【Column】
コザの天ぷら【コツのいらないアジア音楽】VOL.29
Music Lane Festival Okinawa 2025開催レポート速報版
沖縄・日本・アジアの粋が百花繚乱!熱狂の3日間!

Opening Reception @ ミュージックタウン音市場(2025/1/17)

Q:″Music Lane Festival Okinawa 2025″どんな音楽フェス?

 コザの天ぷら、今回から数回に分けて、2025年1月17-19日に沖縄市で開催されたMusic Lane Festival Okinawa 2025(以下、MLFO2025)について、私の観た感想をしたためていきます。続く連載で他のたくさんのアーティストにも触れていきますが、終わった直後の衝動のまま、今回はお届けしていきます。

A:日本一のラジオ王国で開催される とっておきの音楽フェス

 沖縄は電車などの交通インフラが他の地方同様、限られているため、車社会と言われている。そして、この車社会と密接に繋がる沖縄の文化が、ラジオ王国としての沖縄の姿。
 過去のビデオリサーチ社の調査からも、都道府県別のラジオ平均視聴時間の中でも、沖縄は55分/日も聞かれておりダントツのトップ。東京のおよそ20分/日と比べても、その差は歴然。その理由は、車のカーナビから流れるラジオを日常的に、そして日々の情報源として沖縄に暮らす人々が重宝しているからだと言われている。沖縄独自の番組コンテンツやタレントの発掘にも積極的で(ラジオ局各社の制作費用を圧迫しながらも)、より良い放送を届けようとする制作者側と、その心意気を汲み取るリスナーとの1to1メディアとして、双方の心意気を、数字には表れなくとも沖縄に暮らす1人として感じているところ。
 そんなラジオ王国沖縄。長寿番組の中には、琉球放送の“民謡で今日拝なびら(ちゅうがなびら)”、ラジオ沖縄の“ 民謡の花束”、とリクエストの絶えない人気郷土番組があり、絶えず沖縄民謡が毎日どこかで流れている。さらにはラジオ沖縄が主催する沖縄民謡の新作コンクール新唄大賞では、毎年新しい沖縄民謡の新曲が生まれ、披露されていることからも新陳代謝も活発だ。
 Music Lane Festival Okinawaの前身、Trans Asia Music Meetingにも参加した、沖縄県出身ラッパーAwichもステージ演出やRASEN in OKINAWAをはじめとした楽曲に度々沖縄民謡に由来する音や楽器が登場する。そう、沖縄で民謡を語る上で大切なことは、伝統と、戦後の辛かった思い出に寄り添ってくれた楽曲、というノスタルジーだけに留まらず、地域文化へのリスペクトと、“民謡は古臭くない”&“面白い”という大前提が若い世代にも浸透していることなのだろうと、沖縄で過ごす中で、思っていた訳だが、今回Music Lane Festival Okinawa 2025は“民謡=ワールドミュージック”としての粋を見せ付けられたフェスだったように思う。

TURTLE ISLAND(TuneCore Japan Stage / ミュージックタウン音市場 / 2025/1/18)

 1日目Tune Core Japan StageのトップバッターTURTLE ISLANDに詰めかける人、人、人の山。日中の明るい時間帯、フェスの序盤からこれほどの人を集める彼らは、賑やかなチンドンと大太鼓の地から響く迫力を携えて、パンクロックと民謡を掛け合わせ、まっすぐにただ真っ直ぐに音を届ける。なにも考えず感じたままで踊れ!と言わんばかりに。
 彼らは昨年11月に、アジアでFUJI ROCK FESTIVALと並ぶブランド力をもつ香港Clockenflapへの出演で国内外の音楽通の注目を浴びた(同フェスには同年、Creepy Nuts、yama、toeなどが出演)。海外の音楽のプロ(=デリゲーツ)からの期待値をさらに己のパワーにして、頭に被った手ぬぐいのけんか結びや喧嘩むずびをはじめとした衣装も格好良く、力強いバチから鳴らされる和太鼓・大太鼓、早弾きが様になる三味線は日本の粋を体現するかのよう。華やかな調子のお囃子が時間が経つにつれさらに熱を帯びる。粋な音の力は、様々なデリゲーツたちの口からベストと言わしめる圧巻のステージだった。

すずめのティアーズ(OTORAKU / 2025/1/18)

