前編に続き今回も2025年4月に台湾で開催された野人祭SAVAGE FESTIVALについてのフェスレポートをお届けします。(主催者蕭達謙Echo Hsiaoのインタビューはこちら)
台湾のフェス飯ってどんな感じ?
海外のフェス飯。食べられる?日本から持ち込んだ方がいい?食べられなかったらどうしよう…?などなど、不安になることもあると思います(わたしもそうでした)。今回の野人祭SAVAGE FESTIVAL、その心配は無用でした。日本好きの主催者 蕭達謙Echo Hsiaoに影響されてか知らずかはわかりませんがーおにぎり、餃子、焼きそば、唐揚げ、焼き鳥、キンミヤ焼酎?!…フェス飯の日本食率の高さにびっくり…!
もちろん、台湾ならではのグルメも堪能できる出店も多数あり、フードブースの前を通ると、ついつい足を止めたくなる良い香りにつられて財布のひもを解いてしまいそうに…今回のレポートを見て参加を検討された人は、ぜひ、来年参加する際に私が書いたことに嘘がないか、確認してみてください。きっと驚くと思います。
フェスレポートなのに、グルメの話から始まりましたが、後編は、1日目・2日目の出演アーティストの中から印象に残るステージをお届けしていきます。フェスの止まぬ雨と梅雨前の湿気をはらんだ暑さ、それに勝る音楽フェスの面白さを感じる様子をどうぞ!
Random隨性(ランダム)
昨年10月、来日ライブを行っているRandom隨性。台湾を拠点に2005年から活動するベテランロックバンドです。
己の立場やアイデンティティをはっきりと明示する姿勢をみせるバンドが熱狂的に支持される台湾ロックのシーンの中で代表格的なバンドのひとつに挙げられます。彼らは、台湾語*でモラトリアム、葛藤、がむしゃらに進んでいく泥くささを感じる音楽と、応援団か!と突っ込みたくなるほど夢中にシンガロングするファンの姿に魅せられました。一見使い古されたようにも感じるシンプルなコード進行やメロディでありながら(ベタだからこそ、ぐっとくる感じ、わかってもらえますか?)、メロ・サビ関係なく、全編斉唱のようにユニゾンが起こる観客。うねりを先導するかのように大きくギターとベースのヘッドが動き、演奏は雄大な音圧で迫って来、ボーカルの声はブレなくストレートに観客の耳に入ってくる。
ボーカルの力強くマイクを握りしめる姿に胸が締め付けられ、軽妙なドラムにつられてリズムを取る自分の踵がステージの良さを証明するかのよう。焦らして、溜めて楽器隊とボーカルがクライマックスにドン!(漫画ワンピースの効果音をイメージしてほしい)と、野外の空に向かって観客の歌声とステージの音が瞬く間に広がっていく様子は、自分の奥底に流れる、若いころの胸に秘めた熱い想いが込み上げてくるようでした。
*(台湾では中国語と台湾語は区別され、アイデンティティの表明のひとつとしても台湾語は大切に扱われています。うちなーぐちをアイデンティティとして大事に扱っている沖縄の人ならこの感覚はわかってもらえると思います)
honeydip
昨年12月に2003年以来20年ぶり(⁈)に活動再開した、日本のバンドhoneydipの初の台湾公演。過去リリースされたCDは海外のシューゲイザー好きの間でプレミア価格で取引され、このフェスも含まれた2025年春のアジアツアーは、ソールドアウト公演も出ている、海外フォロワーの多いバンドです。
日が暮れ、第2のステージ獅吼 舞台を改めて注視すると、排気用ダクトの内側に電飾が施され、ダクト内を電飾ネオンの光が乱反射し、特にステージ中央に飾られたオブジェはSF風な出立ちに。ステージ上だけ宇宙空間のようになったステージにスモークが焚かれhoneydipが登場した途端、わっと沸き起こる歓声とあたたかい拍手で迎えられるメンバーら。少し気恥ずかしそうに、何かマイクを手に取り話始めるーーことはなく、心地よく歪んだギターから始まり淡々と、しかし重厚感のある耳心地の良いメロディがどんどん紡がれていきます。
雨が上がりのすっきりと澄んだ空気が、とてもピュアな音楽空間をつくりだしなんとも綺麗。ゆらゆらと左右に肩を揺らしてしまう心地よいゆったり目のテンポから、ここぞという的確なタイミングで鳴らされる歪んだギターとベースに堪らなく嬉しくなり気持ちが落ち着かない。ボーカルの少し掠れた声で歌うスイートなメロディはなんと愛おしいのだろう。終盤に進むにつれてどんどんシューゲイザーらしい棘が取れ丸みを帯び、honeydipのメンバーの素の人間味のある音が観客に晒され、彼らに観客がチャンネルを合わせていくような、不思議な感覚の残るステージだった。
SKARAOKE
