
 さらにお知らせ。今回、ミュージックタウン音市場2会場と、フェス中に収録したアーティストインタビューをYouTubeチャンネルhttps://www.youtube.com/@MLFO_official でアーカイブ配信を引き続き行っています。是非ご覧ください。
関わっていただいた皆さんとまた来年、沖縄の地で会えることを願って!

*注 開場開演が遅れた点については“誰”が原因という訳ではなく、トラブルなどをはじめ複合的に積み重なった結果である点はご理解いただきたい。

筆者紹介
サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛聴する、コラム・エッセイスト。 Music Lane Festival Okinawa 2025応援団
Instagramにて、邦楽アーティストとアジア圏のアーティストのコラボ(コライト)曲に特化した楽曲レビューを不定期更新中
カテゴリー Column / コラムNewsReport タグ .