【Report / リポート】
音楽を通じたリアルなコミュニーケーションの「場」をつくる
“Music Lane Open Lecture Vol.15” Spincoasterが目指す場所(講師:林潤さん)

“音楽を通じて人生を豊かに”を経営理念として掲げ、音楽情報メディアの運営やイベント企画・制作、アプリ開発、そしてミュージックバー運営などの事業を展開する「Spincoaster」代表取締役・林潤さんを講師に迎えた「Music Lane Open Lecture Voi.15」が12月21日にミュージックタウン音市場で開催されました。今回のテーマは「Spincoasterが目指す場所」。

音楽によるコミュニケーションを活性化するための事業を積極的に展開する林さんは、自身の取り組みの中で「リアルなコミュニケーション」やそれを可能にする「場」を重要視していることを強調しながら、Spincoasterの取り組みや音楽シーンの現状と可能性などについて語った上で、参加者からの質問に答える形でレクチャーを進めていきました。

取材・文:真栄城潤一

 

音楽で盛り上がっている状況を生み出す

林さんはSEOを中心としたWEB制作やマーケティングの経験を経て、ソニー・ミュージックエンタテイメントに入社。アーティストのマーケティングやプロモーションに関わります。その後、2013年に音楽情報メディアとしてSpincoasterを立ち上げました。
自社の強みについて林さんは「音楽とテクノロジー」という要素に言及し、社内のスタッフは全員音楽に精通しており、自社でのWeb、アプリ開発などの展開も含めて「今の時代に合った音楽体験の届け方を意識しています」と説明します。

事業展開については、音楽ニュースを配信するメディア領域では「楽曲を重視して他メディアとの差別化をしている」とこだわりを明かし、ライターや編集長がリリースされた楽曲をきちんと聴いた上で文章化していることについても話しました。

国内外の音楽情報を発信するメディア”Spincoaster”。最新の音楽ニュースに加えて、ミュージシャンの音楽的ルーツやインタビューも掲載。

テクノロジーの面では、大型フェス向けの公式アプリの制作も行なっています。ステージが複数ある音楽フェスで、見たいアーティストの出演時間をチェックして自分専用のタイムテーブルを作って見逃し通知が届いたり、会場内での現在地を把握できるなど、参加者にとって便利な機能や、行列などの順番待ちを回避できたりすることで、非常に実用的な機能を備えていることを強調。現在はフードフェスやイルミネーションフェス、専門学校・大学のオープンキャンパスにも導入されているそうです。

イベントやフェスティバルのための公式アプリ制作サービス”FESPLI”。クオリティの高いフェスの公式アプリを低価格で提供している。

そして、林さんがリアルなコミュニケーションの場の1つとして力を入れている事業として、ミュージック・バーについても説明がありました。現在新宿と恵比寿に店舗があり、それぞれ音響面で違いを持たせながら最新の国内外の楽曲を楽しめる場所として運営しているとのこと。「バーは、すぐにでも沖縄でも展開したいですね」と意欲的な言葉も飛び出しました。

“Spincoaster Music Bar Shinjuku”

“Spincoaster Music Bar Ebisu”。新宿と恵比寿ともに、ハイレゾとアナログ・レコードを体感できる。

「そこに音楽があることで盛り上がっている、という状況を作り上げたいんです。そのためにフェスやバーなどの拠点を広げて、動きを加速することで既存事業も相乗効果で伸ばしていきたい」と、事業に通底するビジョンについて述べました。

世界の音楽シーンに広がる可能性

現在の音楽シーンについて林さんは、海外の音楽フェスを見た経験を踏まえて「日本で売れている音楽と世界で売れている音楽は違う」と話します。

「日本のアーティストは音楽のマーケットだけで十分音楽で食えてはいますが、韓国や台湾に目を向けるとそうはいかず、積極的に他国に出ていき上手く成功しているアーティストが出てきていることを考えると、日本が世界進出に遅れをとっていると言わざるを得ませんね。とは言え、国内に埋もれている才能のあるアーティストはたくさんいて、音楽そのものが遅れをとっているわけではなく、国の補助金などの金銭面での後押しや売り方、世界に向ける意識的な部分だと思います」

現在はSpotifyやTikTok、YouTubeなどのツールがあるため、これまでよりも圧倒的に世界に発信出来るチャンスがあることは明白です。そういった状況も踏まえて「実際に海外に行って、その土地のアーティストたちとコラボすることで、それぞれのファンがクロスする状況を生み出すことも重要だし、そこにチャンスや可能性もあると思います」と林さんは語りました。

また、沖縄の音楽については「日本以上に、世界の音楽シーンに響くポテンシャルがあるんじゃないでしょうか」と付け加えました。

参加者とのQ&A

レクチャーの後半は参加者との質疑応答メインのやりとりになりました。以下、いくつか抜粋して紹介します。

Q:エンタメ系のWEBメディアはたくさんありますが、その中で生き残るためにどのようなことを意識していますか?

林さん:
今は広告費がテキストから動画に流れているので、なるべく動画をとは考えていますが、かなり制作費がかかっちゃうですよ。映像メディアでの黒字化はなかなか難しい状況です。テキストも昔は良かったんですが、今はもう広告費が全然入らない。今のうちの実態でいうとインタビュー費やタイアップ費、映像制作などをしてメディアを回しています。数字が取れるからといってなんでも紹介するのではなく、自分たちの意志を持って良いと思った音楽だけを広げていきたいし、“音楽を通じて人生を豊かに”ということにつながることであれば、基本はやりますね。

Q:ミュージック・バーはどんな位置付けで運営していますか?

