コザの天ぷら【コツのいらないアジア音楽】34 番外編
【Interview】
蕭達謙 | Echo Hsiao
(浪人祭Vagabond Festival&野人祭SAVAGE FESTIVAL主催/Chief Curator)

定型化された音楽フェスの型からはみ出して
よりワガママに、私達らしいフェスを作り上げる。

インタビューされた人:蕭達謙 / Echo Hsiao
インタビューした人:サクライアヤコ / Sakurai Ayako
通訳:Sonny Chang
協力:野人祭SAVAGE FESTIVAL

蕭達謙Echo Hsiao"1つ1つが「私の作品」です"

蕭達謙 / Echo Hsiao(写真提供:SoMo Club 電動スクーター)


湾を代表する音楽フェスティバル浪人祭Vagabond Festivalと、今年2025年4月に台北市のキャンプ場 華中河濱公園で開催された野人祭SAVAGE FESTIVALの主催者である蕭達謙Echo Hsiao(以下Echo)は、野人祭SAVAGE FESTIVALフェスティバル中に突如出現したカーニバル(野行巡遊)を、「私の作品」だと言った。その意味を舞台裏でスタンバイする龍舞ならぬ白蛇舞の丁寧に凹凸で施された蛇の鱗模様、手染めの尻尾のグラデーションがかった色を見、実際、フェスティバルの会場で演目を体験し、彼の言わんとすることを理解した。

Echo "年10月に台南市で開催される浪人祭Vagabond Festivalは私の大好きな漫画「バカボンド(作:井上雄彦)」を由来にして名付けました。特徴を挙げるとすれば「のそばで開催される」「全方向に開かれたフェスティバル」であり、特に台湾の音楽で流行しているジャンルー今でいうとパンク・ファンク・ヒップホップなどと、アートの要素が強化されているフェスティバルです。その対となるのがこの「野人祭SAVAGE FESTIVAL」です。「の中で開催され*」「よりインディーズバンドに焦点をあて」「カルチャー、特にサブカルチャーに特化」し「何より主催者側がもっと楽しむ」と位置づけています。今回の野人祭SAVAGE FESTIVALを盛り上げる秘策であり目玉が、前述のカーニバルです。"

色の提灯を掲げ・黒色の法被を羽織り・サンバのリズムを軽快に鳴らすジャンベや、甲子園のブラスバンドのような口ずさめるメロディを奏でる鼓笛隊に、チアリーディングで高々と掲げられるフラッグ。夕方16時発のパレードは、会場を繋ぐ通路を観客を巻き込み練り歩く。「一緒に踊ろう!参加して!」とダンサーたちが美しくも人懐っこくモダンダンスを踊りながら手招きしたり観客の手を引いたり、群体の中に引き入れる。目があったが最後、音が止まるまで人々は踊り続ける。羞恥で足が竦み動けない観客には振舞い酒が瓶から直接口に注ぎ込まれ(飲めない人には飴が振舞われる)仲間に誘われる。お酒の勢いも相まり勇気を出して隊列に入る人、友人もろとも巻き込みステップを踏み始める人、この饗宴を見逃すまいとカメラに必死に収める人、文字では言い表せられない魅力的な時間が60分あまり続く。どれほどの威力があったかというと、お目当てを近くで見たいファンー所謂ステージ地蔵が全ステージ前から居なくなるほどだ。作品と言わしめるこだわりが随所に散らばったインスタレーション。もちろん、Echo もその輪の中で提灯を掲げ拡声器を持ち、囃し立てて一緒に作品を作り上げる。

 

こだわりが随所に散りばめられたカーニバル

 

サクライ(以下S) "実際に、初日の昨日、カーニバルに参加しました。お祭り感がたまらなく愛おしく、思わず踊らずにはいられない楽しさに魅了されました。もちろん、最終日の今日も参加します!"


