沖縄に詰めかける世界の音楽業界人と、音楽好きの祭典
今回は、2026年1月30日〜2月1日に沖縄市コザ・ミュージックタウン音楽広場とその周辺ライブハウスで開催された音楽フェスティバル「Music Lane Festival 2026」(以下MLFO)について、前後編でお届けします。
国際ショーケースフェスティバルという、日本ではまだ少し珍しい形式の音楽フェスであるMLFO。出演アーティストも、招待された“デリゲーツ”と呼ばれる各国の音楽のプロたちも、世界中から新しい音楽との出会いを求めてコザの街に集まります。
初日に開催されたオープニングパーティーでは、石垣島出身の三線唄者・新良幸人と宮古島出身の下地勇によるユニット「THE SAKISHIMA meeting」による英語での“乾杯”から、和やかな空気の中、今年もMLFOが始まりました。
例年通り、のっけから会場は活発な会話で溢れています。ただし、今年は少し様子が違いました。前週にタイで開催されたショーケースフェス「Bangkok Music City」の影響もあり、アジア各地から集まったデリゲーツたちの話題は、そこで観たアーティストのことでもちきり。
その会話の輪に割って入り、自分をアピールし、翌日からのステージに足を運んでもらう—それが出演アーティストにとっての最初の勝負です。
一般のお客さんと業界人がごちゃ混ぜで観覧フロアに立つこのフェスでは、「ライブが良かった」だけでは本来の目的を達成できません。アーティスト自身がビジネスの視点を持ちながら、自分の魅力をプレゼンし続ける。少し難易度の高い場所です。
最初は戸惑っている様子のアーティストもいましたが、お酒の力も借りながら、時間が経つにつれて距離は少しずつ縮まっていくのを感じました。沖縄の街の持つ親しみやすさ、MLFO特有の人と人の近さが、会話をビジネスからもう一歩踏み込んだものへと少しづつ変化し、いつしかお腹を抱えて笑い合う姿もみられるほどに。
私はというと、以前から「日本に来て!」とラブコールを送っていたフィリピンのバンド“ONE CLICK STRAIGHT”のメンバーを発見し、すかさずSNS用の動画を撮影。目が合ったミュージシャンには次々に声をかけ、「沖縄に来てくれてありがとう!」と感謝を伝え撮影していきました。
ご協力いただいた10組以上の皆さま、本当にありがとうございました。
気づけば21時。熱いプレゼンと歓談の時間はあっという間に終了予定時刻に。けれど会場の熱は簡単には冷めません。提灯の灯りの下、居酒屋へ消えていくグループや、個人リハーサルのため急いでホテルへ戻る人、コンビニ前で語り合い始める人たち(笑)。それぞれが今年のワクワクを胸に、スタートを切ります。
ナイトイベントの野心とグルーヴに浮き足立つ夜
街中の様子を伺い私が向かった先は、フェス会場の一つであるSLUM BARで開催された公式ナイトイベント“bridge”。入り口から溢れんばかりのデリゲーツとMLFO出場者の人波の隙間を縫い、東京から毎年来ている友人や、先ほど仲良くなった人たちと合流し、グラスを傾けてステージを楽しみました。
まだライブ本編は始まっていないのに、期待と熱気が蠢いている。何かが始まる期待に溢れた、あの少し浮き足立ったグルーヴは幕開けにふさわしい一夜でした。
今年は本編だけでなく、前後1週間にわたって番外編イベントが街の至る所で開催され、「どのイベントに行けばいいの⁈」と嬉しい悲鳴が出るほど。地方都市ではなかなか味わえない、贅沢な悩みです。
出演枠がなくても、デリゲーツの来場に賭けて企画されるこれらのイベントには、本編とはまた違う野心や勢いがありました。それも今年の大きな特徴だったと思います。
夢が、具体的な言葉になる瞬間
2月の沖縄はプロ野球キャンプシーズン。空港も道路も混雑気味。渋滞の中、少し遅れて到着したミュージックタウン音市場のホワイエでは、デリゲーツと出演ミュージシャンによるSpeed Meetingが佳境を迎えていました。
海外展開のヒント、音楽配信戦略、フェス出演の可能性——英語が飛び交う真剣な会話。盛り上がったグループは、そのまま沖縄料理屋でランチをとりながら延長戦へ。夢を現実に近づけるための会話が、具体的な言葉に変わっていく空間が続きます。ここから、今後何組のアーティストの海外展開が生まれるのか、今から楽しみです。
ホワイエを後にし、私は奥のスタジオブースの様子を観察しに向かいます。こちらにはコライティングセッションに参加するチームが続々と集合を始めていました。昨年から連続参加の台湾 林潔心ddkogi88チームは、私がスタジオにお邪魔した時間は、歌詞の世界観について、日本チームと細かいニュアンスを歌詞に反映させるべく、ボディランゲージを交えて制作中。他のスタジオもメロディや、コードについて時たま笑い声が聞こえそうな程、良い雰囲気で楽曲制作を進めていました。
30分一本勝負のショーケース
沖縄といえば、のタコスとタコライスで腹ごしらえを済ませ、コザの街を歩き回ります。午後はいよいよショーステージへ。
