【New Moves】コザ・マニラ・ジャカルタ〜音楽でアジアをつなぐ試み Vol.1

@Manila バイ湖近くのバスケットボールコート。

バスケットボールW杯開催都市を音楽で結ぶ。

2023年夏、沖縄市ではバスケットボールのワールドカップが開催されます。日本での開催地は沖縄市のみ。フィリピンのマニラとインドネシアのジャカルタとの3都市共同開催です。沖縄では、コザで開催されることは知られてきたように感じますが、マニラとジャカルタでも行われるということは知らない人も多いのではないでしょうか。
何しろ”ワールドカップ”です。3都市共同開催という話を聞いた時、せっかくだから何か一緒にやれることを考えてはと思っていました。その一つのやり方として、漠然と音楽で3つの街をつないでみてはと考えました。マニラとジャカルタには、音楽業界で活躍する友人たちが何人もいます。彼らとの共同作業で、3都市のアーティストのコラボレーション楽曲が作れたら。そういうアイデアを何人かの友人に投げかけると、非常にポジティブな反応が返ってきました。
一つの楽曲を一緒に作り上げて、それを3つの街から発信することで、何かしら新たな化学変化が起こるのではという期待が膨らみました。

 

2人合わせてYouTubeのチャンネル登録者数40万人以上。
マニラにて、人気のインディーラッパーに会う。

(L→R)Rude-α, ¥uk-B, Alisson Shore

2023年1月、マニラの最高気温は30度近く。エアコンの効きすぎた室内を除いては夏服で十分です。
コザ、マニラ、ジャカルタ。3都市のアーティストのコラボレーション実現のために、マニラとジャカルタ、それぞれの街の知り合いに相談しました。マニラはMC Galangさん。彼女は”The Rest Is Noise”というウェブメディアを運営しながら、”HIP HOP DX ASIA”というサイトから情報発信も行なっています。Japanese BreakfastやPhum Viphritがヘッドライナーを務める規模のフェスのオーガナイズもやっています。彼女がレコメンドしてくれたヒップホップ・アーティスト2組と、マカティ地区の人気のスペイン料理店で話をしました。

Waiian(ワイアン)さんは、フィリピンで最も有名なインディーズ・ラッパーの一人で、ヒップホップのインディーズレーベルをやっています。そこではフィリピンで最も刺激的で先進的なラッパーやプロデューサーを擁しています。彼のスタイルは、よりジャズにインスパイアされたオールドスクールなものです。

 

もう一人は、Alisson Shore(アリソン・ショア) さん。ラッパー、シンガー、プロデューサー、ディレクターとしてマルチに活躍する注目のアーティストです。あらゆるラップに対応できるアーティストで、コラボレーションも積極的とのこと。
YouTubeのチャンネル登録者数は2人合わせてなんと40万人以上。インディーズとはいえ、実力も知名度もあるアーティストです。

コロナ禍においてオンラインでの”コライト”(共同での曲作り)の可能性が大きく膨らみました。今回は単なるファイルのやりとりではなく、まずは同じ場で話をすることで、アーティスト間の熱量を高めていきたいという意図もありました。今回の話の中で、さまざまな壁は取り払われたように感じます。

Waiianの馴染みの店へ。週末のマニラの夜は長く深い。

 

コロナ禍前にバンコクで出会った”才能”と、ジャカルタで再会する。

マニラからジャカルタまでは、約4時間のフライトです。深夜の到着で、両替所も開いておらず、少額をATMでおろして南ジャカルタの宿に転がり込みました。ほぼ5年ぶりのジャカルタは一部の区間でMRTが開通して、より都会らしくなった印象でした。

Tanayu(R)

ジャカルタでコーディネートしてくれるのは、Satria Ramadhanさん。彼は”SRM”というプロダクションの創設者で、”ASEAN Music Showcase Festival”の設立メンバー。バンドのマネージメントやブッキング、イベントの企画などを行っています。
ジャカルタは、Tanayu(タナユウ)というアーティストにお願いしたいと考えていました。コロナ前にバンコクでのショーケースで見た彼女のパフォーマンスがとても印象的で、不思議さと尖った印象のある世界観はアジアのアーティストにはあまり見られないもので、その存在感も抜群でした。2020年には沖縄でのイベントに来てもらうことになっていたのですが、コロナ禍で実現に至りませんでした。

 

彼女に会ったのは、”M Bloc Space”という古い工場をリノベーションした文化施設。ライブハウスやバー、ギャラリー、カフェ、レストラン、ショップ、オーガニックなマーケットまである今どきの人気スポット。ここもこの5年の間にできた建物です。
彼女は「AURORAやBjorkといった北欧のアーティストが好き」だと話します。それはある意味予想した通りでした。Satriaが事前に話をしていてくれたこともあって、コラボレーションにも非常に前向きな返事をもらいました。

Bloc M Space(Jakarta)。こうした文化複合施設はアジア各都市で激増中。


それぞれが暮らす、アジアの街で、

同じ時代を生きるアーティストとしての考えやビジョンを共有する。

コザ、マニラ、ジャカルタを音楽で結ぶこのプロジェクト。沖縄の参加者は、コザを代表するアーティストRude-αさんと、コザのストリートシーンを牽引する¥uk-Bさんの二人です。二人は1月にマニラまで一緒に来てくれて、現地のアーティストと、とても前向きな話ができました。

(L→R)Rude-α, ¥uk-B

アジアのそれほど遠くはないそれぞれの街で、同じ時代を生きるアーティストとして、何を考え、どういうビジョンを抱いているのかを共有することが必要だと思いました。

2月にコザで開催した「Music Lane Festival Okinawa」には、マニラでコーディネートをしてくれたMC Galangさんも参加しました。Rude-αさんは、彼女を実家に招いて沖縄そばをご馳走したとのこと。そうした同じ時間を共有するという些細なやりとりが、互いを理解する一助につながると思います。

現在は、楽曲の制作が始まりつつあります。沖縄側から曲のベースになる方向性を投げて、それについてのやりとりが、WhatsAppのグループチャットで進んでいます。方向性が定まれば、マニラのチームがトラックの制作に取り掛かります。夏に向けて本格的な動きが始まります。
コザとマニラがヒップホップ、ジャカルタがAURORA、或いはBjork的なアプローチをする女性シンガー。果たしてどういう音楽が生まれるのでしょうか。アジアのある種、混沌とした多様性に満ちたエネルギーが充満する作品が生まれるのではないかと期待が膨らみます。

(続く)

文:野田隆司 / Ryuji Noda

*Koza Music Press 2023年1月〜4月号に掲載したテキストを編集しています。

 

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