 TURTLE ISLANDに詰めかけた人が次に向かったのは、日本やブルガリア バルカン地方の民謡を、絶妙なハーモニーと歌い節、衣装はブルガリア民族衣装で目にも豊かな、すずめのティアーズ
 ヨーロッパで古くから慣れ親しまれている木製フルート カヴァルやクラシックギターも登場し、会場の(良い意味で)雑多な雰囲気も相まって、視覚的にもとても賑やか。彼女たちは、最新アルバムが音楽雑誌ミュージック・マガジンの2024年J-pop歌謡曲部門のベスト1に輝き、音楽評論家・DJのピーターバカランの番組内で2024年のベストアルバムとしてピックアップされるなど、音楽リスナーの間で注目になっているグループだ。会場は国内外のプロ・一般のお客さんで立ち見スペースもぎゅうぎゅう詰めで大賑わい(民謡を内包した音楽でも、集まるお客さんはTURTLE ISLANDよりもすずめのティアーズは日本のリスナーが多く目につく違いを感じたのも面白い。)。
 序盤、客席の反応に戸惑っているのか緊張した姿も見られたが、彼女たちの2人のハーモニーと広がる心地よい低めの倍音が会場と客席に馴染み始めてからは真価を発揮し、ステージ客席とも笑顔で締めくくる豊かなステージだった。

A:音楽好きが、また沖縄に戻ってきたくなる音楽フェス

 Music Lane Festival Okinawa が関東圏ではなく沖縄で開催する良さを、来場してくれた人はわかってもらえたと思う。東京のライブハウスの控え室で行われているミュージシャン同士の交流や、音楽フェスやイベントへのオファー交渉が、狭く限られたスペースを飛び出し、沖縄 コザの街中の至る所で行われる。ミュージシャンは音楽のプロ、デリゲーツに顔と名前を覚えてもらうため、街中をステージ衣装や、己の音楽の世界観を表現する服装のままで回遊し、MLFOをきっかけに仲間になったミュージシャンのステージの応援に駆けつける。一般で参加した観客にもその様子を目に捉えることができ、ステージ上のバチっと決まったカッコつけた姿だけではない、音楽をやるために必死になるミュージシャンの、ステージの表と裏の両方を見て、ミュージシャンたちの目指す夢を一緒に応援したくなってしまうその熱に絆されてしまうのだ。

(株)LABは、出演前後のアーティストのコメントをYouTube Liveで生配信した。

 MLFOの魅力の発信を手助けしようと、今年は音楽マーケティング事業を行う株式会社LABが、Tune Core Japanステージと、ミュージックタウン音市場1階広場YouTube Liveにて世界生配信(現在もアーカイブが残っています。是非ご覧ください)。沖縄現地のフレンドリーでいて、音楽愛にあふれた演者の熱の入ったステージの雰囲気の一端を感じてもらえたはず。配信を見た方、ぜひ来年は沖縄現地でのご参加をお待ちしています。画面には収まりきらない現地の熱と興奮を肌で感じてほしい。

A:粋と小粋にあふれる音楽フェス

 話をもとに戻そう。今回、新しい展開の可能性を感じたのは、THE BARCOX沖縄を拠点に活動する元モンゴル800ギタリスト儀間崇とともに活動する大所帯うちなーんちゅSKAバンド。私の知る限り2023年・2024年と台湾ライブを行っており、昨年は台湾・高雄で開催されたオリオンビール オリオンビアフェストにも招聘されている。出演が発表になった時から、台湾の人を引き付ける魅力の一端を知りたいと思っていた。ステージを見て納得。軽やかなダウンのビートとホーンの軽快さ。SKAのラテンのリズムがステージだけではなく客席も巻き込み一体となっていく。それでいて、その輪に入ることを観客に急かさない(TURTLE ISLANDとは真逆の引力とでも言おうか)。お客さんの好きなタイミングでどうぞ、といわれているかのような緩さと居心地の良さにつられて観客はいつの間にかゆらゆらと裏拍で揺れてしまっているのだ。なんて小粋なステージだろう!後日、メンバーであり、FM沖縄で夕方のラジオ番組のパーソナリティを務めるタイシロウもMLFO2025の熱気と興奮を電波に乗せて伝えていた。観客だけではなく、アーティスト自身も夢中になるフェス、それもMLFOの面白いところだ。