Echo
 "れこそが狙いです。観客も一緒に参加して楽しむ。それを野人祭SAVAGE FESTIVALのカルチャーとして打ち立てていきたいのです。実は、初日の段階でとても好評で、ぜひもうひとつの音楽フェスティバル浪人祭Vagabond Festivalでもやって欲しいと声をかけられますが、「絶対にやらない!」この楽しさは野人祭SAVAGE FESTIVALだけのものです"

しいたずらっぽく微笑むEcho。さらに話は続く。

Echo
 "れは私にとって実験・チャレンジでもあるのです。1つ1つがそのフェスティバルに合わせた“作品”なので、規模・知名度で勝る浪人祭Vagabond Festivalであろうと、移植する予定はありません。これらの作品はリリースしたら今回限りではなく、どんどん進化発展させてより面白い企画にしていきたいという想いがあります。”
S "カーニバルはまだ完成形ではない?(こんなに楽しいのに⁈)"

観客参加型のアクティビティ。音楽フェスなのにアクティビティ申し込みにも観客が殺到する


ェス中には、カーニバルだけではなく、アーチェリーの矢で敵陣のチームを攻撃しつつ、矢をゴールポストへ投げ打つことで勝敗をかける萬箭穿心・弓箭大賽や、個人戦・団体戦で行われるチャンバラ大会 一劍入魂・劍術對など様々な観客参加型のアクティビティが用意されており、どのアクティビティも、観客は我先にと申し込みが殺到。トーナメント表は瞬く間に埋まり受付を終了していた。

Echo
 "ちろん!これからもっと進化していきます。カーニバルへの参加を含めた新しい発見ーそれは海外アーティストを見る機会を提供することであったり、自主的に観客がアクティヴィティに参加することだったり、そして何より、音楽の面の軸となる沢山のインディーズバンドの音楽と観客が出会えるように、様々な発見を作っていく場として大切にしていきたいと思っています"


Echo "音楽フェスティバルには(ライブハウスとは違い)必ず観客がいます。"

S "れは自戒も込めてですが、日本の音楽シーンは新しい音楽を求めるリスナーのパワーダウンと言うか、既存のものの中で満足してしまっている音楽愛好家がすごく増えている気がしています。新しい音楽を積極的に体験したがっている台湾の音楽愛好家の姿をどれだけ鮮明にイメージしていますか?"

ずかに表情が曇りながらも、ありのままを伝えようとしてくれます。


Echo
 "10年ほど前、印象的だったのは2015年です。その当時の台湾の音楽リスナーは自分自身がどんな音楽が好きなのだろうと、ゼロベースで新しい音楽に触れていて、勢いがありました。ですが、やはり近年は日本と同様、好きなバンドしか聴かないという傾向を現在の台湾にも感じています。私が音楽祭を主催する目的は、好きなバンドを見るついでに、他のステージでインディーズの新しいアーティストに出会ってほしいという想いです。興行的には売れているバンドだけで揃えることも出来るでしょうが、私は新しい音楽と出会ってほしいという想いが強いので、浪人祭Vagabond Festivalや野人祭SAVAGE FESTIVALのような独特なラインナップになっていると思います。売れている・ポップなバンドも一定の割合でブッキングしますが、観客に新しく出会ってほしいアーティストにも(他の音楽フェスティバルと比較しても)かなりの割合で出演してもらうのはそういった理由です。機会を作ることでその新しい音楽との出会いのきっかけにしてほしい。これから羽ばたくバンドに目を向けてもらいたい、という気持ちをモチベーションにしています。"

TOSH(band set)

今年1月沖縄で開催されたMusic Lane Festival Okinawa 2025で見いだされ、当フェスへの出演が決定した沖縄のTOSH(band set)と日本のJohnnivan

S "浪人祭Vagabond Festivalや野人祭SAVAGE FESTIVALが愛される理由のコアな部分を知ることができた想いです"

Echo
 "校生の時からインディースバンドを聴き始め、30代になった今、インディーズバンドの灯を消さないために、自分の青春を捧げたインディーズバンドへの熱い想いを、若い世代の観客に届けること、台湾の音楽フェスティバル業界に身を置く自分にとって責務だと思っています。若いインディーズバンドは(ご存知の通り)すぐにはライブハウスで単独公演はできません。ですが、音楽フェスティバルは違います。必ず観客がいます。多かれ少なかれお客さんがいれば、聴かれるチャンスは必ずあるんです。"
 2日間のフェスティバル期間中、彼は会場の至る所で観客からの呼び止めに応じツーショットで写真に収まり、歓談する。適当にあしらうこともせず、話す相手の真正面に据えて立ち、自分のフェスティバルにかける想いを一人ひとりに伝える。その姿を本当によく見かけた。多忙な音楽フェスティバル主催者らしからぬ、友達のような親しみやすさ、人となりも含めて、沢山の聴衆が彼の想いにも同調し、惹かれてここに集まるのだと感じた。ここで、1つエピソードを紹介しようー昨年の台風に伴うフェスティバル延期の告知、それが行われたのは、なんと前日深夜の日付が変わる直前!開催数時間前だった。日本国内だとしたら炎上しそうなこのギリギリの判断、このとき、炎上どころか彼のSNSのコメント欄は応援のメッセージであふれかえっていた。

