【Thailand / Taiwan】
座談会:民族音楽×インディーロックの現在地
FORD TRIO×Mong Tong
EP『Khun Pra! 東福』リリース記念インタビュー

アフターコロナに移行した2022~23年以降、アジアのインディーロック界隈の交流が賑わいを取り戻し、お互いにツアーや音楽フェスティバルへの出演をサポートしあったり、コラボレーション作品が次々と生まれたりしている。

そうした中、タイのFORD TRIOと台湾のMong TongによるコラボEP『Khun Pra! 東福』が2024年6月20日にリリースされた。

タイトルの『KHUN Pra! 東福』は、タイ語で「Oh my god!」を意味する「คุณพระช่วย」(読み:クン・プラ・チァイ)を短縮した「คุณพระ」(読み:クン・プラ)と、両バンドの中国語名「夢」「特三人幫」の頭文字を取ったもの。#1「Alright Alright」、#3「BNK」はタイ民族楽器のジャム・セッションにより制作し、2「R.I.P」、#4「WIND」はオンラインでやり取りして制作したという。4曲入りというコンパクトな構成にも関わらず、聴きごたえ抜群の良作に仕上がっている。

FORD TRIOは「タイファンクを現代解釈するバンド」と形容され、日本のライブハウスや音楽フェスティバルへたびたび来日し、このたび2024年8月24日から来日ツアーを行う。一方Mong Tongは台湾の民族音楽や迷信、東南アジアの音楽をフィーチャーし、電子音楽や現代のロックと融合させた作品をリリース。日本をはじめとしたアジア各国、EU/UK、USAツアーで経験を重ねてきた。

アジアインディー好きにとってそれぞれ親しみがあるバンドとはいえ、日本からの視点では両者は異なる文脈で存在しており、今回のコラボレーションはやや意外に映ったかもしれない。そこで、タイツアー中の彼らを「座談会」として話を聞くことにした。

執筆・編集:中村めぐみ https://x.com/Tapitea_rec

通訳協力 :Domu   https://www.instagram.com/domudomudomudomudomudomudomu?igsh=MWdzM29mOXRydnd2aA%3D%3D

タイ&台湾音楽シーンの再発見

◎ まず、皆さんの交流がはじまったきっかけを教えてください。タイは華僑の人口が多い国でもありますが、台湾の音楽が街中で流れているんですか?

Smith:タイで台湾の音楽を耳にする機会はそこまで多くなく「F4」(※台湾ドラマ『流星花園』出身のアイドルユニットでアジア全体に展開)ならなんとなく知っている、という状況でした。台湾のインディーズ音楽といえば、2010年代のSunset Rollercoaster、Elephant Gym、Wendy Wanderを認識していて、2020年代のアーティストはそこまで知らなかったんです。

James:Mong Tongとのコラボレーションは、2023年の初めごろに、当時レーベルのオーナーをつとめていたケンさん、エグゼクティブプロデューサーのレミーさんから勧められました。バンドの方向性に迷っていた時期で、次は実験音楽を取り入れるのが良いんじゃないか、という話も出てきていた中で「Mong Tongっていうバンドが台湾にいるよ」って。

Ford:初めて聴いたのは『Mystery 秘神』(2020年)で、こんな音楽聴いたことないな、と率直に思いました。映画のサウンドトラックのようでいて、人間っぽさもある音楽だなって。

◎ 逆にMong TongがFORD TRIOの音楽を聴いた感想はどうでしたか?

