めくるめくタイインディーズの世界
第2回「今後のタイインディーズシーンを担う次世代バンド」

音楽の流行りは数年おきにやってきます。流行っては廃れ、廃れる頃には次の流行が来る。タイのインディーズシーンも同じく流行り廃りがあり、体感としてはだいたい5年周期で一巡する感じでしょうか。

少しばかり時を遡りますが、10年ほど前のタイのインディーズシーンではポストロックの大波が来ていました。だいたい波が来る時というのは、波立つ前から始めてた人たちがいて、「おっ、なんか面白そうなことやってるな」と感度の高い人たちが追随し細波が立ち、少しずつ波紋が拡がり、いつの間にか多くの人が興味を持つようになってて、その波に乗っかろうと模倣のようなことを始める人たちが現れ、飽和し、徐々に衰退していきます。

タイでは、今やポストロックの波はすっかり下火となり(とはいえ、本物は今もしっかり残ってますし、少数ではありますが新たに出てくるバンドもいます)、入れ替わるかのように5~6年ほど前からはシティーポップの大波がやって来ました。

世界を巻き込んだほどのこの大波は当然タイにも着岸し、ネット(特にSNS)やエンタテックが発展した影響なのか、以前に比べても拡がる速度が早く、一時期は新出バンドがほぼシティーポップ風だったくらい、あっという間に一大ブームを築き上げました。

今現在はシティーポップの成熟~飽和期で、メンバーを入れ替えても成立するんじゃないかと思わせるほど似たようなことをやるバンドも多くなり、また、メジャーフィールドで活動するアーティストなんかもシティーポップ的な音像を取り入れたりしています。来るとこまで来た感があり、今後、このブームも段々とおとなしくなっていくんだろうな、という気配がします。

 

いつでも流行と流行の狭間には混沌期があり、この期間には様々なスタイルの音楽を引っさげたバンドが群雄割拠してシーンが活性化します。

個人的には、この群雄割拠している時期が一番面白くて、個性がぶつかり合って新しい化学反応がシーンに産まれてくる様を見ると、改めて「タイのインディーズって面白いな」と感じます。

ポストロックからシティーポップへの流行移行期であった6~7年前、Safeplanet、Moving and Cut、Gym and Swim、Solitude is Blissなど、今やすっかり人気者となったバンドが同時多発的に出現しました。

色んなスタイルのバンドがごった煮で一緒にライブやってて「これから何かが始まる」っていうワクワク感がシーンを席巻していた時期。今、また、あの頃のような熱気が渦巻き始めた感覚を覚えます。タイのインディーズシーン、次の世代による胎動が始まりました。

シティーポップ勢が煌びやかなブームを謳歌していたその地下では、面白い音楽を始めたバンドが鍛錬を重ねてきており、ここ1~2年ほどで表に出てくるようになりました。

この群雄割拠時代に名乗りを上げている「今後のタイインディーズシーンを担う次世代バンド」を一挙にご紹介します。

 

タイの灼熱の気候が生み出した清涼系オルタナR&B「daynim」

「Polycat」を輩出したバンコクのファインポップレーベル「Smallroom」からのニューカマー。大学の音楽サークルで知り合ったKan(ドラム)、Get(ベース、サンプラー)、Soe(ギター、シンセ、ボーカル、ラップ)、Pleng(ボーカル、キーボード)の4人により結成されたバンド。結成直後から耳の早いタイインディーズリスナーのアンテナに引っかかり話題となっていました。

楽曲の完成度が高く、また、楽曲からは想像できないくらい熱量持ったライブをするバンドなので、去年にはもうすでに跳ねてるんだけど、もっともっと跳ねるポテンシャルあります。

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・Spotify: https://open.spotify.com/artist/5TJfVhMs1wOBcLLl56fiu6

・Apple Music: https://music.apple.com/us/artist/daynim/1498005811

● YouTube: https://www.youtube.com/c/DaynimOfficial/

● Twitter: https://twitter.com/daynimofficial

● Instagram: https://www.instagram.com/daynim.official/

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インディーロックな疾走感と、ジャジーでブルージーな倦怠感を併せ持つバンド「DOGWHINE」

