めくるめくタイインディーズの世界
第8回「タイの音楽フェス事情」

日本では音楽フェスが乱立していると耳にしたことがありますが、タイでも多くの音楽フェスが開催されています。

特に、大規模な野外音楽フェスは、11月から2月にかけての乾季に集中しています。この時期に野外音楽フェスが集中するのは、年中ずっと暑いタイにおいて、比較的気温が緩やかになり、雨も降らず、野外でのイベントが組みやすいという事情があります。

コロナ禍前の話にはなりますが、タイもフェスが乱立した時期がありました。一回限りで終わるものもあれば、長く続いているものもあり、広大な敷地を使った野外フェスもあれば、いくつかの会場を繋げて開催するサーキットフェスもあります。

ただし、これも日本と似た状況かと思いますが、例年、どのフェスもその年に注目されるバンドをブッキングするため、似たようなラインナップになるといった課題があり、フェスが多くなればなるほど、独自色を押し出していく必要性が高くなっています。

 

今回は、タイの代表的なフェスを一言コメント付きでざざっと紹介します。

前回紹介した「タイのライブハウス事情」と合わせて読んでもらえると、タイでのライブイベント事情をなんとなく把握してもらえるかと思います。

めくるめくタイインディーズの世界第7回「タイのライブハウス事情」

 

タイの音楽フェス

有名どころのフェス

まずは、日本でもそれなりに名が知られており、日本からの参加者も多数いる大規模な野外音楽フェスから。

 

CAT EXPO

タイの音楽専門ラジオ局「Cat Radio」が仕掛ける大型野外フェス「CAT EXPO」。

 

 

バンコク郊外の遊園地を貸し切り、100以上のバンドが5~6つのステージで2日間に渡り演奏を繰り広げ、約3万人の音楽好き達がこぞって訪れます。無名インディーズバンドのみが出演できるステージも用意されており、このステージを目指す若手バンドも多いです。

 

Credit: Cat Radio

 

このフェスの目玉は、こんなに大規模でバンド数も多いのに、全ての出演バンドにブースが用意されていること。このフェスに合わせて音源リリースや新しいグッズを用意するバンドも多く、それを目当てにお小遣いをためてやってくる音楽ファンも多数。ファンと演者のコミュニケーションに一役買っています。

 

Credit: Cat Radio

 

Big Mountain Music Festival

カオヤイの広大な敷地で、10近くのステージで100バンド以上が2日間に渡ってライブをおこなうタイ最大規模のフェス「Big Mountain Music Festival」。

 

 

カオ=山=Mountain、ヤイ=大きい=Big、ということでBig Mountainという名が冠されています。

各ステージが特徴的な造りで、仕掛けがでかい、派手、ギラギラしてる、と、一度見たら忘れられない印象の強いステージとなっています。

 

Credit: Big Mountain Music Festival

 

2021年には第12回目が開催される予定でしたが、開催一ヶ月前となった11月に中止を発表。「来年に延期」という話も出てましたが中止となりました。一説によると、課せられていた入場規制がネックとなった模様。「この11年間、支援し続けてくれてありがとう。また会えることを願って。」とのキャプション付きで中止を発表しており、このまま幕を閉じるのではないか?と噂されています。

 

Credit: Big Mountain Music Festival

 

今後注目のフェス

タイで初の試みをしているフェスで、タイの音楽業界関係者も注目しているフェスを紹介します。

 

Maho Rasop Festival

2018年から始まったタイ初のインターナショナル音楽フェス「Maho Rasop Festival」。

欧米・アジア・タイ国内に強いコネクションを持つタイのイベンター3組が共同開催しており、各地域より玄人好みのバンドが招聘され、タイの音楽好きの注目を大いに集めています。

 

 

会場はバンコク内の大規模イベントスペース。だいたい3~4ステージで、2日間で30バンドほどが出演しており、一バンドずつじっくり見れる時間配分になっています。

 

Credit: Maho Rasop Festival

 

基本、タイ国外からのバンドが主となるため、コロナ禍となった2020年、2021年は実質の中止。個人的にも注目しているフェスなので、2022年での復活を待ち望んでいます。

 

Bangkok Music City

タイ地場音楽ストリーミング「Fungjai」と、ライフ・カルチャー情報メディア「NYLON」が仕掛けるタイ初のショーケースフェスティバル「Bangkok Music City」。

その名の通り、バンコク都心で開催されています。

 

 

初年度の2019年は気合いがはいってて、バンコクの中央郵便局に併設しているアート・カルチャー施設のTCDCを拠点とし、周辺であるジャルンクルン地区にあるミュージックバーを10か所ほど借り上げ、タイでは珍しいサーキットフェス仕立てでイベントをおこなっていました。海外からも多くの音楽関係者とバンドを招待し、盛大なお祭り状態となっていました。

 

Credit: Bangkok Music City

 

ただし、2020年、2021年と、コロナのため海外からの音楽関係者・バンドを招待できなくなってしまい、タイ国内のバンドのみの出演、および、海外の音楽関係者はオンラインでの参加となりました。

それでも、チャンスを掴むバンドはおり、例えば僕のバンドにも、中国でのツアーと音源制作の話が舞い込んできました。コロナで全部白紙状態ですが。

 

 