FORD TRIO一同:それ、聞きたくない~!(笑)

取材は『Khun Pra! 東福』のリリースを記念したタイツアー『KHUN PRA! 東福 THAILAND TOUR』の最中、バンコク市内にあるFORD TRIOが所属するレーベルCosmos Musicのオフィスにて行われた。ツアーの中日で、やや疲れが見える中ではあったが、和気あいあいとした雰囲気で座談会がはじまった。

◎ (笑)。Mong Tongは、4thアルバム『道火 Tao Fire』(2023)で東南アジアの音楽をフィーチャーしていたけれど、あくまで過去の音楽やストリート・サウンドだったと思っていて。

Hom Yu:はじめてFORD TRIOの音楽を聞いたとき、手触り感のあるタイファンクを再発見したような気持ちになりました。タイファンクの影響を受けたとして知られるテキサスのKhruangbin(クルアンビン)は、欧米リスナーの耳で聞いたら確かに新しい音楽に聞こえるけれど、あくまでタイファンクの要素を取り入れているアメリカのバンドだったんだなって。FORD TRIOに出会って、タイファンク直系の音楽ってこういうものだよ、と言われているように感じました。

Jiun Chi:僕は元々ファンクが好きなので、単純に「好きだな」って。

◎ ここ、重要なので詳しくいいですか。FORD TRIOの「タイファンクを現代解釈した音楽」って、どんなルーツを持つ音楽なのでしょうか?

James:1960~70年代にアメリカから入ってきたファンクを、タイ人が真似しはじめたのが「タイファンク」の源流です。リバース・エンジニアリングをする時に、リズムをそれっぽく模倣することはできるかもしれないけれど、タイ人は英語が得意ではないので歌唱は再現できない。つまり、ファンク・ソウルなどブラックミュージックのリズムを模倣しているけれど、メロディと歌詞はタイの歌謡曲というものでした。

Ford:そのタイファンクが進化し、西洋の音楽やシティポップの影響を受けた音楽ーー僕たちは「イサーン・インディーズ」と呼んでるんだけどーーたとえばGroove RidersやSoul After Sixが現代化したタイファンクで、僕たちもその流れの中にいると思います。

Smith:僕はあまり難しく考えていないですね。SNSでときどき「FORD TRIOはタイファンクじゃない!」って言われるんだけれど、タイ人がファンクやってるんだからタイファンクでいいじゃんか、って(笑)。

FORD TRIOライブ風景。左からSmith・James・Ford

◎ 定義問題は万国共通ですね。「台湾サイケ論争」を思い出しました。FORD TRIOもMong Tongも、音源に対してライブの演奏を進化させる共通点があると思うんですけど、実際ライブを見てみてどうでした?

Ford:Mong Tongのライブはステージの半分ぐらいが機材だったので「DJのセットみたいだけれど、それらを使いこなして人間らしさもあるライブだ」と、かなり新鮮でした。

Smith:ぱっと聞いて分析できない複雑さがあり、すごくいい音を出してるなと思いました。民族音楽と電子音楽、ロックが絶妙に融合しているのは、自分の耳を信じていて、Mong Tongのマイルールがあって、そのルールや法則を使いこなしているんだろうなって。

Mong Tongのライブ風景。左がJiun Chi、右がHom Yu。

James:自分はドラマーなので特に打楽器に注目するんですけれど、Mong Tongは特にパッドの使い方がすごいな!って。普通は1つのパッドに1つの音を入れるけれど、Mong Tongは1つのパッドにいろんな音を入れて、しかもうまく使えている。タイにも一風変わっているバンドはいるんですけど、それは感覚でやっているんです。Mong Tongは音楽を専攻したわけではないのに、自分たちで作ったルールを使いこなして、ライブを作っているんだなって。

Jiun Chi:僕は逆にJamesのドラムを見て、ライブ全体の流れをまとめるのがうまいし、そのスキルがすごいなと思っています。

Hom Yu:FORD TRIOのライブからは、自然体でお客さんと向き合っている姿勢を感じました。台湾のバンドはアイドル化してる側面があるので、結構新鮮だったかも。

 

文化交流から生まれた新しいサウンド

◎ 『Khun Pra! 東福』はタイと台湾の文化交流がテーマになっていますね。

James:1曲目「Alright Alright」と3曲目「BNK」は、2023年の10月にMong Tongが『道火 Tao Fire』ツアーでタイに来てくれた時にレコーディングしました。タイの伝統音楽の先生をスタジオに招いて、ラナート(旋律木琴)、チン(小型の薄いシンバル)、クラップ(拍子木)、ソー(弓奏楽器)などでジャム・セッションをしたんです。

Smith:時間が2~3時間しかなかったので、タイの楽器をマスターするのは無理だなって。そこで、タイの楽器をタイの楽器としてではなく、あえて「音を出すツール」として見て即興演奏を行いました。

◎ 先生がその場にいるとはいえ、伝統楽器をその場で形にしていくのは大変だったのでは?