初日はあいにくの雨模様でしたが、2日目最終日は30℃に迫り春フェスならぬ夏フェスの様相。台湾の友達と、次は何を観る予定?などとプランを考えていると、聞き馴染みのあるメロディと歓声が1番大きなステージから聴こえてきた。台湾のSKAバンド、SKARAOKEが約15年前に沖縄のバンドAll Japan Goithとリリースしたコラボアルバムに収録されているRun Formosaだ。遠目からもトロンボーンやサックスなどのホーン隊が目にも楽しく楽器を左右に振りながら演奏しているのがわかる。観客は前日までの雨で泥だらけの足元の中、ズンチャ・ズンチャ、と軽快な裏拍のリズムで楽しそうに揺れているのが見え、サクライはいてもたってもいられず、ステージ前に駆け寄る。少し戯けた様子でならすトランペット。歯切れの良いカッティングを刻むギター。そして少し余裕のある、踊るための隙間を持たせたSKAのドラムのリズム。台湾のフェス独特のお立ち台に入れ替わり立ち替わり立つメンバーのひょうきんな決めポーズにクスッとしてしまう。そんなファニーな雰囲気の中、客を盛り上げながら、貫禄あるテナーの聴き心地のよいボーカルのメロディは、底抜けに明るいSKAの音楽の良さを存分に味わえる満足感のあるステージだった。
百合花Lilium
彼らの話をする前に、少し前置きを。去年台南に行ったときに私が大層驚いたのが“廟のお祭り”と言われる廟会の様子。台湾では、毎日がどこかの廟に祀られている、どこかの神様の誕生日でお葬式。廟会では北菅と呼ばれる伝統的なテンポの早い中華的な音階の伝統的な音楽が流れ、鮮やかな獅子舞や龍舞が練り歩く様子が生活の一部となって根付いている。台湾の人たちにとっての当たり前の音。流行を追いかけたい若い人にとっては古臭く感じることもあるだろう。
百合花Liliumの話に戻ろう。彼らは、オルタナティブロックと、台湾の伝統音楽を巧みに融合してポップスやロックで鳴らす男女3人組バンド。文字にすると平凡にも見えてしまうだろうし、伝統音楽のキーワードに、ワールドミュージックとしての癒しの側面を想像した人がいたらば、それは不正解。ライブは驚くほど挑戦的で動的だ。琵琶とクラシックギターの中間のような特徴的な音色の台湾の伝統楽器 月琴と、エレキギターを交互にかき鳴らし、聞き心地の良い叙事的なポップスのメロディが奏でられる。そこに時折台湾オペラ 歌仔戯のような発声で歌われる印象的なフレーズが挟み込まれ、台湾の日常に馴染むメロディが交錯する。(台湾の人にとっては)嫌というほど聞き慣れた古風な音が、伝統的な発声のまま雪崩れ込むシャウトと美メロでアップデートされ、革新的な音になり、幅広い世代の観客は腕を挙げ熱狂する。オルタナティブと言うよりアバンギャルド、という方がしっくりくるほど、伝統楽器の音とメロディは音符の上を暴れまわり、リコーダーやトライアングルを鳴らして更に煽る。鳴るドラの音が歓声でかき消されるほどの熱狂を、フェス前には想像していなかった。台湾らしくも激しいロック、新しいジャンルを体験できた40分だった。
Johnnivan
今年1月のMusic Lane Festival Okinawa 2025で、当フェスの出演を射止めた東京を拠点に活動する多国籍バンドJohnnivanは、今回が台湾初ライブ。そんな彼ら、ステージに登場し“大家好 (ダージャーハオ)!We are Johnnivan !”と両手を広げ第一声。その声に即発するかのように黄色い歓声が沸き起こる。本当に初ライブ?! と思うほどの反応の良さ。
ステージが始まる前にとあるお客さんに話を聞くと、東京の好きな愛好家のコミュニティでは必ず名前が挙がっていて、待望の来台!と話をしてくれた。ワクワクした雰囲気が会場中を包む中、1曲目に披露されたのはJohnnivanの楽曲の中でも1、2をあらそうダンサブルな楽曲Dance Once。気合い・気迫をパワーに変えてのっけから全力で観客を躍らせにきた演奏にニヤニヤしてしまう。それに「まってました!」とばかりに、別のステージ終わりに駆け付けた観客も加わり、どんどんオーディエンスが膨らんでいく。ステージ前方にいても、次第に踊るスペースが狭くなっていくのを体感できるほどに。ギターのJunsoo Lee は台湾のフェス独特のお立ち台も上手く使いこなし、お客さんの反応も上々。
次にどんな音が飛び出すか、クイズを出されているような胸がそわそわする感じと、自分の期待する展開が解答のように提示されたときに身体にながれるアドレナリンが病みつきになる。