チケット購入を呼び掛けるEcho

そんな彼は今回、チケット販売不振を察知し、開催ギリギリまで自ら現場でメガホンを持ち呼びかけた。楽しいばかりではない主催者の「困った」「助けて」も包み隠さず曝け出す姿と、彼のため一肌脱ごうと協力するたくさんの音楽愛好家の姿。その様子は日本のフェスティバルではなかなか目にするものではなく、とても新鮮に映った。

Echo "私は、自分の想いをチームや仲間に伝えることが、得意です"

S "年10月台風の影響で浪人祭Vagabond Festival**の初日延期(参照:コザの天ぷらVol.25)、そして振替公演が今回4月、野人祭SAVAGE FESTIVAL 前日の開催となりました。実質2つのフェスティバルのドッキング開催となったことについてお伺いします。労力を考えたら10月は中止の上、混乱を避けるため、全日程払い戻しという選択肢もあったと思います。(3日間の内の)1日だけ振替公演、チームスタッフから反発はなかったのでしょうか?"

Echo
 ”人祭Vagabond Festivalを心待ちにしている人、誰1人として全日程中止という判断で悲しませたくはなかったのです。私は、自分で言うのもなんですが、自分の想いをチームや仲間に伝えることが、他の人と比べて得意です。私の想いをチームに漏れなく伝えあげて、目的達成のためチーム一丸となって立ち向かいました。そして人件費の問題、ステージや音響機材の問題をはじめとしたコストの面から今回は2つの音楽フェスティバルを連続で開催するチャレンジを行うことにしました。2つのフェスティバルを連続して行うことで、新たな課題も出てきました。並べたことでどちらか一方のフェスティバルが見劣りするようではいけないと思ったので、実は2025年の野人祭SAVAGE FESTIVALは例年に比べステージ、アーティストラインナップ共にとても豪華になったと思います。正直いって頑張りすぎたところはある(笑)コストの面は笑えないほど(笑)"
S "…ということは、次回以降、野人祭SAVAGE FESTIVALは規模縮小もありえるのですか?"

Echo
 "浪人祭Vagabond Festivalはより大きな目標をもって、海外アーティストの招聘や、アートなどの異なるジャンルとコラボを行い、海外のお客さんも台湾に来て参加してもらう、より開かれたフェスにしていく予定です。まだ企画段階ですが、日本で浪人祭Vagabond Festivalのスピンオフ企画も準備しています。
一方、野人祭SAVAGE FESTIVALは私たち主催者自身がワガママに、自分がやりたいことを追求するフェスティバルにしていくつもりです。もう1人のブッキング担当のRanieと、世間に見つかってほしいバンドやアーティストを目一杯、招聘したり、私の新たな作品を発表する場にしたり、ね。私の好きな日本のカルチャーをもっと取り入れたいし、やりたいことを実現しやすくするため、意図的に規模は縮小することは考えている。プロトタイプはスモールスケール、実現可能な規模から成功体験を積み上げていくことが大切だからね。"
S "りワガママに、という部分に、探究心と企て心を感じる、興味深いお話をありがとうございました!"
*旧来の開催地は台北郊外、台北微遠虎山の山の中であった
**2024年の浪人祭Vagabond Festivalは、3日間通し券のみの販売

≪インタビューされた人≫
Echo Hsiao

写真提供:SoMo Club 電動スクーター

2019年3月に「笨道策展有限公司」を設立。浪人祭Vagabond Festivalならびに野人祭SAVAGE FESTIVAL主催兼チーフキュレーター。大小様々な人気音楽イベント制作を行い、音楽スタッフの育成にも積極的に係わる。台湾祭、金牌創世代、桃園鉄玫瑰熱音賞、大団誕生、金音創作賞など、さまざまな音楽関連のイベント審査員も務める。
音楽フェスティバルを通して、エコフレンドリー活動やビーチクリーン活動の推進など、積極的に環境に優しいアクションを起こしている。
浪人祭Vagabond Festival2024

 

野人祭SAVAGE FESTIVAL2022

≪インタビューした人≫
サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛聴する、コラム・エッセイスト。 Music Lane Festival Okinawa 2025応援団
Instagramにて、邦楽アーティストとアジア圏のアーティストのコラボ(コライト)曲に特化した楽曲レビューを不定期更新中
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