A:ショーケース・フェスティバルの本質がみえるフェス

(右)Chih-Chih,Chih-Yin Kuo(台湾)レセプションの合間に取材に応える。

 日本では珍しいショーケース・フェス(見本市フェス)であるMLFO、オープニングセレモニーの歓談の際にアーティストから頻出した言葉があった。「沖縄に自分の曲を普段から聴いてくれているリスナーがいるか分からず、不安」。東京から、はたまた海外からきたアーティストは同じ不安を抱えて参加する。では、どうすればその不安は払拭されるのか。
 台湾から参加した、台湾原住民族アミ族出身の吱吱郭芝吟 Chih-Chih,Chih-Yin Kuo。オープニングレセプションが始まるとともに、誰隔てなくコミュニケーションをとり、自分のプロフィールカードと、自分の姿がプリントされたポケットティッシュを配り、当日のライブ見に来てね!!とアピール。愛嬌たっぷりに自分が表現する台湾民族音楽を様々なジャンルの音楽にミックスした音楽性について熱心に話をしてくれた。当日のライブには、会話をきっかけに、これまで彼女の音楽に触れたことがなかった音楽関係者を中心に会場いっぱいに詰めかけ、彼女のステージを応援するとともに、アミ族に伝わる独特の伝統的歌唱法を活かした太く豊かな歌声と、小気味の良いリズムにファンになる人が続出していた。
 無名でも突然海外オファー!なんて、かなり夢があるな、と改めて思う。
ショーケースライブの2日間で海外フェス出演や海外エージェント契約につながった過去の成果を見聞きして、わかってはいるがMLFO2025に参加する音楽のプロ(デリゲーツ)が観客である自分の真横で音楽に感動し、そのミュージシャンに自らかけよって商談を始める姿を目撃する機会が今年も幾度もあった。日本で/アジアのどこかで、狭い枠組みの中での有名/無名のバイアスはMLFOでは全く関係ないのだとはっきりとわかる。音楽のプロも多く来場するこのフェスの独特なところでもあるが、観客を呼び込むキャンペーンに加え、開催期間に他の出演ミュージシャンやデリゲーツ積極的に交流し、どれだけ自分の仲間をステージ前に集められるかも重要になってくるし、その上、さらに自分たちらしい良いステージを魅せることができれば、名を上げていなくとも会場は大入りかつ大盛り上がりなる(逆に疎かにすると相当シビアな結果となる)。ショーケースライブの本質をしっかり理解していたミュージシャンのもとにはお客さんが集まっていたように見えた。

A:沖縄音楽の本領を体感できるフェス

新垣睦美(Crossover Cafe 614 | 2025/1/19)

 2日目。新垣睦美のステージは、沖縄発祥とされる空手−琉球古武術空手 ナイファンチ初段の演舞からスタート。背筋を正さずにはいられない神聖さをも感じさせる凛とした雰囲気の中、琉球民謡とシャンソン、現代前衛音楽、JAZZの要素を散りばめ、パッとした華やかさとは対極の荘厳さを感じるステージを披露してくれた。

KUNIKO(OTORAKU / 2025/1/19)

 続く、沖縄民謡とヒップホップを独自の視点で混ぜ込み披露するKUNIKOは、ユタやノロなどの神女(かみんちゅ)の衣装を想起させる白い衣装で登場。三線を手に突吟(ちちぢん)の節を効かせ、にこやかでいて、沖縄の南風を感じるかのような優雅な時間をメイク。大賑わいのまま、満員御礼のOTORAKU会場、続く演者はYukino Inamine & HARIKUYAMAKUへ引き継がれる。昨年彼女たちは、MLFO2024をきっかけにモンゴル最大の音楽フェスPlaytime Festivalへ出演したこともあり、今年も引き続き海外デリゲーツからの期待も高く会場は人が続々と溢れんばかり。満遍の笑顔、鮮やかな紅型(びんがた)の衣装でYukino Inamineは沖縄民謡をポップスの解釈色濃く、突き抜ける太陽のような朗らかさで歌い奏でる。そこに、クバ笠を被り、沖縄の着物を纏ったHARIKUYAMAKUが手元のシーケンサーで彼女の突吟の節にエコーをかけ、エフェクトをかけdubアレンジを施していく。沖縄民謡がモノラルスピーカーを通したような音質に時折変化することで、懐かしさと現代のクリアな音の歪さが癖になるグラデーションとなり独特のステージが出来上がる。が、最後は唐船ドーイでカチャーシー、カチャーシー、カチャーシー!と大賑わい!会場となったOTORAKUのオーナーも沖縄民謡に欠かせない四つ竹の粋な加勢でさらにステージを盛り上げフェスを締めくくるかのような大団円で幕を閉じた。

Yukino Inamine & HARIKUYAMAKU(OTORAKU / 2025/1/19)

 ステージから発せられる粋と、客席で受け取る粋が、(有名アーティストのワンマン公演ならいざ知らず)全60組が出演する大規模なフェスで合致するってかなり稀有な経験ではないだろうか。今年もここ沖縄でしか経験出来ない、味わい深い独特なフェス体験が終わりました。スタッフとしても、一般参加者として熱中した3日間。未だにMLFOロスから抜け出せずにいます。まだまだ語り足りないところではありますが、今回はこの辺で。
筆者紹介
サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛聴する、コラム・エッセイスト。 Music Lane Festival Okinawa 2025応援団
Instagramにて、邦楽アーティストとアジア圏のアーティストのコラボ(コライト)曲に特化した楽曲レビューを不定期更新中 。
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