何が起こるかわからないミステリアスでダンサブルなパフォーマンスで観客はさらに熱気を帯び、楽器隊の演奏はセッション力の高さと、相変わらずの差し引きの塩梅の良さが心地いい。終盤にはJohnathan Sullivanのタンバリンが鳴らされる度、拳が高く上がるたびにさらに高い周波数の音が観客から発せられる。終演直後には「また台湾でライブがみたい!」「いつ来るの!」と湧くオーディエンスに、最高の台湾初ライブの好スタートを感じられるステージだった。
TOSH(band set)
リハーサルからお客さんが踊っている。リハ―サルなのだから、もちろん本番のため調整中で、音が度々止まるわけだが、リハーサルで止まる度に少し不満そうに、早く音を鳴らしてくれと言った雰囲気で踊る準備万端な人が至るところに。ステージ後方の小高い有休スペースにも続々と人の影が増えていく。そんな最中、私はある一人の男性に声をかけられた。“日本から来た方ですか?私は沖縄のTOSHのステージを応援したくて、バブルガンを用意しました。シャボン玉を出すタイミングを一緒に考えてほしい”− 唐突な彼のお願いに私は豆鉄砲くらったような顔になりながらも、どんなタイミングが良いかと一緒に考える。実は台湾の音楽フェスは推しのステージを応援しようと有志がフラッグを挙げたり、彼のようにシャボン玉を準備して応援する文化がある(百合花Liliumの時のファンのリコーダーもこれ)。彼もその準備をしてステージ前に来ていた。でも、なぜ?と尋ねると彼はこう答えた。「2023年の台湾のショーケースフェスLUC fest 貴人散歩で彼の演奏を見た。台湾に来てくれるのをずっと待っていた。ステージのささやかなサポートがしたい」と。そんなこんなで他にも台湾現地の人と話をしていると、ラテンのリズムのフェスのジングルが鳴り始めた。始まる前からダンスフロアのごとく湧いているステージにTOSH(band set)が登場。軽妙なギターフレーズに乗せて「Are you ready? 野人祭 SAVAGE FESTIVAL!!」と咆哮しスタートを切った楽曲はなんと、未発表曲のAnother Life。予想外のスタートに驚きを隠せない(さっきから驚いてばかりだ)。前述のJohnnivan同様、1月のMusic Lane Festival Okinawa 2025出演時に即、フェスの出演のオファーをうけた沖縄県在住のSSWである彼の新基軸のバンドセットは、DJセット時のエレクトロ色の強いダンサブルな作品とは一線を画し、心臓から血管をドクドクと流れる脈動のような生感を持ち、かなり前のめりなエネルギーに溢れている、真っ直ぐなオルタナティブロック。
新たなアレンジによってスタジアムな雰囲気を纏い、懐かしさを感じる90sロックが、現代の音で再構築され、目の前に迫力ある音となって出現する。Shogo Takatsuの紡ぐシンセの音が一層、楽曲のドラマチックさを際立て、ライティングに反射するシャボン玉もステージに華を添える。最後に披露されたLET IT GOではダイナミックなドラムのリズムに観客だけではなく、メンバーたちも安心して身体を預け、ステージパフォーマンスの一挙手一投足に反応する観客のエネルギッシュさに夢中になる。奇声に近い声が曲の要所要所でステージに投げかけられる熱狂のステージ。終演後は、かなり長い時間、メンバーにアンコールをせがむ声が続いていた。それは別の場所のステージが始まっても止むことはなかった。
蛋堡 Soft Lipa
“今日は誰を見に来たの?”フェスで良くある会話。その答えに今回の私は迷うことなく「蛋堡 Soft Lipa」と答えた。そして誰しも、「そうだよね!彼のステージが見れるなんて本当にラッキーだよ!」と相槌が返ってきた。今回のフェスのヘッドライナーであり、台湾のヒップホップシーンでは欠くことのできない重要人物、それが蛋堡 Soft Lipaだ。
ジャジーヒップホップと呼ばれるJAZZの要素の強い、スムースで大人っぽいサウンドと、日常の中のふとした感情の機微や、哲学的な一面を感じさせるフロウを得意とし、台湾で絶大な人気を誇る。彼のライブは、音楽が鳴る空間を徹底的にプロデュースするため、アリーナ即日完売クラスの人気でありながら、とても小さな会場でしかライブを披露しない(もちろんチケットは争奪戦だ)。フェスの出演者に彼の名前があること自体、台湾の音楽好きにとってビッグニュース、なアーティストである。
5千人以上を収容できる1番大きなステージ虎嘯舞台はフェスの締めくくりとは考えられないほど、ステージ上は凪ている。一方、観客スペースは今か今かと沸るお湯のような興奮に包まれており、ステージの上と下の隔たりがとても風変わりな感覚を覚える。リハーサルが終わりほどなくして、暗がりからサングラスをかけた蛋堡 Soft Lipaがステージに登場した。
