めくるめくタイインディーズの世界
第3回「タイインディーズの音源を聴く方法あれこれ」

タイのフィジカル音源を取り巻く状況は年々厳しくなっています。

日本でも「CDが売れない」と言われて久しいですが、タイではさらにそのずいぶん前からCDが売れなくなっています。それはいろんな原因があるのですが、例えば、リリースした瞬間に海賊版CDが出回ったり(同時期にリリースされたアルバム10枚分くらいがMP3形式で一枚のCD-Rにコピーされており、アルバム一枚の正規値段の半分以下で売られていた)、デジタル化やエンタテックの波が相当な速度で押し寄せたり、と、正規品のフィジカル音源が売れなくなる状況が結構早い段階で整ってました。

そんな状況なので、フィジカル音源を扱う店もどんどんと街から姿を消していき、さらにインディーズの音源を扱ってくれるところなんてもともと少ないのに、今では片手で数えられるくらいしか残っていません。

でも、まだ、タイの音楽フェスでブース出展すると「一日でCD1,000枚以上売れた」なんていうバンドがインディーズでもいます。これは、YouTubeやストリーミングサービスががっつり利用されているタイにおいて、CDはすでにグッズのひとつとして捉えられてる感が強いんじゃないかと思っています。

タイではインディーズバンドでもサインを求められることが多くあり、CDのジャケットや盤面、グッズにサインをするのですが、最近では、CDにサインするときなんかは「(CDをパッケージしている)ビニールは破らずに、ビニールの上からサインして」と言われることも増えました。グッズとして保有しておく、という意向が年々強くなってきていることを感じます。

CDプレーヤーを見かけることもほぼなく、PCにもCDの挿入口がない機種が多いですし、車にもCDプレーヤーがくっついていないので、CDを聴くという行為自体が難しい状況も、CD販売の難易度を上げているのかと思います。また、タイでも世界的な流れと同調するようにレコードが流行ったり、最近はカセットテープリリースなんかもするバンド・アーティストがいますが、こちらもグッズとして捉えられてる感があります(もちろん、音源として聴いている人もいます)

もともとタイでは、フィジカル音源をリリースしたとしても、初回プレス分が売り切れたら再プレスしない傾向がありました。最近は、上記のような状況も重なっているためその傾向がより鮮明になってきており、フィジカル音源がリリースされた後、「そのうち買えばいいか」、と油断してるとすぐに売り切れて廃盤になります。なかには受注生産方式だったりクラウドファンディングで受注を取ったり、必要数だけプレスして販売、なんていうバンド・アーティストもでてきています。

一方で、タイでもストリーミングサービスやYouTubeは広く利用されており、新旧問わず、多くのタイのバンド・アーティストが曲をアップしているので、廃盤になったあんな曲とか、もう解散しちゃったバンドのこんな曲とか、比較的簡単に探しだして聴くことができるようになりました。

ということで、今回は「タイインディーズの音源を聴く方法あれこれ」と題しまして、タイインディーズはどこを探しに行けばチェックできるのか、デジタルとフィジカル両面待ちでご紹介していきたいと思います。

 

 

ストリーミングサービス

上記の通り、多くのタイのバンド・アーティストもストリーミングサービスに音源をアップしています。SpotifyApple Musicのようなメジャーどころでももちろんザクザク出てきますし、タイ産ストリーミングサービス「Fungjai」でもコアなタイの音源をチェックできます。

Fungjai」は、そもそもタイインディーズに特化したストリーミングサービスを目指してスタートしているので、インディーズ系音源に強いです。今ではメジャー系音源も取り扱っていますが、インディーズ系音源(特にDIY系のインディーズ)はさすがの充実度。テーマやコンセプトに沿った独自のプレイリストも充実しており、初めて出会う音楽が次々と現れるかもしれません。

視聴方法はWebアプリ

また、「Fungjai」が運営する音楽系メディア「Fungjaizine」ではインタビューやライブレポート、リリースされた新曲のレビューなども掲載されており、バンド・アーティストを深堀することができます。記事はタイ語なので、気合とGoogleで乗り切ってください。

