それは突然に発表された。
2022年3月24日、タイのポストロック創世記を牽引したバンド「Desktop Error」が「สวัสดีครับพวกเราdesktoperror (こんにちは、僕たちはDesktop Errorです)」というポストともにFacebookページを一新した。
「Desktop Error」は2005年に結成された5人組バンドで、結成当時はシューゲーザー色が強く楽曲に表れていたが、活動を継続していくなかで、ビート感や疾走感が強調されたオルタナロックの趣を帯びていった。フロントに立つ3人のギタリストがそれぞれボーカルも取り、入り組んだギターアンサンブルで一見複雑に見えるものの、ベース・ドラムによる楽曲を引っ張っていくかのような野太いリズムによって、「ストレートに響くのに、よく聴くと深みを感じる」という絶妙なバランスとなっている。ギター3人衆のうちの一人であるBirdさんは、曲によってはタイの伝統楽器「ピン」を弾くこともあり、特徴的な高音が楽曲に彩りを添える。
今でこそ日本でタイインディーズ音楽を聴く人は徐々に広まってきており、「Gym and Swim」「Safeplanet」などの名前や楽曲を耳にしたことがある人は多いかもしれないが、以前は、タイのインディーズというと「Desktop Error」「Yellow Fang」の名前が挙がることがほとんどだった。
※2ndアルバム「Keep looking at the window」より「น้ำค้าง」
※結成初期の頃のバンコク中華街エリアにあった「About Cafe」でのライブの様子
2006年にEP「Instinct」をリリースし、2009年には1stアルバムである「Ticket To Home」を、2014年には2ndアルバム「Keep looking at the window」をリリースしている。
タイ国内のフェス出演はもとより、日本やシンガポールを含む海外ツアーも敢行し、順調にキャリアを重ねていった彼らだが、数年前より実質的に活動停止となっていた(先日、タイ大型野外音楽フェス「CAT EXPO」のトイレでギター・ボーカルのLekさんと遭遇し話した際は、「最後にライブやったのはもう4~5年前くらいかな」と言っていた)。
※上記作品はいずれも「SO::ON Dry Flower」よりリリース。レーベルオーナーは日本人のKoichi Shimizuさん。2016年の年末に活動停止を発表。タイのインディーズレーベルについてはこちらより。
※上記作品以外には、筆者のレーベル「dessin the world」で制作した日タイコンピ音源「a plan named overlap」の第一弾(CDでリリース、廃盤)に未収録曲「A wake up call for democracy (ตื่นเถิดชาวไทย)」を提供してくれている。現在はタイ地場ストリーミングサービスの「Fungjai」のみで視聴可。
3月24日の電撃復活から2日後、ニューアルバム「˙ n d e l ˙ b l e s t a ˙ n」のリリース(発表当初はCDとレコードでの販売、現在は各種ストリーミングサービスでもリリース)と、そのリリースパーティーを「DECOMMUNE」にて2日間に渡って開催することを発表した。チケットの発売を開始するなり2日間とも即ソールドアウトし、人気の健在ぶりが鮮明となった。
cr: Desktop Error
ソールドアウト後、チケット高額転売を危惧したのか、すぐにバンド側からアナウンスがあった。チケット購入への感謝、アルバム制作についての苦労、リリースパーティーへの想いを綴りつつ、「『バンドとしてはチケット代をズルする(チケット高額転売)のは支持しない』ってことを伝えたい。実際の販売価格よりも高額で売られているチケットを買うのはお勧めしない。今後も、皆が飽きるほどライブはあるから。」と、これまでの活動を体現するかのような、実直で真摯なメッセージが発せられている。
なお、リリースパーティー前には、ストリーミングサービスも含めてアルバムのリリースをおこなわず、当日、ライブ会場で初めて聴く状態でリリースパーティーをおこなう、と告知され、復帰早々チャレンジングな試みをおこなった。
※リリースライブの様子はこちらから。
5月5日には全16箇所を巡るアルバムリリースツアーが発表された。
cr: Desktop Error
タイは、バンコク以外はインディーズシーンがバンド・リスナー含めて大きくなく、日本のように国内ツアーが成立しにくいのだが、今回、彼らは北部から南部までを巡るツアーを敢行する。「今まで多くの国にツアーに訪れたけど、一番叶えたかった夢はタイ国内ツアーなんだ」ということで、相当内容の充実したツアーになるのではないか。
全16箇所に帯同するオープニングアクトは「Hariguem Zaboy」。3rdアルバム以降、今までのシューゲーズサウンドから方向性をがらりと変え、ザラついたポストパンクを奏でるようになった。タイのアンダーグラウンドで火が付き始めたオルタナロック・インディーロックシーンを代表する存在となっている。「Hariguem Zaboy」以外にも、それぞれの会場で現地のバンドをブッキングする予定とのこと。
5月7日・8日でおこなわれたタイの大型野外音楽フェス「CAT EXPO」にもサプライズ出演し、どこからか出演を聞きつけたファンが会場に押し寄せた。演者の滾った演奏と、それにあてられたファンの熱気とで、会場は異様な熱量に包まれていた。
※「CAT EXPO」でのライブより (cr: Wararit Mangkalanont)
※タイの音楽フェス事情についてはこちらから。
伝説がニューアルバムを引っ提げてシーンに戻ってきた。そして、また、伝説を更新していく。
■執筆者紹介
Ginn
タイ・バンコク在住15年。タイ人メンバーと結成したポストハードコアバンド「Faustus」で自身でも音楽活動をしつつ、日本とタイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」を主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、日・タイ音楽交流のための草の根活動をおこなっている。
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