【Interview】
someshiit 山姆 (TW)
コザの天ぷら【コツのいらないアジア音楽】41 特別編

− Rapperであり、数々のバンドの音を聴きながら育ってきたアジア人として、ライブステージに対する自分の理想や想像は、もっと別のところにあります。〔someshiit 山姆〕

  今回は特別編。2026年1月31日に沖縄で開催されるMusic Lane Festival Okinawa 2026への出演が決定している、台湾のRapper someshiit 山姆 へのメールインタビューをお届けします。

11月に東京で開催された初の日本公演、そして来年2026年1月、沖縄でのMusic Lane Festival Okinawa 2026出演と来日公演が続く中で、someshiit 山姆のライブステージや、これまで触れてきた文化体験に関して、話を聞きました。

〈アーティスト紹介〉
someshiit 山姆


2019年に発表したデビューデモ「Those Who Told Me Not to Quit Smoking(俺にタバコをやめろと言った人たちはみんな死んだ)」は、538万回以上の再生を記録し注目を集めた。2023年に初EP『THE FALL』、2024年には1stアルバム『A FOOL』をリリース。

ライブはダイナミックなエネルギーで知られ、Megaport FestivalやVagabond Festなど台湾の主要フェスにも出演。韓国のサイケデリックバンドCHSとの国際的なコラボレーションも行っている。

 

 

Q1 初めて触れた日本の音楽について

幼いころ、あなたがこれまで触れてきた日本の文化やサブカルチャー、日本の音楽やアーティストの中で、「日本の音楽をはっきり意識した最初の瞬間」は、いつ、どんなきっかけでしょうか?

A1

someshiit 山姆:子どもの頃、我が家にはインターネット環境がなく、音楽を聴きたいときは、他県で大学に通っていた兄にCDを買ってきてもらっていました。兄が週末に帰省すると、そのCDを受け取り、ラジオプレーヤーで再生していたのをよく覚えています。

その時、兄に初めて頼んで買ってきてもらったのが、YUICAN’T BUY MY LOVE でした。きっかけは、当時彼女のヒット曲CHE.R.RY をとても気に入っていたからですが、気がつけばアルバム一枚まるごと口ずさめるほど聴き込んでいて……それなのに、当時の自分は歌詞の意味をほとんど理解していなかったんですよね。

<当時、日本のアニメのエンディングやCMソングとして起用された CHE.R.RY / YUI>

 

Q2 someshiit 山姆 と 台北のライブハウス 台北月見ル君想フ

台北月見ル君想フの地下ライブステージの様子

東京 青山のライブハウス月見ル君想フや、音楽レーベルBig Romantic Recordsを手がける寺尾ブッタさんの過去のSNS投稿を見ていると、あなたが何度も、かつて台北にあったライブハウス台北月見ル君想フの観客として、フロアに居る様子がテキストで投稿されていることに気が付きました。2025年の秋に惜しまれつつ閉店した場所ですが、あなたにとって台北月見ル君想フはどんな存在だったのでしょうか?

A2

someshiit 山姆:最初に、聴き手として 台北月見ル君想フ へ憧れを抱くようになったきっかけは、青葉市子さんの存在でした。あの頃の自分にとって、彼女の歌声は、まるで(台北月見ル君想フの舞台にある象徴的な)“月”そのものと深く結びついているように感じられたのです。

<声色とガットギターが印象的な楽曲、月の丘 / 青葉市子。ミュージックビデオにも月のモチーフが登場する>

その後、幸運にも自分でも創作を始めるようになり、いつか台北の一角にある潮州街の月見ル君想フ、地下室にある、あの夢に描いていたステージに立てる日を心待ちにするようになりました。

時が経つにつれ、演者として出演の機会が増えても、その憧れが薄れることはありませんでした。むしろ、台北月見ル君想フ という場所の魅力に、より深く惹き込まれていきました。そこでは、音楽がどんな姿にもなれる自由さがありながら、同時に”台北月見ル君想フというフィルター”を通して、想像もしなかった色彩が浮かび上がってくるのです。

これこそ、私が途切れることなく足しげく通い、音楽が鳴る空間に居続けていた理由であり、寺尾ブッタさんに深い敬意を抱いている所以でもあります。

台湾のライブハウス 台北月見ル君想フのサヨナラ公演出演の際の告知ポスター。地下のライブハウスに繋がる階段で撮影。


Q3 someshiit 山姆 と 台湾の音楽フェスティバル 浪人祭Vagabond Festival

昨年の台南・浪人祭Vagabond Festivalが、あなたにとって初めての音楽フェスティバル出演でした。その後、今年4月の野人祭Savage Festivalや10月の浪人祭Vagabond Festival、11月に東京で開催された <浪人祭:東京公演>にも出演されていて、この1年の間に、浪人祭の主催者である蕭達謙(Echo Hsiao)さんが手がける音楽フェスティバルに、4回参加されています。あなたにとって、 浪人祭Vagabond Festivalはどんな音楽フェスティバルですか?