ボクはSpotifyユーザーなので、それ以外のプラットフォームは良く分からないのですが、Spotifyでは「อินดี้โดนใจ(=インディードーンジャイ:「心に響くインディーズ音楽」の意)というSpotify公式プレイリストがあり、タイの音楽シーンで活躍しているインディーズバンドの音楽がずらりと並んでいます。

あと、ストリーミングサービスとは違いますが、タイはYouTubeの利用者も多いです。YouTubeにアップされているMVでは、音源だけでは触れられないバンド・アーティストの世界観も垣間見れたりします。

最近はストーリーとかカット割りとか編集とかが洗練されすぎてて、面白みに欠けると感じることも多々ありますが、たまに「よくわかんないけどなんか凄いな」っていう理屈を超越したMVに出会えることもあります。

 

MVにも曲にも天才っぷりを随所に発揮しているポストロックバンド「Two Million Thanks

 


メンバーの陽キャっぷりがMVで表現されている渋メロポップバンド「temp.

 

 

Webラジオ

タイの音楽系ラジオ局の中で、音楽フェスを主宰したり、テレビ番組を制作したり、ショートフィルムコンテストを開催したり、リスナーを日本旅行ツアーに連れていくプロジェクトを立ち上げたり、ラジオという枠組みから飛び出し、次々と面白いことを仕掛けている「Cat Radio」というラジオ局があります。ミュージシャンや音楽に精通するタイ人がDJを務め、メジャーからインディーズ、タイ国内から国外まで幅広い楽曲セレクトをしています。このラジオで新たな音楽をチェックしている層もいます。

視聴方法はWebアプリ

毎週「CAT30」というチャートを発表しており、それを追いかけるだけでもタイの音楽シーンの状況を窺い知ることができます。注目のバンド・アーティストのインタビューも盛んにおこなわれているので、楽曲制作の裏話や、バンド・アーティストの生い立ちなどを深く知ることができるし、タイ語の勉強にもなるし、良いことしかありません。

 


フィジカル音源の購入

お気に入りのバンド・アーティストについては手に触れられる形のものを手元に置いておきたい、といった方もいるかと思います。ボクもそうです。家を建てられるくらい (物理的に)CDが狭い部屋に所狭しと溢れています。

思い切ってバンド・アーティストに直接連絡を取ってみるのも一つの手です。タイではオフィシャルページがSNSであることが多く、だいたいのバンド・アーティストはFacebookInstagram、場合によってはTwitterのアカウントを持っています。直接メッセージを送れたりするので、入手したいフィジカル音源やグッズがある場合は、英語などで果敢に連絡を取ってみましょう。決済手段と配送手段がうまくマッチすれば、タイから直送で音源やグッズが届くかもしれません。

とはいえ、海外とのお金のやり取りや、国際配送となると、ちょっと面倒だったり不安もありますよね。

近年 、日本でもタイ音楽がだいぶ認知され聴かれるようになってきており、タイも含めたアジアの音楽を日本でリリースしてくれるレーベルも増えてきました。そういったレーベルからリリースされている音源のみにはなりますが、日本国内でも購入が可能です。しかも、日本リリース版となると、歌詞の日本語訳だったり、ライナーノーツだったりが付いていることもあり、タイリリース版よりもバンド・アーティストのことを深く知ることができます。

ここでは、メジャー系・インディーズ系両方とはなりますが、タイのバンド・アーティストを日本でリリースしている主だったレーベルをざざっと紹介します。以下で紹介する音源は、Tower RecordsHMVAmazonなどで購入できるかと思います。

 

 

アジア音楽が日本で注目される前から注目してたレーベルParabolica Records

今でこそアジアの音楽を聴く人がじわじわ増えてきましたが、アジア音楽リスナーが片手で数えられるくらいの頃からアジア進出していたレーベル。以下のバンド・アーティストの音源をリリースしています。

 