Ford:それまでは「楽器にある程度慣れてから即興演奏する」というやり方だったので、慣れてない楽器でセッションしてうまくいくのかな?と不安でした。でもそこはMong Tongがリードしてくれて、意外とうまくいって。

James:Mong Tongと僕たちは失敗が好きという共通点があって、失敗からアイディアが生まれていったんです。

Hom Yu:演奏後に「うまくいった!」という感情が「Alright, Alright」って言葉が自然と出てきて、そのまま1曲目のタイトルになりました。

 

◎ 逆に難しかったことってあります?

Ford:お互いに通ってきた音楽がちょっと違っているので、重なり合う部分を見つけるまで少し時間がかかったかも。たとえば僕らはスティーヴィー・ワンダーが好きなんだけれど、Mong Tongはどちらかといえばメタル寄りやサイケデリックを通ってきていているので「同じ文脈を共有してないからこそのむずかしさ」というか。

Smith:わかる。僕たちがロック・テイストを抑えてから少ししっくりくるようになったかも。

Jiun Chi:2曲目「BNK」4曲目「WIND」はタイに行く前にデモを交換しました。『Tao Fire 道火』の時もそうだったんだけれど、Mong Tongの活動ではフィーチャーする文化や相手を理解してから音を作るというやり方をしていて。タイの文化を掘り下げていなかったから「大丈夫かな…」と思っていたんです。でも、タイで顔を合わせてから話が進んでいったなと思います。

実際に会うことで、理解が進んでいく。

Hom Yu:文脈が違っていても、テイストとセンスが近ければ、歩み寄ることができるんだな、っていう発見がありました。それからインフラ面で言えば、FORD TRIOのスタジオ(Echo Sound Studio)でセッションできてすごくありがたかった!スタジオがなかったら、このEPは生まれていないですからね。

◎ ミックスはHom Yuが担当したんですよね?

Hom Yu:そう、3月にミックス作業とSXSWが重なって結構忙しくて、SXSWでホテルのテレビ備え付けのスピーカーで音を出して作業しました。なので、クオリティがちょっと心配だったんだけど、FORD TRIOから「いいね!」って言ってもらえたので、本当に大丈夫かな…と心配でした(笑)

◎ それ、忙しすぎ(笑)今日のインタビューもそうですけど、場所って大事ですね。

FORD TRIOの活動を長年サポートし、Mong Tongのタイ来訪に尽力したレーベルオーナーのケンさんは2023年12月に急性心不全で亡くなった。ケンさんへの感謝を込めて、フィジカル音源には「In memory of KEN」と記されている。

ケンさんのメッセージ

アジア発・越境するバンドとして

◎ 両バンドとも、海外公演数が増えているけれど、海外に出ることでアイデンティティの変化って感じます?

Smith:もともと旅することが好きなので、音楽を演奏することに新たな情熱を見出しました。この新たなモチベーションが、より良い音楽を作り、パフォーマンスを向上させる原動力にもなっています。

Jiun Chi:海外の文化を吸収して、自分の考え方とか生活の仕方、ライブにも影響が出ているなぁ、とは思います。

Ford:タイ国内だけで活動していた頃は、タイの界隈しか見えていなかったんですけれど、海外に出ることで自然と入ってくる情報量が増えてて、お客さんや他の国のジャンルから影響を受けて、方向性の決め方にも影響していると思います。

James:情報量は圧倒的に多くなったよね。初めて日本に行った時は「僕たちはタイ語で歌うけど、お客さんにとって言語のわからないライブをどうやって作ればいいのかな?」という疑問はあったんだけど、実際に行ってみると思いもよらない反応をもらえたりして。2回目からはアイデンティティの見せ方が少しは洗練されたと思うんです。

Hom Yu:海外に行くことで進化するけれど、自分の文化やアイデンティティをうまく表現したいのがあって、逆に揺らがないようにしようと最近は思ってます。

◎ 最後に、今後の予定と日本のファンに一言お願いします。

Hom Yu:『Khun Pra! 東福』はMong TongとFORD TRIO、台湾とタイの要素が融合したユニークなEPだと思います。海外のバンドとEPをリリースするのは初めてだから、特別なアルバムです。是非、日本の方も聴いてください!