「タイでこんな不協和音を出しているアングラでかっこいいバンドがいるのかと驚いた。」とは新代田のライブハウス「FEVER」店長の西村さんの談。バンコクを拠点に活動する、ボーカル、ギター、ベース、ドラムに加えサックスをメンバーに要する5ピースバンド。完成度の高いアンサンブル、口ずさみ度の高い印象的なフレーズ、縦横無尽に駆け回るサックスを武器にライブを重ね、今では観客を熱狂させるまでのステージングになりました。

歌詞の内容が社会派で、代表曲「Democrazy」(Democracy+Crazyの造語)を始め社会派な歌詞が多く、2014年から2019年まで続いていたクーデターにより樹立された政権へのシニカルな批判や、失業問題、民主主義について歌ってたりします。

ライブの度に完成度がグイグイ上がっていき、去年のタイのフェスシーズンでは引っ張りだことなりました。ただ、12月中旬からコロナが再拡大し、そのため、年末に予定されていたライブ・ツアーは中止。バンコク以外の土地も周る予定だったので、残念ではありますが、コロナが落ち着いた暁には、タイ全土でその名を轟かせることでしょう。

● Streaming Services

・Spotify: https://open.spotify.com/artist/1FSgtpQxpDGSudn1tzBN6K

・Apple Music: https://music.apple.com/us/artist/dogwhine/1460639201

● YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCzqLycVmKq39pVggQ2sxBlw/

● Twitter: https://twitter.com/dogwhinee

● Instagram: https://www.instagram.com/dogwhinethegod/

● Facebook: https://www.facebook.com/Dogwhine/

 

若手サイケソウルの急先鋒「Supergoods」

自然と体が揺れてしまうグルービーなリズムに渋いギターフレーズが絡み、力強く艶やかなボーカルがど真ん中を貫くように歌い上げています。至高。コロナ禍前は、バンコクの知る人ぞ知るミュージックバーにて夜な夜なライブをおこなっており、経験と実力を積み重ねていました。タイ国内の大型音楽フェスへの出演や、海外バンドのオープニングアクトなども務めており、力強いバイブスを感じられるステージングでオーディエンスを魅了しています。

去年11月におこなわれたタイのショーケースフェスティバル「Bangkok Music City 2020」でのライブは、もう一つの伝説が生まれていて、中盤から後半にかけての会場の熱量が凄まじく、やべ~勢いですげー盛り上がる状態でした。完全に来たな、このバンド。

全然関係ないけど、1stアルバムのジャケのモデルが、自分の以前のバンドのサウンドエンジニアやってくれてた友人のNui君なので、ジャケを見ると安心します。

● Streaming Services

・Spotify: https://open.spotify.com/artist/4IjCcb80EVYzXhuRItpdUm

・Apple Music: https://music.apple.com/th/artist/supergoods/1412777942

● YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCLJbsOlpjUqBkDTHUoK3FRQ/

● Twitter: https://twitter.com/supergoods_

● Instagram: https://www.instagram.com/supergoods_bnd/

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タイR&B界期待の超新星「Alec Orachi」


曲を聴けば「あ、これは来るな」ってのがわかってもらえると思います。フローをまとって紡ぎだされるボーカルライン、深く聴いていると身体がとろけるような感覚になるサウンドデザイン。とにかくクール、そしてほろ苦い。曲調からはイメージできないくらい本人は人懐っこく可愛らしい性格で、会うときはいつもだいたいハニカミ交じりです。

2020年初旬にライブを見たときはまだ初々しいライブ運びだったのに、その年の後半にはタイの音楽フェスにお呼ばれするほど頭角を現すようになりました。今まではインディペンデントで活動していましたが、つい先日お披露目となったタイの新インディーズレーベル「newechoes」に第1弾アーティストとして所属することに。このレーベル、タイから世界へ飛躍するアーティストを生み出すべく始めたようなので、「newechoes」の動向ともども、「Alec Orachi」の活動を今のうちからチェックしておいてください。

● Streaming Services

・Spotify: https://open.spotify.com/artist/7gUg2Mhy06dtJ8sFqtHKCK?si=1WK0Zy6QRHGqm_H4BjucBA

・Apple Music: https://music.apple.com/th/artist/alec-orachi/1479525343

● YouTube: https://www.youtube.com/user/jackysakdipat/

● Instagram: https://www.instagram.com/alecorachi/

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心奪われっぱなしのエクスペリメンタルポップ「Beagle Hug」