一瞬で駆け上がり王手直前に歩みを止めたオルタナマスロック「aire


アートワーク含め活動全てがファインなファインポップ「stoondio


王道ポップを突き進むポップなスター「Stamp Apiwat


灼熱の国のサーフミュージック「Singto Numchok


次世代タイポップ界の旗手「Moving and Cut


タイのシューゲーザー番長「INSPIRATIVE


艶やかなダークポップ「Max Jenmana

 

華麗なる脱皮を果たしたローファイノイズロック「Hariguem Zaboy


あの頃、夢中になって追いかけていたロックを体現するオルタナロックバンド「KUNST

 

 

世界標準のタイ音楽を紹介するレーベル「Inpartmaint Inc.

今や世界で聴かれているラバーボーイ「Phum Viphurit

 

しんしんと心揺さぶるスローコア「Zweed n’ Roll

 

 

幅広いジャンルがタイにもあるぞ、ってことを日本に紹介するレーベル「FABTONE Inc.

Part Time Musicians


POLYCAT


ANNALYNN


Jelly Rocket


Pyra


Plastic Plastic


temp.

 

TELEx TELEXs


Nobuna


Cyndi Seui

 

 

タイでもインディーズ魂を持つバンドを支援するレーベル「Space Shower Music

Safeplanet

 

 

ご縁とご縁が折り重なってタイアーティストをリリースすることになったレーベル「Toy’s Factory

Stamp Apiwat

 

 

台湾だけでなくアジアを広くサポートするレーベル「BIG ROMANTIC RECORDS

Gym and Swim

 

YONLAPA


Death of Heather

 

 

タイポストロックシーンの勘所を総ざらいするレーベル「Friend of Mine Records

Hope The Flowers


Follows


January

 

 

来ましたボクです「dessin the world

所属バンドはおらず、日本とアジア(特にタイ)インディーズ音楽交流を目的としたレーベルです。今まで、日本・タイのバンドを集めたコンピレーションアルバムをbandcampでフリーダウンロード配信したり、日本・アジアのバンドの曲をSpotifyでプレイリストにまとめたりしています。

a plan named overlap

日本とタイ、それぞれの国で活躍しているインディーズバンドによるコンピレーションアルバムをフリーダウンロードで配信。

Scenario Asia

今、アジアの現場で鳴っている音を共有するためのプレイリスト。

 

 

バンコクのCD・レコードショップ

コロナ禍が落ち着いて、いつか、日本から旅行でバンコクに遊びに来てもらえるようになったら、現地でタイの音楽に直接触れてもらえればな、と思っています。

その日のために、「Bangkok Indies Music Map」という名で、インディーズの音源を扱っているCD・レコードショップの他、バンコクでインディーズのライブが見れる場所などについて、地図にまとめています(気が向いたときに更新しています)

 

タイでは、インディーズの音源を扱ってくれるCD・レコードショップは極々少ないです。そんな貴重なお店のうち、フィジカル音源数が比較的多いお店を紹介します。

なお、お店の定休日や営業時間は一応決まってはいるものの、日によってだったり店主の気分だったりで柔軟に変わりますので、事前確認してから訪問することをお勧めします。

 

 

名物店長がガンガン視聴させてくれる老舗ショップ「Nong Taprachan

タイ最大の河川であるチャオプラヤー川沿いにあるこちらのお店。自分の好みのジャンルを名物店長のノックさんに伝えると、これでもか、ってくらい視聴させてくれます。なので、時間に余裕をもって訪れてください。

品揃えもバラエティーに富んでいて、メジャーからインディーズ、ジャズからハードコア、CDからレコード、と、選り取り見取りです。まだ名の知られていない駆け出しの若手インディーズ系の音源も取り扱ってたりするので、ここにいけばだいたい欲しいものが揃います。

