【Interview】
新垣睦美 / Aragaki Mutsumi(中編)
沖縄ジャズ界のレジェンド与世山澄子から学んだこと。
頭の中で鳴り続ける自分の音楽に近づくための道のり。

毎年10月にヨーロッパの都市を巡回して開催される世界最大のワールドミュージックの見本市「WOMEX(the World Music Expo)」。毎年世界中から数千組の応募がある中、コロナ禍の2021年、新垣睦美は、その公式のショーケースアーティストに選ばれた。過去に日本から6組目、沖縄からはソロアーティストとして初めて(平安隆がボブ・ブロッズマンと出演)の選出だった。このことは、沖縄だけでなく、日本の音楽シーンにおいても、かなり重要な出来事だったはずだが、さほど大きく紹介されることはなかった。

彼女が選出されたのは、オーセンティックな沖縄の古典音楽や民謡をベースにしつつ、ジャズをはじめとする音楽や映像を融合させた独特の表現、新しい世界観が評価されたのだと推測する。

WOMEXでのパフォーマンスは、彼女にとって世界への扉となった。Sweden-Okinawa art project 2023 (スウェーデン)や、Ⅻ International Sacred Music Festival 2023 (コロンビア)や、日本のFestival de FRUE 2022などに招かれて、演奏を披露し時にレクチャーなども行っている。合わせて国内外でさまざまなコラボレーションの機会も得るようになった。

彼女は多くの沖縄の唄者と同じように、長らく歌・三線を学んできたが、どのように独自の道を歩むようになったのだろうか。三線を手にとったきっかけから、改めて話を聞いてみた。

【Interview】新垣睦美 / Aragaki Mutsumi(前編)歌・三線に独特の”横揺れ感“を見い出し、 沖縄音楽の新たな可能性を手探りで求める世界が注目するアーティストの終わらない旅路。

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(前編から続く)
沖縄で生まれ名古屋で育った新垣睦美は、自身のアイデンティティを確認するように、歌・三線の道を志すようになった。大阪の大学に進学し、フクバル先生(普久原朝喜先生、普久原京子先生)の直系の研究所に弟子入りし、古典と民謡を身につけていく。沖縄の伝統的な音楽を志す中で、彼女が感じていたのは、独特の”横揺れ感“。自身の歌・三線に、頭の中でジャズを鳴らしながら演奏していた。そうした中で、沖縄ジャズ界のレジェンド与世山澄子にジャズボーカルを習いにいくようになった。

(L→R)新垣睦美 / Aragaki Mutsumi・与世山澄子 / Sumiko Yoseyama

与世山澄子さんに教わったこと。

ジャズボーカルを習おうと思ったのは、セッションに出たいというのもあったんですけど、ウチナーの節を 入れたジャズを歌いたいという目的もありました。
与世山先生のレッスンは、英語の発音にとても厳しく、基礎を大切にして、歌に節を入れずに歌うように指導を受けました。節を入れて歌うのは、発声の基礎がもっとしっかりしてからにしようと決めて、歌三線だ けを習っていてついてしまった間違った変な癖を取ることに集中しました。今思えば、あの時に先生が教えて下さったボーカルの基礎があるから、沖縄の特に女性の独特な発声法へのより深い理解力を身につけられ たのだと感じていて、とても感謝しています。また、先生が子供の頃に基地の中で英語を習った時の体験談を聞かせてもらったり、音楽に対するストイックで真摯な姿勢を身近で感じられたのも、とても大きな体験でした。

 

聴こえている音楽に近づけるために。

私は、やりたい音が聴こえていたというか、こういう音楽をやりたいというのが最初から明確にありました。それを始めたのが10年前で、それをどう伝えて、どう実現させていくか、常に試行錯誤しています。さっき話したように、同じ曲でも、縦揺れ、横揺れ、縦横揺れと、いろいろなのを弾いてみせるんですけど、なかなか伝わりませんでした。沖縄音楽の典型的なアレンジのイメージが強すぎて、その既存のフィルターを通して音を聴いているのだろうなと感じることが多かったで す。全く沖縄音楽を知らないミュージシャンの方が、かえって繊細に感じようとしてくれることが多かった 印象です。歌の独特なノリに関しても、縦、横、縦横のノリがあり、特に縦横の揺れ、無拍のリズムの感覚が心地良いと感じていますが、自然な呼吸のリズムで節をつけて歌うメリスマ様式を身体的な感覚で深く理解できるミュージシャンでないと理解しがたい感覚だと思います。それを面白がれる柔軟で繊細な感性を持ったミュージシャンと音楽をしたいと思っています。