Ford:僕たちにとって、今まで一番良い作品だと思っています。

James:8月に日本でツアーをやるので、是非見に来てください。これまでの作品と今回のEPの曲と両方演奏するので、どちらも聴けます!

Jiun Chi:(この記事はMusic Lane Okinawaで公開される予定なので)いつか沖縄にも行ってみたいなぁ…

Smith:日本のみなさんとまた会えることを楽しみにしています!

◎ ありがとうございました。

 

Live Information

FORD TRIOLET THEM KIDS SEELP release party Japan Tour

今年1月、沖縄での「Music Lane Festival Okinawa 2024」でのパフォーマンスをきっかけに、8月、兵庫県三田市の野外フェス「ONE MUSIC CAMP 2024」への出演が決定した「FORD TRIO」。「ONE MUSIC CAMP 2024」に合わせる形で、大阪、名古屋、東京、3か所での日本ツアーが決定した。今年3月に、リリースしたLP「LET THEM KID SEE」のリリースパーティーも兼ねて開催される。

ファンクやブルースをベースとしながらタイの伝統音楽を独自解釈し取り入れたことで新たなカウンターとなりうるサイケデリックさを手に入れた彼ら。今回、東名阪でのリリースパーティーには、Summer Eyeがゲスト/ DJで全公演に出演予定。各地豪華ゲスト陣を迎えた煌びやかなラインナップとなった。

8/27(火)東京月見ル君想フでの公演は、福岡発・注目のアジアンエキゾティカバンド「MuchaMuchaM」が登場。彼らの1stアルバム「QANTIKALA」のリリースパーティを兼ねたダブルリリースパーティーとなる。

FORD TRIOLET THEM KIDS SEELP release party Japan Tour Date

8/24兵庫 / HyogoONE MUSIC CAMP 2024
8/25
大阪 / Osaka 火影
8/26
名古屋 / Nagoya KDJAPON
8/27
東京 / Tokyo 青山月見ル君想フ

<大阪 / Osaka>
日程:2024年8月25日(日)
時間:OPEN&START 19:00
会場:HOKAGE
LIVE : FORD TRIO
GUEST LIVE : Summer Eye
DJ : HAPPFAT、and more
FOOD : STUDIO ECHO
TICKET:Adv. ¥5000 / Door ¥5500
Ticket link:https://240825.peatix.com

<名古屋 / Nagoya>
日程:2024年8月26日(月)
時間:OPEN&START 19:00
会場:KD Japon
LIVE : FORD TRIO
GUEST LIVE : 登山部experiment
DJ : Summer Eye
TICKET:Adv. ¥5000 / Door ¥5500
Ticket link:https://240826.peatix.com

<東京 /Tokyo>
FORD TRIO & MuchaMuchaM
double release party in Tokyo

日程:2024年8月27日(火)
会場:青山月見ル君想フ
時間:OPEN&START 19:00
LIVE : FORD TRIO / MuchaMuchaM
DJ : Summer Eye / SOHKI (Special 10 Records)
TICKET:Adv. ¥5000 / Door ¥5500
Ticket link:https://240827.peatix.com

FORD TRIO bio

2017年結成のタイ出身スリーピース・ファンクバンド。タイ・ファンク&タイ・サイケを現代に召喚し、ダンサブルに、時に妖しくグルーヴする。昨年はMahorasop、Wonderfruitsなどタイの重要フェスに軒並み出演を果たし、いよいよ今年は世界に羽ばたくと期待されているバンド。

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