また、トートバッグやTシャツなどのグッズも取り扱っており、なかなか手に入りにくいグッズもここに来たら見つかったりします。

音源やグッズ販売の他にも、インストアライブを企画したり、イベントを手掛けたり、と、タイのインディーズシーンを陰日向に支えているお店です。

お店はタイ最大河川のチャオプラヤー川沿いにありまして、「Tha Prachan(タープラジャン)」という船着き場の一角に位置しています。地下鉄最寄り駅の「Sanam Chai」駅から有名寺院や古き良き街並みを眺めつつ散歩がてら歩いていくか、配車アプリやタクシーなどで向かってください。

 

 

美術館のなかにある雑貨屋「happening shop(BACC支店)

タイで今起こっているアートなムーブメントを伝える雑誌「happening mag」が運営する雑貨屋である「happening shop」。現在は2店舗あり、ここではバンコク中心部の美術館「Bangkok Art and Culture Centre(BACC)」内の支店を紹介します。

CDショップというよりも雑貨屋といったいでたちで、運営元が発行している雑誌「happening mag」はもちろんのこと、本やハンドクラフト、文房具、時計、洋服、カバン、アクセサリー、その他雑雑と、タイの尖った感覚を持ったクリエイターの作品が所狭しと並んでいます。

その一角にCD/レコードを取り扱っているコーナーがあり、ここにインディーズの音源があります。純粋なCD/レコードショップではないので、取り扱い種目は限られてはいますが、ポストロック、シューゲーザー、ポップス、ロックといったジャンルについてはしっかり押さえてます。

インディーズ音楽をチェックしつつ、タイ人クリエイターの作品も先取りして、美術館内でタイミング良く展示会が開催されていたら先鋭的なタイの美術にも触れてきてください。

また、「happening and friends」というWebメディアも運営しています。こちらでは、ショップで販売している商品の通販や、音楽・アートについての記事、インタビュー、スポット紹介などが掲載されています。しかも、タイ語・英語・日本語・中国語(繁体字)・中国語(簡体字)5言語展開。すべての記事が5言語化されているわけではないのですが、タイのWebメディアのなかでは相当頑張って多言語展開しています。

場所はサイアム地区にある美術館「Bangkok Art and Culture Centre (BACC)」の3階にあります。BTSNational Stadium」駅からスカイウォークを歩いてすぐのビルです。

 

 

以上、タイインディーズの音源を聴く方法あれこれをご紹介しました。

日本からタイの音楽を聴こうとすると、ストリーミングサービスやYouTubeなどを活用するのが、聴きたいときにすぐに聴けるし、音源を探しやすいし、まだ出会ったことのない音楽にも出会えるし、便利ですよね。ここ数年、ボクもストリーミングサービスで音楽を聴くことがだいぶ多くなりました。ぜひ、こういったツールを活用し、タイのインディーズ音楽と出会ってみてください。

一方で、ボクは好きなバンドや支援したいバンドについては、音源を聴くだけでは満足できず、CDやグッズなどフィジカルなものも持っておきたいので、購入して保有するようにしています。同じようにフィジカル愛好家の方もいると思うので、そういう方にとっても、この記事が参考になるようであれば幸いです。

 

※Music Lane連載との連動プレイリストも合わせてどうぞ。今回ご紹介のバンドは19曲目以降になります。

Music Lane連載 連動プレイリスト「めくるめくタイインディーズの世界」

 

執筆者紹介

Ginn

タイ・バンコク在住15年。タイ人メンバーと結成したポストハードコアバンド「Faustus」で自身でも音楽活動をしつつ、日本とタイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」を主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、日・タイ音楽交流のための草の根活動をおこなっている。

● dessin the world
・Official Site: https://dessin-the-world.jimdosite.com
・Facebook: https://www.facebook.com/dessin.the.world
・Spotify: https://open.spotify.com/user/uhf7xnxdo35hwzlxngedl8f4l?si=6107a787d5424019

● Faustus
・Facebook: https://www.facebook.com/faustus.bkk
・Instagram: https://www.instagram.com/faustus.bkk
・YouTube: https://www.youtube.com/FaustusBangkok
・Streaming Services: https://friendship.lnk.to/Acotaamcacowpcdpaa

 

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