新垣睦美 / Aragaki Mutsumi @”Trans Asia Music Meeting 2017″(桜坂劇場,那覇市 / Sakurazaka Theater,Naha-city,Okinawa)

遠回りしながらも音楽経験値を上げるために、チャンスがあれば 様々なジャンルとのコラボなどを経験しました。そうしながらも、自分がイメージする音楽を、雰囲気だけ でも伝えようと思って、パソコンで音源を作り始めたのが、2015-16年です。最初に「Trans Asia Music Meeting」で演奏させてもらって、台湾の映画祭に呼んでもらった頃ですね。

KgKというバンドが、自分がやりたい音楽に近いと感じ、ソロ活動と並行して、何年か共演させてもらいま した。今は一旦KgKさんとは離れているんですけど、それは、ピアノでやりたいという気持ちがずっとあったから なんです。ピアノの音がずっと聴こえていたんですよね。最初に作った『Too Much Love』という曲も、まず ベースがあってそれにピアノを乗せるイメージでした。CD音源にはピアノの音も入っていますが、これは理想のピアニストを見つけられずに、自分でmidiで重ねました。

自由であることを良しとする
ジャズへのアプローチ。

ピアニストの津嘉山梢さんは、クラシック・現代音楽・ジャズ出身で、沖縄音楽も創作に活かしている方です。彼女の演奏や創作曲を聴いて、とても興味を持ちました。まだ知り合ったばかりですが、知識と経験とアイディアが豊富で、音や世界観を繊細に理解して、豊かにしてくれます。これからどんな音楽を一緒に生み出していけるか、とても楽しみです。 ピアニストの香取光一郎さんは、アコーディオンやフルートも演奏され、歌も歌う、独特な感性を持った音楽家です。即興にも強く、10年前くらいに一度フリーセッションをさせてもらったことがあるのですが、 とても楽しくて、印象的だったをふっと思い出し、共演の打診をさせてもらったところ快諾を頂きました。 一緒に演奏する度、そのセンスと瞬発力、爆発力に圧倒されます。

私がジャズが好きなのは、その音色自体が好きなのと、ジャズの中でも、フリージャズやインプロみたいな、枠がある、または無いところで、自由であることを良しとするところに魅力を感じるからです。私がつくりたい音楽は、沖縄の音楽が真ん中にあるけれど、いい距離感を保ちつつそれぞれが 独立しながら共存していて、且つ、深いところでは強く繋がっていて、音がぶつかったとしてもそれをも面白がれる、絵でいったら印象派のような音楽で、ジャズの中で も割と有機的なフリージャズとかモードジャズとかがしっくりくると感じています。

ミュージシャンにも様々なタイプの方がいますが、自身の土台と哲学を持った上で、新しいもの、異なるも のも面白がれる余裕のある、オープンマインドでクリエイティブな方と一緒に音楽をつくりたいと思っています。

私の場合は、真ん中に歌・三線があって、周りで他の音が聴こえ始めてという経緯があるので、ただ頭の中で聴いているものを、そこから出して自分が直接聴いてみたいんですよね。それをずっとやりたくて、10年 間やってきたんです。

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BIO
新垣睦美 / Aragaki Mutsumi
(歌三線  vocal,  Okinawan Jazz, electronics, audio-visual, soundscapes, アレンジ, 作曲)

沖縄伝統音楽を独特な解釈と世界観でアレンジ、作曲。世界最大級のワールドミュージックのエキスポ WOMEX2021 Official Showcase Artistとして日本で6組目、沖縄からはソロとして初めて選ばれた。ソロアルバム「Another World Of Okinawan Music」をリリース、国内外で高い評価を得る。BBC Music Magazineの”The best world music recordings released in 2021 so far”に選ばれた。MUSIC MAGAZINE 2024年6月号 “ニッポンのトラディショナル・ポップの現在 アルバム23選”に選ばれた。沖縄音楽の巨匠 普久原朝喜、普久原京子の孫弟子。

 

ライブ・インフォメーション

NAMGAR / ナムガル Live in Okinawa 2024
出演:NAMGAR / ナムガル(ブリヤート共和国)
ゲスト:新垣睦美(キーボード:津嘉山梢)
10/16(水)桜坂劇場 ホールB(那覇)
開場18:30 開演19:00

詳細:https://sakura-zaka.com/?event_info=event_info-135466

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