林さん:
ミュージックバーについては、自分自身、音楽によるコミュニケーションが盛り上がっている状態が1番楽しい瞬間だと思っていて、1人だけで音楽を聴くよりも、気の合う誰かと共有した方が楽しいですから。そういうことが出来る場所を考えたら、ライブハウスかバーだなと思ったんです。ライブハウスよりも言葉でのコミュニケーションを楽しめるのはバーだな、ということで会社を立ち上げてから半年後にオープンしたんです。飲食の経験は全くなくて、新宿店は今年で9年になるのですが、最近は、順調にお客さんも海外のお客さん含め増えているので、さらに力を入れて国内外で拡大していきたいと強く思うようになってきています。

 

Q:音楽は今どんな風に聴かれていると感じていますか?

林さん:
一般的にはTikTokとかYouTube Shortじゃないですかね。Instagramもリール動画がメインになっています。これって全部15〜30秒動画で、自分の琴線に引っ掛からなければ皆んなスワイプしてスキップするんですよね。だから、最初の3秒が勝負みたいな感じで、昔みたいに10曲入りのアルバムを聴いてもらうというのはかなり難しい時代になっているな、とは感じます。かつてあった「着うた」の尺が近いと思ってて、あの当時は着うたで盛り上げてその後にリリースするという流れだったんですけど、今後そんな流れになっていくんじゃないか。リリースしてからショートを出すのではなくて、リリース前にフル尺ではなくてショートを聴かせて、皆んなが興味を持ってからフルを出して初動がつく、ということになるんじゃないかなと考えてます。ただ、自分はレコードでアルバムを通してしっかり聴くというような、料理で言うとつまみ食いのような楽しみ方ではなく、前菜からフルコースをしっかりと楽しむような聴き方が好きではあります。

Q:現在はCDも売れないし、ツアーを回ったところで制作費も回収できないなど、状況がかなり変わってきています。サブスクだとリリースした瞬間に世界中で聴けるようになることもあって、意識を海外に向けた方がいいのではないかと思いますが、この辺りの事情についてはどうお考えですか?

林さん:
おっしゃる通りだと思います。今はもう言語関係なく、曲さえ良ければ日本語でも全然聴かれるんで。その意味では凄くチャンスがあると思います。実践的な方法だと、今1番良いのは現地アーティストとのフィーチャリングとかコラボですね。サブスクのプレイリストはそれぞれの現地に選曲者がいるので、その場所のアーティストとコラボすることできっかけを掴める。それが最も数字に直結すると感じてます。CDの話で言うと、悪い状況もある一方で良い状況もあって。昔ほど制作費がかからなくなっていること、たくさんのスタッフを引き連れなくてもいいことなどがあります。結果、食べていけるアーティストはむしろ増えてるんじゃないかと思ってます。メガヒットは出づらくなってますけど、サブスクとライブ収益で世間的に知られてなくても音楽だけで食べていける人たちはけっこういるんですよね。それをワールドワイドに展開すれば、どんどん広がりが生まれると思います。


Q:今後の事業展開についてはどんなことを考えていますか?

林さん:
フェスのアプリは、まだまだ導入されていないイベントが国内外にたくさんあるので、導入を推進していきたいです。
バーは、立地、人材、条件が揃えばすぐにでも出したいので、良い物件あったら紹介してください(笑)。ご一緒にできそうな方も探しております。
フェスも力を入れていきたいですね。ブランディングをしっかりとして、コーチェラやグラストンベリー、最近だとRolling Loudみたいなちゃんと「目がけて行くフェス」を作っていきたい。その中で、数で勝負というより集客面では、ネームバリューのあるアーティストを並べてもそれだけでは実は人は増えないんですよ。だから、フェスで仲良くなった人たちがリピーターになるようなコミュニティを作り出すことが大事だと思いますね。バーもそうですが、「場」があるのは大事で、それがないとメディアとしても忘れ去られてしまうと思うし、結局リアルなコミュニケーションを盛り上げるということに尽きると思います。

新潟県妙高市LOTTE ARAI RESORTにて2021年10月に初開催となり、2024年で4年目を迎えるリゾート音楽フェスティバル『MIND TRAVEL』。

Spincoaster
https://spincoaster.com/

MIND TRAVEL
https://mindtravel.spincoaster.com/

Spincoaster Music Bar
https://bar.spincoaster.com/

林 潤 / Jun Hayashi
株式会社Spincoaster 代表取締役 / CEO
‘86.10 東京生まれ。‘06.6 株式会社ウィルゲートの創業メンバーとして学生時代を過ごす。SEOを中心にWEB制作、マーケティングを経験。 ‘09.4 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。システムインテグレーション、アーティストのマーケティングやプロモーションを経験した後、新規ビジネスの企画セクションで、数々のプロジェクトに携わる。
’13.8 音楽情報メディア「Spincoaster」サービス開始。‘14.7 株式会社スピンコースター設立。’15.3「Spincoaster Music Bar」新宿店オープン。’18.7 映像メディア「TOKYO SOUNDS」開始。’19.3 フェスアプリを簡単に導入できるアプリ制作パッケージ「FESPLI」リリース。’21.10 音楽フェス「MIND TRAVEL」を開催。’22.10 「Spincoaster Music Bar」恵比寿店オープン。

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