前回は「タイでファンを獲得するためにしておきたいこと」と題し、まずは認知度高めて知ってもらい、そして、エンゲージメントを強化してファンになってもらう、といったことについて解説しました。
ただ、一言で「認知度を高める」と言っても多種多様な手法があり、どういった手法を選択するのかは、予算やバンド・アーティストの方針などなど、状況によって様々です。予算をかけて良いのであれば、主要メディアでの露出や屋外広告などもありますし、予算が潤沢にない場合は、予算を管理しやすく効果も見えやすいオンライン広告やSNS運用などもあります。
また、ことタイでの認知度向上となると、当地でのメディア事情や、文化・風習・言語などの地域性、当地での広告・宣伝の出稿方法など、日本国内とは異なる知識や配慮も必要となります。
そういった情報を一から収集するのは骨が折れますし、タイでの認知度向上施策を実施する前に、やること多すぎて力尽きてしまいます。
ということで、今回は、タイで認知度向上を図るうえでのオススメ施策についてご紹介します。
タイで、と銘打ってはいますが、他の国でも応用できる施策かと思いますので、活用いただければ嬉しいです。
タイのバンド・アーティストとコラボしよう
前回のコラムでは、「認知度向上の段階では、楽曲やMVに触れてもらえる機会を増やし、自分たちを知ってもらえるような活動をしましょう」といった話をしました。
認知度向上段階での主力コンテンツは楽曲・MVになりますが、ここで「タイのバンド・アーティストとのコラボ」を仕掛けると、当地での認知度向上がぐっと楽になります。
コラボすることのメリット
コラボの何がいいかと言うと、大きく二つあります。
一つは「お互いの国での知名度を活用したプロモが可能」なことです。
相手方には、すでに一定数の現地のファン・フォロワーがいることが期待できますし、しかも、現地語でプロモをやってくれるので、現地の方々にすっと伝わります。また、相手の当地での知名度やコネクション次第にはなりますが、上手くいけばラジオオンエアーや音楽系メディアへの露出などもあるかもしません。
あともう一つは、認知度が高まれば、いつか行き来ができるようになり、現地でライブをすることになった際に、「現地でのライブの集客」にも期待ができます。
ここでも、コラボしたバンド・アーティストが現地でのライブ告知を助けてくれるでしょうし、さらに、ライブにゲスト出演といったライブの演出も考えられます。
実はこんなにあった、日本とタイのコラボ楽曲
コロナ禍のため、2020年から2021年にかけてはライブ活動が思うようにできなかったこともあり、楽曲制作がメインとなったバンド・アーティストも多かったのではないでしょうか。
そういった事情もあってか、去年今年と、タイのバンド・アーティストとのコラボ楽曲制作が加速した感があります。
2020年にリリースされたコラボ曲
タイ人気シンガーソングライター「Max Jenmana」 X LUCKY TAPES 高橋海・AAAMYYY
「Max Jenmana」は、YouTube再生2.5億回記録のヒット曲を持つシンガーソングライターで、日本でのデビュー作『555!』で日本のアーティストとコラボ曲を制作しました。AAAMYYYとはMVで共演も果たしています。
実は、2020年の秋口に日本ツアーが決まっていて、場所も対バンも決まって告知もされていたのですが、コロナのため実現せずでした。行き来ができるようになってから、再度ツアーを組むのかと思われます。
タイの国民的人気ポップスター「Stamp Apiwat」 X SKY-HI
タイのポップスター「Stamp」さんは日本好きということもあり、日本のバンド・アーティストとのコラボ楽曲に多数参加しています。このコラボ楽曲リリースの後、SKY-HIの所属レーベルavex主催の「a-nation online 2020」に出演しています。
タイ若手サイケソウル「Supergoods」 X TOSHIKI HAYASHI(%C)
DJ/BEAT MAKERのTOSHIKI HAYASHI(%C)は『Synchronizing』という、海外の女性シンガーとコラボして3ヶ月連続で楽曲をリリースする、というプロジェクトを立ち上げてまして、第一弾は韓国のOuiOui(ウィウィ)、第三弾は台湾の9m88(ジョウエムバーバー)、で、第二弾がタイの若手サイケソウルの急先鋒「Supergoods」でした。
兄妹シンセポップユニット「Plastic Plastic」 X SHE IS SUMMER
兄弟シンセポップユニット「Plastic Plastic」がSHE IS SUMMERの楽曲を作曲したり、Plastic Plasticの曲にSHE IS SUMMERがコラボしたりと、相互でのコラボが実現しています。
Plastic Plastic作曲のSHE IS SUMMERの楽曲「綺麗にきみをあいしてたい」はタイでも話題となり、タイのメディアでも取り上げられました。
Plastic Plasticの曲にSHE IS SUMMERがコラボした曲「ร้อน (boiling)」はさらに多くのメディアでも取り上げられ、タイの音楽系ラジオ局「Cat Radio」が毎週発表しているランキングで週間1位を獲得。特にこの「Cat Radio」で日本人アーティストが1位を獲得したことは、Plastic Plasticの曲にコラボした楽曲とは言え、快挙じゃないかな、と思っています。
タイの音楽系ラジオ局「Cat Radio」が毎週発表しているランキング「Cat 30」