また、聞くところによると、あなたと主催者の蕭達謙(Echo Hsiao)さんは同じ年とのことですが、同世代だからこそ、好きな音楽のタイプや、考え方などで、理解し合える部分があったりするのでしょうか?

浪人祭のステージの様子

A3

someshiit 山姆:浪人祭Vagabond Festival は、私の音楽キャリアにおいて初めて出演した音楽フェスティバルでした。そして、自分の“ 最初 ”が 浪人祭Vagabond Festival であったことが本当に良かったと、今でも強く思っています。

観客の体験一つひとつにまで心を配る姿勢、出演者への細やかな気遣い。そして何よりも、なかなか出会うことのない”文化と細部へのこだわり”や、”音楽という場そのものへの深い愛情” が、このフェスにはありました。

主催者の蕭達謙(Echo Hsiao)さんとは、同じ1993年生まれということもあって、成長過程において、聴いてきた音楽、いわば人生のBGMが重なっています。その共通点があるからこそ、似たようなロマンやこだわりを持ち、自然と同じ方向を見られたのだと思います。

someshiit 山姆とecho

その結果、私たちの関係は、単なる主催者と出演者という枠を超え、“それぞれの領域から手を取り合い、同じ目標を形にしていく仲間 ”に近いものだと感じています。

Q4 音楽スタイルについて

あなたのステージを観るまで、作品から受けたイメージは、自身の心の内側で決断を行う葛藤や迷い、自分自身への怒りなどを綴る、内向性の強いベッドルームミュージックとしての印象が強いものでした。一般的に、こういった場合、アコースティックなギター弾き語りや、アンビエントな音楽ジャンルで活動する人が多いように思います。あなたがRapという手法を選んだ理由はなぜでしょうか。今年の浪人祭Vagabond Festivalで見たあなたのステージは、昨年見た時よりも、生バンドと共に、喜怒哀楽のはっきりとした演奏や細やかな照明のライティングでより感情の揺れ動きに立体感が出ているように感じました。自分の作品を1人で制作することに留めず、アーティスト活動を開始し、活動を始めた早い段階で周りの人の力を借り、作品の世界観をバンドの仲間と共に拡張しようと思ったいきさつを教えてください。

A4

someshiit 山姆:HipHopやRapは、私が歌を通して考えや想いを届けるための表現手段です。
けれど、数々のバンドの音を聴きながら育ってきたアジア人として、ライブステージに対する自分の理想や想像は、もっと別のところにあります。つまり、自分が思い描くステージをどう形にするか ということのほうが、ずっと重要です。

私は、いわゆる”クラシックな欧米HipHopのライブイメージ”を再現したいわけではありませんし、その再現能力があるとも思っていません。
それよりも自分として大切なのは、そのマインドを自分の中に取り込み、自分ならどう表現できるか、そして、自分が同じ熱量で愛してきたHipHopとバンドサウンドの要素をどう融合できるのか--これが今、挑もうとしている事です。

この道は決して簡単ではありません、まだまだ足りない部分も多いですが、それでも、すでにその道を歩き始めていることを、心から幸運だと思っています。

東京公演のステージの様子

 

Q5 名誉ある称号と、今の心境について

今年、台湾で二大音楽賞のひとつである「金曲賞Golden Melody Awards」で最優秀新人賞を、 「金音創作獎Golden Indie Music Awards」では最優秀ヒップホップアルバム賞を受賞されました。こうした大きな評価を得たあとで、作品づくりやステージの準備の仕方、あるいは日々の生活の面で、なにか変化はありましたか?

そして、その変化をどのように受け止めて、向き合ってきたのか、そのあたりについても、ぜひお聞かせください。

ステージに詰めかける沢山の観客

A5

someshiit 山姆:私にとっては、多くの変化は心の在り方への“適応”でした。

もし受賞というものが、周囲からの期待や視線が増えることを意味するのであれば、私はそれにどう向き合うべきなのか。あるいは、どう距離を取るべきなのか。

そして、もし私の創作のコンセプトにあるのが “コンプレックス”と”不安”だとするなら、ステージの上ではその「自信のない自信」や「脆い強さ」を、どう表現すればよいのだろうか。

さらに、中国語圏の外では、聴き手が歌詞の意味を理解できない場合もある。その時、私はどのように自分と向き合うべきなのか。

そして、今のところ私が出した答えは、”感情そのものを通して、私が語ろうとしている物語を感じてもらう” ということです。

聴き手は物語の内容を完全には理解できないかもしれませんが、しかし、声の温度や語り方、パフォーマンスによって、その物語に宿る感情やエネルギーを届けられるなら、それが最も理想的な形だと思っています。