「ショーケースフェスティバル」をご存じない方に簡単に説明すると、だいたいは2部構成になっており、朝から昼にかけては世界各地から集ってきた音楽関係者による音楽業界動向のセミナーがおこなわれ、夕方から夜にかけては現地のバンドや海外からの招待バンドによるライブがおこなわれます。

バンドはこのフェスを活用し、世界各地の音楽関係者にライブを披露することで、当地でのフェスへの出演や、海外ツアー、海外プロモーションの機会を探ります。

 

Credit: Bangkok Music City

 

近年、アジアの各都市でもおこなわれるようになってきており、台湾・台南の「LUCfes」、韓国・ソウルの「Zandari Festa」、日本・沖縄の「Music Lane Festival」、日本・福岡の「Fukuoka ASIAN PICKS」、日本・北海道の「No Maps」などなどがあるなかで、タイでもショーケースフェスティバル「Bangkok Music City」が始まりました。

台湾・台南でおこなわれている「LUCfes」では、今や世界が注目するタイのシンガーソングライター「Phum Viphurit」が出演し、それがきっかけとなり、日本での音源リリースや世界ツアーへの切符を手にしています。

 

バンコク以外でのフェス

音楽シーンがほぼバンコク一極集中となっているタイですが(チェンマイや他の街にもシーンはありますが、バンコクと比べると小さい)、バンコク以外でもフェスは開催されています。先に紹介した「Big Mountain Music Festival」もバンコク以外で開催されており、規模が大きい(大きくなる)と、敷地が広大な地方に移っていくのかと思います。

 

เต้ย Freshtival (Toey Freshtival)

「イサーン(タイの東北地方の呼び名)にも音楽フェスを」ということでコンケン(イサーンの都市)で始まった音楽フェス「เต้ย Freshtival (Toey Freshtival)」。

 

 

「Freshtival」というのは「Festival」と「Fresh」を掛け合わせた言葉遊びで、「毎回新鮮なフェスになるよう」という想いを込め命名されています。

 

Credit: เต้ย Freshtival

 

Paradise Fest

タイのロック・ハードコアフェスである「Paradise Fest」。

タイの中で一番血の気の多いフェスであり、黒Tシャツ着用率が一番高いフェスです。

 

 

開始当初はバンコク内で開催されていたものの、だんだんと規模が大きくなっていき、今では地方の広大な敷地で開催されています。

 

Credit: Paradise Fest

 

復活が待望されるフェス

Stone Free Music Festival

最早伝説となっている自然派野外音楽フェス「Stone Free Music Festival」。

岩山に囲まれたロケーションを会場に、約3日間に渡りノンストップで演奏が繰り広げられます。

 

 

インディーズで名のあるバンドから新進気鋭のバンドまで出演しており、ジャンルもロックやポップ、パンク、ハードコア、レゲェ、エレクトロニカ、ポストロック、フォーク、民謡など様々。

観客はテントを持ち込んで会場で寝泊まりし、気になった音楽が流れ始めたらごそごそとテントから這い出てライブを観るといったスタイル。

 

Credit: Stone Free Music Festival

Credit: Yusuke (LowFat)

 

2011年に第1回目が開催され、その後、第4回まで続きました。第4回目で様々なトラブルがあり(僕も一部お手伝いしていたのですが、いや、ホント、大変でした)、その後は開催できていない状態です。

DIYフェスなので、スポンサーを付けず、ほぼ手弁当でやっていたため、相当な痛手だったのかと思います。財布事情とやる気の回復を待ちつつ、再開する際にはまたお手伝いしようと思っています。

 

 

まとめ

ミュージシャンブースと巷のTシャツショップのブースが100店舗以上出展する音楽とTシャツのコラボフェスや、5つくらいのステージをショッピングモール内外に組み立てて一日中ライブをおこなうモール型フェス、ミニシアターを借り上げての音楽とインディーズ映画とハンドクラフトを織り交ぜたフェス、タイ最大河川チャオプラヤー川沿いにあるアートスペースの中庭にそびえ立つ菩提樹の根元にステージを設置してのアートと音楽のフェス、などなど、まだまだ色んなフェスがあるのですが、キーボードを打つ指が疲れてきたのでこの辺で。

 

2021年は延期やキャンセルが相次ぎ、音楽フェスのない寂しい年になりました。

【タイ / Thailand】2021年タイの音楽フェスの状況 ~最大級の野外音楽フェス「Big Mountain Music Festival」が中止を発表~

 

今年こそはタイでも大規模フェスが大手を振って開催できるようになり、海外との渡航も緩和され、日本のバンドにも出演しにきてもらって、皆さんにもタイのフェスを体験しにきてもらいたいです。

音楽フェス好きな旅行会社勤務の方がいましたらご連絡ください。タイ音楽フェス参加ツアーの企画、一緒に考えましょう。

 

※Music Lane連載との連動プレイリストも合わせてどうぞ。

Music Lane連載 連動プレイリスト「めくるめくタイインディーズの世界」

 

 

■執筆者紹介

Ginn

タイ・バンコク在住15年。タイ人メンバーと結成したポストハードコアバンド「Faustus」で自身でも音楽活動をしつつ、日本とタイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」を主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、日・タイ音楽交流のための草の根活動をおこなっている。

 

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