「ร้อน (boiling)」については、Plastic Plasticの曲にSHE IS SUMMERがコラボした、ということで、SHE IS SUMMER自身の曲ではないものの、知名度向上には一役買っていると思われます。ラジオ局のランキングで1位になるということは、相当回数オンエアされているということなので、SHE IS SUMMERという名前が何度もラジオ内で言及されたことになります。
また、Cat Radioは、3万人規模の大型フェスを年に2~3回主催しており、そこへの出演の芽もあります(というか、実はCat Radio主催のとあるフェスへのブッキングが進んでいました)。
タイにもすでに一定数のファンがいる状態なので、来タイしてライブするのに良い状態が整っているんじゃないかな、と思っていたのですが。。。
なんとSHE IS SUMMERとしての活動は2021年4月で完結ということで、タイでの知名度が出てきたのに、残念ながら、来タイライブは叶わぬままとなりました。
2021年にリリースされたコラボ曲
2021年も引き続き、タイと日本のコラボ楽曲が連発リリースされています。
タイのドリームポップバンド「Folk9」 X Luby Sparks
コロナ禍ということもあり、制作は全てオンラインでおこなわれました。MVにはLuby SparksボーカルのErikaが出演しています。
こちらも、後々のLuby Sparksのタイ公演、folk9の日本公演を狙っているんじゃないかな、と思いますし、コラボしたからにはそうあって欲しいです。
タイの国民的人気ポップスター「Stamp Apiwat」 X chelmico
また出ましたStampさん、今年も精力的に日本のアーティストと絡んでおり、2021年2月にはchelmicoとコラボ曲をリリースしました。
日本の多くの媒体でリリース情報がでているので、Stampさんの日本向けの露出も増えていますし、タイでもリリース情報が出ていたり、Stampさんが自身のSNSでリリース情報を発信しているので、chelmicoのタイでの露出にも大いに貢献しています。
ちなみに、StampさんのSNSフォロワーですが、Facebook 52万人、Instagram 71万人、そしてTwitter 315万人のフォロワーがいるので(コラム掲載時点)、拡散力がだいぶ強いです。また、Stampさんのファンに直接的に楽曲が届くので、ちゃんと聴いてもらえる可能性が高くなります。
アジアのラバーボーイ「Phum Viphurit」 X Nulbarich
YouTube 8,200万回再生という大ヒット曲「Lover Boy」を持つ「Phum Viphurit」、今やアジアはもとより世界中にファンがいる彼が、Nulbarichの楽曲「A New Day」にコラボ共演しました。多くの日本のメディアで取り上げられたのはもちろんですが、タイでも多くのメディアで掲載され、話題となりました。
また、タイの著名アート・カルチャー誌「a day」からのインタビュー依頼を受け、「a day」のWebサイトにロングインタビューがタイ語で掲載されています(日本在住のタイの方がNulbarichにインタビューをおこない、それがタイ語訳されて掲載されています)。
※インタビュー記事はこちら。
「a day」のSNSも相当なフォロワー数を抱えており、Facebook 114万人、Instagram 10万人、Twitter 70万人と(コラム掲載時点)、当インタビューはタイのアート・カルチャー好きな層に広く拡散されました。
楽曲情報のメディア掲載のみでなく、こういったインタビュー記事があると、アーティストの人となりもわかってもらえるので、タイのリスナーに向けて一歩踏み込んだ露出ができます。
タイ人気シンガーソングライター「Max Jenmana」 X Ryu Matsuyama
タイの人気シンガーソングライターMaxさん、2020年に引き続き2021年も日本のバンドとコラボしました。
すでに2回のタイツアーを敢行しているRyu Matsuyamaの楽曲「Under the Sea」に客演しています。こちらの曲もタイで話題になりまして、多くのメディアで掲載されました。
コラボ楽曲リリース後、スペシャルトークライブということで、Ryu MatsuyamaのRyuさんがMaxさんをお招きしてインスタライブを敢行しました。どうしてMaxさんを誘ったのか、Maxさんはオファーを受けてどう思ったのか、楽曲を一緒に制作するうえでお互いどう感じながら進めたか、などなどコラボ楽曲制作の裏話がたくさん語られました。
2020年以前にリリースされたコラボ曲
実は2020年以前もタイと日本の交流は盛んで、いち早くアジアに目を向けていた日本のバンド・アーティストがタイのバンド・アーティストとコラボ曲をリリースしていました。
タイの国民的人気ポップスター「Stamp Apiwat」 X Five New Old
またまた来ました、Stampさん。お互いの楽曲でコラボしたり、お互いの国でのツアーをサポートし合ったり、ライブにゲスト出演したり、と、深いリレーションシップを築いています。
Stampさんはその後「Summer Sonic 2019」出演したり朝の情報番組「スッキリ」に出演したりしています。
タイHIP HOP界の兄貴分「F.Hero」 X BABYMETAL
コラボ楽曲リリース後のBABYMETALの横浜アリーナでのライブでは、F.HEROがサプライズで登場しました。
ちなみに、この楽曲のタイ側でのレコーディングの際、通訳 兼 あれこれお手伝いでお声がけいただいていたのですが、自身のバンドの練習と日程が被っていたのでお断りした思い出があります。