ジャズをバックグランドに持つAey(Vocals)、Bank(Guitar)、Boat(Drums)、Pom(Drums,Bass and Chorus)で結成。ボーカルAeyの力強くてどこまでも伸びていく声に心を奪われ、ギターBankの音作りと間を大切にするフレージングに心奪われ、BoatとPomのツインドラムの掛け合いに心奪われ、Pomがベースを弾きながらバスドラムを踏みつつ電子パッドもいじるスタイルに心奪われ、ライブが始まってから終わるまでとにかくずっと心奪われてます。

呼吸と同調するようにふつふつと響く音に、じっと耳を傾けてみてください。いつの間にか身体に染み込んできた音が全身に張り巡らされていて、Beagle Hugが紡ぎだす世界へどっぷりと引きずり込まれていることに気付くはずです。

● Streaming Services

・Spotify: https://open.spotify.com/artist/2FSPEru3Hyt8n9vVlLvrvz

・Apple Music: https://music.apple.com/th/artist/beagle-hug/id1465211339

● YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCUKCTYZxFBZiyIwNEnhIUMQ/

● Instagram: https://www.instagram.com/beaglehugband/

● Facebook: https://www.facebook.com/Beagle-hug-976407505866453

 

あの頃、夢中になって追いかけていたロックを体現するオルタナロックバンド「KUNST」


タイのオルタナロックシーンを背負っていくであろう数少ない貴重なニューカマー。初期衝動をぶつけるかのようなライブが話題となり、バンコクのレジェンドなアングラパーティーイベントからも声が掛かるなど、活躍の場が広がっています。轟音で掻き鳴らされるギターとぐいぐい前のめりなビート。透明で柔らかくも芯のある歌声のボーカルが口ずさむ浮遊感あるメロディー。あの頃、夢中になって追いかけていたロックがここにあります。いやぁ、甘酸っぱい。

今年8月には待望の音源リリースが決定。しかも、アジアのバンドを多数手掛けている日本のレーベル「Parabolica Records」よりリリースということで、タイではもちろんのこと、日本でも入手可能となります。KUNSTの勢い、加速中です。

● Streaming Services

・Spotify: https://open.spotify.com/artist/5VxN4qJKAfMVAXeUwyIVwD

・Apple Music: https://music.apple.com/th/artist/kunst/1509201670

● YouTube: https://www.youtube.com/c/KUNSTBKK/

● Twitter: https://twitter.com/kunstbkk

● Instagram: https://www.instagram.com/KUNSTBKK/

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シティーポップ的音像を纏ったオルタナロック「Soft Pine」


シティーポップを想起させる音色を多用しつつも、じっくりとその先を聴き探っていくとオルタナロックの鼓動が聞こえてきます。広大な空間に摩訶不思議なコードやリフを散在させたかのような楽曲に、体温低めのメロディーがぽつりぽつりと波紋を広げるかのごとく響き、どういうことなんだろう、と二度三度と聴いていくうちに、まんまと(勝手に)術中にはまってました。

現在のバンコクアンダーグラウンドシーンにおいて、歴史が浅いながらも重要なポジションを占めるようになったダークホース的レーベル「Sundae Records」に所属。というか、メンバー自らもレーベルの運営に関わっています。Soft Pine の他、DOGWHINE、Supergoodsなどタイのアングラを騒がせているバンドが所属しているレーベルで、レーベルとしてもバンドとしても、これからよりその重要度を増していくことでしょう。

● Streaming Services

・Spotify: https://open.spotify.com/artist/2GT63EyB3EMBmSJXOupIwx?si=Yt7BCOPvTLuyFX5-dD5Zhg

・Apple Music: https://music.apple.com/th/artist/soft-pine/1444642549

● YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC_0kW7WnmGY2lYzVEUKrJrw/

● Twitter: https://twitter.com/softpineeee

● Instagram: https://www.instagram.com/softpineeee/

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タイポストロック界の正統派後継者「January」

タイ・スリン県出身。メンバー構成がちょっと変わってて、ギターのJannとChamoy、ドラムのMangoという3ピースでベースレス。練りに練られた美しいギターアンサンブルと手数の多いドラムリフが特徴です。ドラムがスティック短めに持つのが個人的に好みです。

練習やりこんでるんだろうな、と思わせるステージングで、曲のフックとなる決めパートも3人の息がピッタリ合ってるし、ギタータッピングの掛け合いもビタッと合わせてきて、清々しいライブを見せてくれます。

