【Tokyo / Bangkok】 橋本薫(Helsinki Lambda Club) バンコク レコーディング旅行記<前編>

 Helsinki Lambda Clubの橋本薫(Vo,Gt)は、10月、単身タイ・バンコクへと赴き、現地のファンク・ロックバンドFORD TRIOとのレコーディングを行った。
 FORD TRIOは、2017年に結成されたスリーピース・バンド。ブルース、ファンク、ロック、ソウルなどのアメリカ音楽に影響を 受け、エキゾチックな歌詞を Groovy な音楽に乗せて伝えている。この時に録音されたコラボレーション楽曲「เปล่าเลย (なんにも) feat. Kaoru Hashimoto (Helsinki Lambda Club)」が、11/16に配信リリースされた。

 今回の寄稿は、バンコクでのレコーディングのエピソードをアーティスト目線でまとめたもの。国境を越えたアーティストが、どのような思いで制作に臨み、そこで何を感じたのかということがリアルに伝わってくるはずだ。前編・後編、2回に分けてお届けする。

Text:橋本薫(Helsinki Lambda Club)

 まず前置きとして、このエッセイは一般的な旅行記とは少し異なると思う。というのも、僕は普段バンドをしていて、今回タイのFORD TRIOというバンドの新曲に歌で参加するという仕事でタイのバンコクを訪れたからだ。そのため取り立ててバンコクの名所を訪れたり有名レストランで舌鼓を打ったりはしていない。行き帰りは車での送迎もあるためすったもんだの珍道中があるわけでもなく、レコーディングスタジオもバンコクの中心からは少し外れた地域だったため特に大きな発見があるわけでもなく、旅情を掻き立てるという目的で読まれると少し当てが外れるかもしれない。ただ、なかなか普通に生活している上では体験し得ない出来事だとは思うので、世の中にはこんな風にタイで過ごす人間もいるんだなという視点で読んでもらえれば、それなりに興味深い読み物にはなるんじゃないかと思う。それでは始まり。

 あまり現実感の伴わないまま、気付けばバンコクの玄関口スワンナプーム空港の到着口で人を待っていた。2年半振り、待望のタイ入国だったが、海外に行くのなんて夢のまた夢と思わされたこの2年の間に染み付いた感覚のせいで俄には自分が海を越えたことが信じられない。そうこうしているうちに今回の仕事を繋いでくれたタイ在住の日本人であるジンさんがやって来た。直接会うのは初めてだったのでまずは固い握手、ともなくして迎えの車の元へと歩く。バンドの所属するレーベルのスタッフが迎えに来るとのことだったが、その担当者が僕の大好きなタイのバンド「Gym and Swim」のボーカルのルームでとても驚いた。今はそのレーベルで働いているらしい。こちらも固い握手。ファンであることを伝えるとはにかんだような笑顔。入国早々テンションが上がる。

 レコーディングは翌日の予定だったので、この日はレーベルの所属バンドのライブに招待してもらい観に行くことに。バンコクの中心とも言えるサイアム駅にあるLIDO CONNECTというライブハウスでのライブだった。元々映画館だったスペースを利用した個性的なライブハウスで、ライブハウス以外にも周辺はファッションやカルチャー系のショップが集まった複合施設としてタイの若者に人気の場所でもあるらしい。

 この日は3バンドでのフロアライブ形式で、見た感じ1000人近く収容できそうな会場は、フロアの真ん中のバンドの機材を囲む形で若者で溢れていた。間も無くしてこの日が初ライブだという「Chucky Factory Land」というバンドが、初ライブとは思えない観客の声援に迎えられて登場した。

   演奏自体はまだ拙さも所々に見られるものの、チルかったりミクスチャーっぽかったりファンキーだったりとやりたいことを自由にやっているような雰囲気でとても刺激を受けた。パフォーマンスも堂に入ったもので充分すぎるほどに観客を沸かし熱狂のままステージを去って行った。いつか共演したいと思った。そして今までタイのローカルの若者を近くで感じる機会があまりなかったのでとても新鮮だった。バンコクではカオサン通りにずっといることが多く、若者といえど観光客相手の商売人ばかりだったので、カルチャーに関心のある若い学生のような人たちを初めてまざまざと見たかもしれない。日本の若者と似たようなところもあれば違うなと思うところもあるものの、同じような悩みを抱えたり同じような青春がそこかしこで生まれているのかと思うと人の心を打つ音楽、芸術というのは普遍的なものなんだなと思ったりもする。

 ライブハウスを出てこの旅初めてのタイ料理を楽しみ(色々ありすぎて忘れた)この日はホテルへ。部屋でビールを飲みつつ明日のレコーディングへと思いを馳せるのであった。

◎後編へ続く:12月1日(木)11:00公開予定

 

New Release

FORD TRIO
「เปล่าเลย (なんにも) feat. Kaoru Hashimoto (Helsinki Lambda Club)」

モーラム(タイ東北部に伝わる伝統音楽)の音階とHip Hopのビート感を混ぜ合わせた楽曲で、タイ語詞はFORD TRIO、日本語詞はHelsinki Lambda Clubの橋本による作詞となっており、一曲に2つの言語が響き合うボーダーレスな楽曲となっている。

周りの人からの同情を引きたいがために「自分は他人から虐げられている」「相手の方が間違っている」といった話をしたがる人について歌われている。

配信URL
https://bfan.link/PlaoLoei

 

L→R
稲葉航大(Ba) / 橋本薫(Vo/Gt) / 熊谷太起(Gt)

Helsinki Lambda Club / ヘルシンキラムダクラブ

2013年夏に結成されたヘルシンキラムダクラブは、ボーカル・ギターの橋本薫を中心とした日本のオルタナティブ・ロック・バンド。 中毒性の高いメロディー、遊び心のある歌詞、実験的なサウンドは、一曲ではサーフロック、次の曲ではサイケデリックへと変幻し、音楽的ジャンルや文化の垣根を越える。

国内のフェス出演に加え、香港、北京、上海、台湾等でのツアーを果たすなど、日本のロックシーンにはかけがえのない存在となっている。 アメリカやイギリスのロックが言語を問わず世界に受け入れられたように、Helsinki Lambda Clubの音楽もまた、リスナーに高揚感と快感を与える力を持つ。

https://www.helsinkilambdaclub.com/

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