<台湾の音楽賞授賞式でのパフォーマンスの様子。台湾のHipHop・R&BコレクティブThat’s My Shhhとのコラボステージの後半10:00~に登場>

 

Q6 海外アーティストとの共演・楽曲制作について

韓国のバンド CHS と共に〈善良是kinds of kindness〉を制作し、今年は韓国バンド CADEJO との Live Session も行いましたね。こうしたコラボレーションの中で、何か新しい気づきや刺激はありましたか?そして、今後も海外のアーティストとの制作や共演が続いていくとしたら、ご自身としては、どんな成長や変化、または挑戦を望んでいますか?

A6
someshiit 山姆:彼らとの共演を通して、私はあらためて確信しました。

たとえラップが言語の制約を強く受ける表現であったとしても、結局は “音楽という大きな枠組みの一部”であり、音楽そのものは言語を越えて伝わるのだということを。

ステージの上では、私たちはほとんど言葉を交わしません。それでも次のリズムの一拍でどんなエネルギーを放とうとしているのか、互いに自然と分かり合える瞬間があります。

その無言の呼吸がとても心地よく、同時に、その心の通い合いが生まれるためには、膨大な練習や学びの積み重ねが必要なのだということも理解しています。だからこそ、私はこれからも努力を続けていきたいと思っています。

<日本のSSWのmei ehara とも共作経験のある韓国のバンドCHSと、 someshiit 山姆のコラボ曲 “善良是やさしさとは Kinds of Kindness (ft. CHS) / someshiit 山姆”>

Q7 言語の違う国で

ほかの音楽ジャンルと比べると、Rap作品は音そのものだけでなく、歌詞や言葉の意味をとても大事にします。そんな中で、台湾と言語が違う日本でライブをするとき、どのように現地のリスナーを捉え、あなたの作品を届けたいと思っていますか?

A7
someshiit 山姆:私は、これからのステージでも、これまでの自分らしさを大切にしたいと思っています。率直で飾らず、歌詞を通して自分の感情をそのまま伝えるという姿勢を保っていたいのです。

同時に、この1~2年の間で、関連する言語をしっかりと学びたいとも考えています。

そうすることで、創作においても、MCの場面においても、より柔軟に人々と向き合い、コミュニケーションの幅を広げられるはずだからです。

まだ日本での出演経験は多くありませんが、前回の〈浪人祭:東京公演〉のステージでは、言葉が十分に通じない自分を観客の皆さんが温かく受け入れてくれて、本当に救われました。

そして、拙いながらも、自分の想いが少しでも伝わったことが、とても嬉しかったです。

2025年11月東京 代官山UNITに出演時の様子

 

Q8 Music Lane Festival Okinawaへの想い

最後に、沖縄で開催される Music Lane Festival Okinawa 出演に向けての期待や、今の気持ちをぜひ聞かせてください。

A8

someshiit 山姆:沖縄でこれから得られる体験や刺激を楽しみにしていますし、自分のクリエイティブが沖縄という場所でどのような可能性を持てるのか、その広がりを見るのも、とても待ち遠しく感じています。

東京公演のステージの様子

※このメールインタビューは11月に東京で開催された「浪人祭:東京公演」を記念して行われました。

Instagram版中国繁体字版インタビューには、< 浪人祭Vagabond Festival2025 >や< 浪人祭:東京公演 >出演時のライブ写真を多数掲載しています。ぜひご覧ください


<someshiit 山姆 来日公演情報>
“Music Lane Festival Okinawa 2026 / Trans Asia Music Meeting 2026”

日程:2026年1月30日(金)-2月1日(日)
*someshiit 山姆の出演は2月2日(日)

会場:コザ・ミュージックタウン1F音楽広場・7th Heaven Koza・REMY’S・Crossover Cafe614・SLUM BAR/ほか(沖縄県沖縄市)

チケット:発売中

公式HP:https://www.musiclanefestival.com/

お問い合わせ:musiclaneokinawa@gmail.com

〈企画制作・インタビュー〉
企画制作: サクライ アヤコ
メールインタビュー:サクライ アヤコ
翻訳:mayuzumi
写真提供:笨道策展有限公司、ROMANTIC ENTERTAINMENT大浪漫娛樂集團

サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛し、国内外の音楽フェスティバルを飛び回る、コラム・エッセイスト。 Music Lane Festival Okinawa 応援団。

Instagramにて、国内外の音楽フェスティバルやアジアの注目すべき楽曲を紹介するAsia Music + Festival=FestivalBeat.Asiaを運営中。

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