1月19〜21日の3日間に渡って開催された「Music Lane Festival Okinawa2024」では、国内外の多彩なアーティストによるライブの他にも、各国の音楽マーケットの現状や、各地で開催されている音楽フェスについてのトークセッション、さらに興行運営側とプレイヤーとをダイレクトに繋ぐ1on1meetingなどのプログラムもあった。1月21日のカンファレンスプログラム(Trans Asia Music Meeting)を中心に、以下に紹介していこう。
取材・文:真栄城潤一
■音楽“だけ”ではなく考えを深めていく場
「The challenge and secret of “Colours of Ostrava”(“Colours of Ostrava”の挑戦とその秘密)」
チェコのオーストラヴァで行われている5万人規模のフェス「Colours of Ostrava」についてプレゼンしたのは、プログラマーとして同フェスに携わるFILIP KOŠŤÁLEKさん。
煙がかった工場地帯で、「ヨーロッパの鉄の心臓」という呼び名があった都市・オーストラヴァの歴史について触れながら、企画当初は多方面から「フェスなんてナンセンス」と言われつつも、2002年を皮切りに地元住民も巻き込んで大きなイベントに成長したプロセスを説明した。
特筆すべき点として、音楽だけでなく歴史や地球環境などについてディスカッションするイベントも同時開催しており、世界中から様々な専門家が訪れて考えを深めていく場を作っていることも述べた。
「例えば、フェスに参加すると朝10時にヨガに行き、昼食を挟んで2〜3のパネル・ディスカッションに出て、ライブで音楽を聴いた後にパーティーに繰り出す、という流れの1日を過ごすこともできます」(FILIPさん)
質疑応答に移ると、聞き手から多くの質問があがった。
先ずは客層について、FILIPさんは「Nice people.」と笑顔で返答。節度を持って気持ちよくアルコールを飲んでいる人たちが大半で、そのほかにも障がい者や高齢者も多数いて、多くの人たちにオープンな場であることを強調した。
また、出演するバンドのセレクトについては「20年間蓄積してきた知識や信頼できるエージェントとのやりとりを通じて選びます。最も大事なのは、きちんとショーケースを自分の目で見ることですね」と説明。
年に400本ものライブに足を運ぶ中で重視しているのは「良い音楽というわけではなく、何か新しいものを見せてくる独自性も大事。常に挑戦し続ける姿勢を持ったミュージシャンを求めています」と付け加えた。
■海外進出のカギはSNSと現地アーティストとのコラボ
「TIPS for increasing fanbase in Asia(アジアでファンベースを構築するためのアイデア)」
アジア各国で開催されているフェスのオーガナイザーが登壇したカンファレンスでは、現地のインディーシーンの状況と、他国でのファンベースを構築する方法、そしてそれらの要素を踏まえた上で、どのようにフェスへの動線を導いていくのかを議論した。
インディーズシーンの現状については、台湾でショーケースフェス”LUCfest”を主催するWeining Hungさんが「日本のアーティストにとっては、台湾は第二のファンベースになる場所だと言えます」と前置きしつつ、海外展開を見据える上で、台湾を意識したマーケティングの重要性を強調した。また、インディーズバンドがフェスのヘッドライナーを担えるほどシーンが拡大している現状に触れ、「成功できる環境が整っている」と話した。
さらに、コロナ禍以降でライブのマーケットがかなり活性化しており、政府が助成金を出しているため、ほとんどのライブが入場無料で、「アーティストにとってたくさんの良い機会がある」とも付け加えた。
海外展開する上でファンベースを“温める”ためにそれぞれの登壇者が共通して言及していたのは、やはりSNSの存在だった。フィリピンではTikTokからSpotifyに流れることが多く、韓国ではSpotifyとApple MusicがメインでTikTokはまだ黎明期。台湾はアメリカやヨーロッパと同じような状況で、30〜40代以上の世代だとFacebook、30代以下の世代はInstagram、さらにその下の世代だとTikTokというように、主に世代別で使用するSNSが違う傾向にあるという。一方、中国では国内のみのSNSが使用されており、音楽ジャンルに応じて利用するプラットフォームも変わるという説明もあった。
また、現地のマーケットに入っていく手法として、各国の登壇者が共通して挙げたのは「地元アーティストとのコラボレーション」だった。それぞれにしっかりとファンを持つアーティスト同士がコラボレーションすることで、ちゃんと音楽が受け入れられて認知され、ショーケースに繋がる土台が作られることが指摘された。
加えて、上述したような各国で使用されているSNSに応じたアプローチ、さらには現地で協力してくれる信頼できるプロモーターとの繋がり、そして海外での展開について長期的なビジョンをどう組み立てていくかも重要など、多角的な議論が交わされた。
■日本ミュージックシーンの課題と世界進出の手立てを探る
「そして、日本とアジア・海外の音楽マーケットをどう繋ぐか(“And how to connect Japan with Asian and overseas music markets.”)」
カンファレンスの最後は、これまで示された海外のスピーカーたちの議論も踏まえつつ、さまざまな角度から日本国内の音楽シーンに関わるメンバーが登壇。コロナ禍を経た日本国内の現状や、海外フェス・マーケットとの接続の仕方などについて議論した。
音楽プロデューサーの山口哲一さんは、冒頭で日本国内の音楽業界のデジタル化が遅れていることを厳しく指摘。「海外に比べると7〜8年くらい遅れているのが現状で、海外展開をする際にはそのことに留意する必要があります。本当に変えていかなければならない大きな課題です」と危機感をあらわにした。
また、制作面では「日本はかなりドメスティックな状況でした」と振り返りつつ、近年増えてきたコライト(Co-Write)について「楽曲やアーティストの存在が海外に出たり、日本に入ってきたりするきっかけになります」と説明した。
コライトについては、国境を超えたコラボレーションの場を作り出す取り組み「コライトキャンプ」を実施している高波由多加さんもその可能性を提示した。
「アーティスト同士が互いの土地で暮らしを共有する時間があると、人間的な交流の中でジャンルを越えて普段とは違うものが生まれます。それぞれの国でライブをして互いにファンを作っていく、というプロセスを重ねれば、ファンベースの広がりにも繋がります」
“Festival Junkie”を自称し、国内外のフェスに関するさまざまな情報を発信する津田昌太朗さんは、日本のアーティストの海外フェス進出について、韓国と比較して説明した。
「日本のアーティストは特定の人たちが“点”で出演しているのに対して、韓国は“面”で展開している印象です。海外フェスでの集客に関しては、ファンベースごと現地に連れて行くということも起こっています。それに加えて、アーティストが現地に住んでいる人たちもライブに呼び込めるパワーがあるかどうかも非常に重要です。その点で言えば、日本よりも韓国のK-POPの方が圧倒的に継続して世界展開しています」
タイ・バンコク在住で日本とタイの音楽交流活動に取り組むGinn(ジン)さんは「アジアでの日本人アーティストの存在感はかなり薄れてきていて、正直言って今は諦めの境地です」と厳しい言葉を口にした。国内でも人気があるアーティストについては、海外でもある程度名前は広がっているものの、「日本で稼げなくなってから海外進出に動き出したのでは遅いと言わざるをえません」と説明。「海外に出たいといった時、どこに出たいのか、その場所の音楽のマーケットがどうなっているのかをリサーチするのは当然必須です」と付け加えた。