まずは昨日のオープニングパーティーで乾杯を務めた沖縄のTHE SAKISHIMA meetingから!海外から来たデリゲーツにとっても、県外から来たお客さんにとっても「沖縄」を強く感じるお二人のステージです。会場であるCrossover Cafe 614は2人の熱心なファンも詰めかけ大入りの賑わい。みゃーくふつ(宮古方言)と、やいまむに(八重山方言)で歌われる言葉に耳に新しく、さらにラテンやサンバといったリズムや沖縄オールドスクールな音をギターと三線でミックスして、予想外の音響トラブルまで華麗にMCやフリースタイルの演奏に仕立て上げ、ずしんと構えた貫禄あるステージ。ソファでゆったり観るはずが、思わず前のめりになるほど夢中になりました。
ショーケースの持ち時間は30分。観客もデリゲーツも次々に会場を移動します。落ち着かない空気の中で、出演者はステージに自分のインパクトを残すことが求められます。
ミュージックタウン音楽広場から1番離れた会場であるSLUM BARでみた、MAINAMINDのステージは象徴的でした。地下に降りる階段から重い防音のドアを開けた瞬間、まだ薄暗い中で観客と談笑しながら歌っている音が聞こえてきて、照明トラブル?かと思いきや、リハーサルから本番までの時間に少し余裕がありもったいないからと、リハーサル時間も手元のパソコンから楽曲トラックを鳴らしながら本番開始時刻までのカウントダウンの掛け声とともに興即演奏。なにその度胸!と関心してみていると「時間になったね!始めていきまっしょう!」の掛け声と共にパッとライトが点灯され、空気が一変。彼女自身のもつ持ち前のキャラクターギャップで一層際立つ華やかさに目が奪われた。
彼女のステージではお馴染みの小道具(大道具⁈)である脚立を効果的に利用し、のぼってステージ後方まで見渡してみたり、リハーサル以上に客を盛り上げ歌ったかと思えば、少しスローなテンポの楽曲は脚立の上に膝を抱えて切なく歌う。かと思えば所狭しとマイクを握り歌いながら力強いストリートダンスを披露。エネルギー溢れるステージに、すっかり元気をもらいました。
そこから商店街パルミラ通りにあるCrossover Cafe 614に戻りBangkok Music City帰りのSOMAOTAのステージ。
この日、突然彼のSNSの投稿には、昨年コラボ曲をリリースした台湾のSSW、羊駝小姐 Malpacaが急遽彼のステージにゲスト出演するというサプライズ告知が!そんなお宝級のステージを控えながら、かなりリラックスしたモードでのリハーサル。そこから流れるように本番のステージが始まった。心地よいJAZZやファンクなどのグルーヴも感じさせるトラックに、良い意味で肩の力の程よく抜けたラップが心地よい。ヒップホップの厳つさを感じず、むしろヘルシーな雰囲気と温かさを纏った作品群が披露され、さらには羊駝小姐 Malpacaとのコラボ曲で彼女のウォームドな柔らかい歌声に心がほぐれていく感覚に。ヒップホップの間口を広げてくれる安心感と、すっと作品の世界観に浸れる豊潤なステージでした。
胸いっぱいになりながら、会場入り口にあるリアルタイム進行表を確認すると、ミュージックタウン音楽広場の開場がなかなか始まらないことに気がつく。何が起こっているのかと現場に向かいます。音響トラブルに対応するスタッフ、不安そうなアーティストの表情を目にしました。
初日は、毎年参加している私さえ想像を超える長時間の遅延が発生しました。
前回のコラム「Music Lane Festival 2026 初心者ガイド」で、私は次のように書きました。『チケットが一般的なフェスより良心的な価格なので、小さなお子さんと一緒に日中だけ楽しんだり、仕事のシフトが外せなかった方が仕事終わりに夜だけ参加したりと、それぞれのライフスタイルやペースに合わせて楽しめるのも、このフェスの大きな魅力です。』
この文章を書いたとき、私は本心からそう思っていましたし、疑いもありませんでした。けれど今振り返ると、これは沖縄県内のお客さんに向けた視点に偏った表現であったことに、この瞬間気がつきました。
ステージの遅延はショーケースフェスでは“あるある”の出来事です。それでも、一人一人の想像する、我慢できる範囲は人それぞれですし、それを超える遅延やトラブルの可能性をきちんと伝えきれていなかった自分を、反省しました。
もし次に初心者ガイドを書くときは、不安そうなお客さんや、疲れの顔を見せるアーティストの表情を覚えておこう。この日のためにコザに集まってくれた人たちの「そんなの知らなかった」を、できるだけ取りこぼさないように、この経験を必ず忘れない。そう心に決めながら、私は次の会場へ向かいました。
長くなりましたので、続きは後編で。
<著者>
サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛し、国内外の音楽フェスティバルを飛び回る、コラム・エッセイスト。 Music Lane Festival Okinawa 応援団。
Instagramにて、国内外の音楽フェスティバルやアジアの注目すべき楽曲を紹介するAsia Music + Festival=FestivalBeat.Asiaを運営中。