先日、待望の1stアルバムががリリースされまして、このアルバム、タイ版の他に日本のレーベル「Friend of Mine Records」からも日本盤が発売されています。今年の初旬にはバンコクでのレコ発ライブが予定されていたものの、コロナ第2波のため延期になり、延期になった日程もコロナ第3波で再延期となってしまいました。レコ発ライブが開催できるようになったら、それをきっかけにさらに飛躍するでしょうし、彼ら念願の日本ツアーも視野にはいってくるんじゃないかと期待が膨らみます。

● Streaming Services

・Spotify: https://open.spotify.com/artist/2SvtgLfTMdFR37cNJDVsQG

・Apple Music: https://music.apple.com/th/artist/january/338254305

● YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCROjBLFYyHKOQzmi82MOYlQ

● Twitter: https://twitter.com/Januaryband

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タイ北部チェンマイの空気を纏ったギターポップ「YONLAPA」

元所属レーベルが運営しているチェンマイのバーで弾き語りをしていたシンガーソングライターの「YONLAPA」がメンバーを集めバンドとして活動。古来よりタイ北部には特有の文化があり、チェンマイのバンドはバンコクのバンドとは違った空気感があります。南国の太陽のような朗らかなサウンドと、柔らかく包み込むようなボーカルが絶妙にブレンドされていて、すっと入ってきて鳴り響くキャッチーなメロディー、一度聴いたら癖になること請け合いです。

まだ数曲しかリリースしていない頃から、楽曲の完成度の高さにより、チェンマイではもちろん、バンコクすらも飛び越え、日本でもファンがじわりじわりと増加し、遂には日本での音源リリースも果たしました(「Big Romantic Records」よりレコード・テープをリリース)。

今年1月にはタイで所属していたレーベルを離れたYONLAPA。次もどこかのレーベルに所属するのか、それとも自分たちでやっていくのか、次の展開を応援しながら注目しています。

● Streaming Services

・Spotify: https://open.spotify.com/artist/65IzDDRlZuKIBe0QCG68Cu?si=KLx2GAVRTpuUFq38rStNmA

・Apple Music: https://music.apple.com/jp/artist/yonlapa/1472311080

● YouTube: https://www.youtube.com/c/YONLAPA/

● Instagram: https://www.instagram.com/yonlapa/

● Facebook: https://www.facebook.com/yonlapaband/

 

2021年6月現在、タイではコロナ第3波が訪れ、ワクチン接種も進んでおらず、ライブができる場所は政府により閉鎖され(タイには厳密には「ライブハウス」という施設はないのですが、それはまた別記事でご紹介予定)、音楽フェスの開催もアナウンスされたものの、まだ本当に開催ができるかどうか不透明な状況です。タイも音楽業界が非常に厳しい状態ではありますが、タイアンダーグラウンドシーンの新陳代謝は確実に進んでいて、良質な音を奏でるニューカマーが続々と出現しています。

できれば、彼ら彼女らの音楽がちゃんと評価されて、人気が出て、音楽で実入りがあるようになって、その実入りが音楽を続けていくうえでの一つの支えになればいいなぁ、と切に願います。そして、売れ始めても、流行に迎合して誰かと似たような音楽を吐き出すようになるんじゃなくて、誰とも違う、面白くてカッコよくて震えるような音楽を聴かせていって欲しいです。

 

※Music Lane連載との連動プレイリストも合わせてどうぞ。今回ご紹介のバンドは10曲目以降になります。

Music Lane連載 連動プレイリスト「めくるめくタイインディーズの世界」

 

■執筆者紹介

Ginn
タイ・バンコク在住15年。タイ人メンバーと結成したポストハードコアバンド「Faustus」で自身でも音楽活動をしつつ、日本とタイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」を主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、日・タイ音楽交流のための草の根活動をおこなっている。

● dessin the world
・Official Site: https://dessin-the-world.jimdosite.com
・Facebook: https://www.facebook.com/dessin.the.world
・Spotify: https://open.spotify.com/user/uhf7xnxdo35hwzlxngedl8f4l?si=6107a787d5424019

● Faustus
・Facebook: https://www.facebook.com/faustus.bkk
・Instagram: https://www.instagram.com/faustus.bkk
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