スクリーンにはアーティストロゴのみが映し出され、特大ステージとは思えないほどシンプルな、DJ、MPCの前に立つラッパー、フルート奏者の3人だけの構成。賑やかな音楽フェスの雰囲気の中で、質素なほどの飾りっけの無さだ。ステージが始まると、非日常だった音楽フェスの空間が、ステージの背後に聳え立つ、高層団地の灯と融和し、みるみるうちにステージ空間が拡大していく。(フェスの非日常の中に、日常が広がっていく不思議な感覚)
“実はこの後ろの高層マンションのどこかひとつに、僕が住んでいるんだけど、普段は煩わしさを感じる公園の騒音、今日はそうでもないよね。こんな素敵なフェスを開催してるのだから。たまには騒がしいのも悪くはないなと思ったよ。”とユーモアを交えて話をする。
DJは要所要所に往年の人気曲のサンプリングを絶妙に挟み込み、フルートは曲全体の雰囲気をコントロールして、曲ごとに軽やかさや儚さ繊細さといった表情をつける。そこに乗るラップは親近感のわく等身大さを持ちつつ、リリックには羨むほどのスタイリッシュ。そのスマートさに観客は益々興奮を高めていく。彼の歌は平生さが過度な華美さを覆い被さり、日常の素晴らしさを思い起こす感覚になる。
中盤、MPCのそばを離れ、マイクを持ってステージ幕前に立ちラップを披露する蛋堡 Soft Lipa。ステージの最前面に立っても彼には照明が当たらない。ここまでくると意図的に照明に当たらないようにしていることに誰しも気が付く頃合いだ。明かりがつかないとわかっていても、心地よいビートとフルートの音色、蛋堡 Soft Lipaの姿をはっきりと拝みたい観客はもどかしさを募らせ、その焦ったさに口ずさむ歌のボリュームが上がっていく。これまで経験したことのない感覚のステージだ。
最後の曲前のMCで彼はこう続けた。
“難局を乗り越え、フェス開催にこぎつけたFESTIVALスタッフにみんなからも盛大な拍手を。良いフェスだね。”
そして最後に披露したのは、音楽ファンに支持される楽曲、日本のインストバンドJABBERLOOPとのコラボ曲でもある「過程」だ。特徴的なJABBERLOOPのピアノとホーンの音が流れた瞬間、屋外の空間が一斉に揺れたように感じる程の大ボリュームの歓声が上がる。“過程は風景、結果は絵葉書”と歌うこの曲を、ステージ前を離れステージ後方で野人祭 SAVAGE FESTIVALのブッキングマネージャーのRanieの側で聴いていた。彼女はこの曲をききながら
“(【台風の振替公演の】浪人祭 Vagabond Festival6.5 屆 &と野人祭 SAVAGE FESTIVAL、2つのフェスのドッキング開催は)本当に本当に大変だった。難題しかなかったけど、彼の言葉を聞いて、この(観客の笑顔溢れる)景色を見て、本当にやってよかった。報われた。”と綻ばせながら話をしてくれた。
非日常が日常に戻るとき
会場の音止め22時、余韻に浸るかのように、帰り道で蛋堡 Soft Lipaの楽曲トラックでフリースタイルラップの輪ができる…が、誰もかれもフェスが終わった感動で高揚しユニゾンになってしまい、斉唱の輪になってしまう。バトルはできずとも今日のこの場を共有出来た仲間として肩を組み口ずさむヘッズ達。すごく良い風景だ。
野人祭 SAVAGE FESTIVALを2日間体験して、強く感じたのは、新しい音楽に素直に楽しめるお客さんが多かったこと。“推し”のステージに注力するのではなく、面白い体験への感度の高い人が集まる、新しいもの好きこそ、楽しめるフェスだと思った。もう1点は月曜日朝の憂鬱さより、月曜からまた頑張ろう、と元気を貰えるフェス(つまり超おすすめなフェス)でもあるということ。インディー音楽の良さを引き出すことに長けているので、インディー音楽好きはぜひ来年の情報公開をお楽しみに。非日常を演出し、日常に還っていく不思議な感覚になるフェスに、私もまた次回、この場に来れることを願っています!
写真協力:笨道策展有限公司 https://www.youtube.com/@DustpannerMusic
サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛聴する、コラム・エッセイスト。 Music Lane Festival Okinawa 2025応援団
Instagramにて、邦楽アーティストとアジア圏のアーティストのコラボ(コライト)曲に特化した楽曲レビューを不定期更新中