アジアのラバーボーイ「Phum Viphurit」 X STUTS
Phum君はその後、2018年のWWW企画「In&Out」出演したり、「Summer Sonic 2019」出演したり、と、日本ツアーを敢行しています。
タイメタルコア界の番頭格「Annalynn」 X Crystal Lake
このコラボ楽曲リリース後、STUDIO COASTでおこなわれたCrystal Lake主催「TRUE NORTH FESTIVAL」にAnnalynnがお招きされて出演しています。
コラボ曲制作以外の日本・タイ音楽交流
コラボ曲の制作だけでなく、様々な形で、日本とタイの音楽交流がおこなわれてきました。
例えば、「相川七瀬」の曲のリミックスをタイのユースカルチャーを牽引するラッパー/プロデューサーが手掛けたりしています。
また、これは2020年にスタートした、ちょっと変わった交流コンテンツなのですが、日本の「南無阿部陀仏」というロックバンドが、タイのフェスに出演予定だったのにコロナで流れてしまい、ただ、せっかく知り合ったから、ということで、タイの大学生やミュージシャンとの異文化交流番組をYouTubeで不定期でやっていました。こちらも、いつかのタイ公演の布石になっているかと思います。
また、日本のポップロック「Lucie, Too」が、タイのインターナショナルフェス「Maho Rasop Festival」に出演が決まった際、来タイライブ前にタイの人気バンド「Jelly Rocket」の曲をカバーしてSNSにアップしました。
大変な反響があり、当地でのライブでは、大きな会場をタイ人ファンでいっぱいにしていました。
当時タイで大人気だった「Jelly Rocket」の大名曲「How Long」のカバー
https://www.facebook.com/lucietoo3/videos/194341898153755/
コラボの進め方
コラボの進め方ですが、今までの例を見る限りでは、基本的にはジャンルや当地での人気度が近しいほうが、相乗効果が高い傾向があります。メンバー同士も仲良くなりやすいでしょうし、お互いのファンにも受け入れてもらえ易いでしょうし、日本とタイで呼んで呼ばれてみたいなことをするのもやりやすいので、そういった意味で相乗効果も高くなるんじゃないのかな、と思います。
ということで、まずはシンパシーを感じられる音楽をやっているバンド・アーティストを探してみましょう。探し方は簡単で、Googleなどの検索ページで「タイ ●●(ジャンル名)」で検索すれば、なにかしらの情報にヒットするはずです。最近はタイの音楽を掘る日本の方々も増えてきており、結構幅広いジャンルの情報が網羅されています。
そこでヒットしたバンド・アーティストの名前をYouTubeやSpotifyなどで検索すると、類似アーティストが表示されるかと思います。片っ端から聴いていって、気になったらSNSをチェックしてみましょう。
そして、英語で果敢にメッセージを送ってみましょう。先方にも自分達を知ってもらったうえで、お互いシンパシーを感じられるようであれば、コラボの提案をしてみるのもいいかと思います。
ちなみに、ボクのレーベル「dessin the world」でもタイの音楽情報を発信しています。無名だけどキラリと光るものがあったり、音楽性が尖っていたりするバンド・アーティストにフォーカスを当てて紹介しているので、ちょっと深めのタイ音楽を知りたい方には、びったりマッチするかと思います。
a plan named overlap:日本とタイ、それぞれの国で活躍しているインディーズバンドによるコンピレーションアルバムをフリーダウンロードで配信。
Scenario Asia:今、アジアの現場で鳴っている音を共有するためのプレイリスト。
dessin the world Facebook official page
まとめ
様々なタイと日本のコラボの実例を見てもらいましたが、ポイントとしては、どのバンド・アーティストも、コラボのその次の展開がちゃんとあるんですね。コラボ曲を名刺代わりとして、日本・タイお互いが現地での知名度を上げて、次の展開にスムーズに進んでいけるような戦略を考えているんだな、と感じます。
現在も、いくつかコラボプロジェクトが進んでいるようです。コラボを仕掛けるバンド・アーティストが増えていくと、この流れがさらに加速して、大きな交流活動になっていくんじゃないかな、と期待しています。
いつかのタイ進出のため、そして、進出したときに知名度がある状態にしておくため、タイのアーティストとのコラボ楽曲を今から仕掛けておくの、オススメです。
※Music Lane連載との連動プレイリストも合わせてどうぞ。今回ご紹介のバンドは49曲目以降になります。
Music Lane連載 連動プレイリスト「めくるめくタイインディーズの世界」
■執筆者紹介
Ginn
タイ・バンコク在住15年。タイ人メンバーと結成したポストハードコアバンド「Faustus」で自身でも音楽活動をしつつ、日本とタイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」を主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、日・タイ音楽交流のための草の根活動をおこなっている。
- dessin the world
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