【ウランバートル / Ulaanbaatar】”Playtime Alternative Night” 2023年7月8日、ウランバートルにて。

2023年7月8日、色々あったウランバートルでの1日を、備忘録として記しておく。
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毎年7月にモンゴルのウランバートル近郊で開催される”Playtime Music Festival”は、個人的にベストの一つに入る音楽フェスティバルだ。
舞台となるのは、Hotel Mongoliaの裏側の川沿いに広がる草原。素晴らしいロケーションの中、メインとなるPlaytime Stageを中心に、趣向を凝らしたいくつかのステージが配されている。ローカルフードやクラフトビールも楽しめる。7月は気候も良く、からりと晴れて高い青空が広がり、会場全体に流れる緩やかな空気感が心地よい。午後早い時間には、ディレクターのGeorgeが、出演アーティストをVIPエリアに招いてウォッカ・セレモニーで歓迎してくれることも恒例となった。

Playtime Festival 2018

会場全景。手前のゲルはホテルの宿泊施設。
Playtime Festival 2018

今回は、2019年以来、5回目の参加となった。

春先に、Georgeからフェスへの招待のメールを受け取った時、ダメもとでこんなお願いをしてみた。
「枠が空いていれば、小さな場所でもいいから、沖縄のバンドを出演させることができないだろうか」。「誰かいるのか?」という問いに、”TOSH”の名前をあげた。
TOSHは、一時期、桜坂劇場でアルバイトをしていた。縁があって、2020年3月に、彼の1stEPを劇場のレーベルからリリースした。しかし、折からのコロナ禍で、あらゆることが頓挫した。それでも彼はしぶとく音楽活動を続け、着実に支持を広げていた。

1週間ほどして届いたGeorgeからの返信には「TOSHはまだ出る気があるかな? New Wave Stageならスロットを空けられそうなんだけど」と書かれていた。即決である。

発表されたラインナップの中に、日本のバンドはTOSH以外見当たらなかった。

“Playtime Music Festival 2023” 2023 July 6th

TOSH とサポートDJのEiji Harrisonとウランバートルに入ったのは、7月5日のこと。
空港には期間中アテンドしてくれる、BillとBilguunのなんだか楽しい二人組が待ち構えていた。気温は14度。いつものこの時期に比べてかなり肌寒かった。彼らが言うには「ここしばらく天気も悪く。大雨が続いて、市内で洪水が起きている」とのこと。車に乗るなり、会場の足元が悪いと言うことで、シューズのカバーを渡された。

ガイドをしてくれた、Bill(左)とBilguun

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェス自体は、コロナ禍を経て、ずいぶん様子が変わっていた。
明らかにこれまでと規模感が違った。コロナ前に訪れた時はおそらく1日1万人ほどの観客だったと思うが、今回は25,000人。ステージの数も増え、出演バンドの数も増えた。国内150組、海外20組。体感として2.5倍ぐらいにはなっている。
しかし、そうした急速な拡大の一方で、インフラは間に合っていなかった。ウランバートル市内から会場までは、通常は車で30分ほどの距離だ。しかし、幹線道路から、フェス会場にアクセスできる道路は片側1車線。コロナ前から規模が2.5倍になっているものの、一朝一夕に道路ができるわけではなく、完全にキャパオーバーの状況だった。

それでもフェスの会場に入ると、そこはまるで音楽とエンタメにあふれた夢の空間だった。あらゆる工夫が凝らされていたと思う。

 

7月8日、Playtime Music Festival 2023<DAY3>

TOSHの本番日。
出番は19:30。サウンドチェックはお昼からだったが、渋滞を心配して、朝8:30にホテルロビーに集合した。
「昨日深夜のライブが中止になったみたいですね」とTOSHから聞く。「川の水位が上がったみたいですよ」とのこと。
昨夜、私たちは、ヘッドライナーの”Cigarettes After Sex” のライブを聴いて、深夜0時過ぎにホテルに向かったのだが、その後に中止されたらしい。

”Cigarettes After Sex” @ Playtime Festival 2023

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところが、フェスの公式サイトを開いてみると、別なことが書かれていた。

「7月8日のフェスティバルの全日程をキャンセルする」。

ガイドのBillに確認してもらったところ、どうやらフェスの3日目はキャンセルになったとのこと。アーティストのケアを請け負うBillのボスは涙声とのことだった。現場はかなり混乱しているらしい。このフェスを目指してきたTOSHチームにとっても、かなりの衝撃である。

しかし、私たちに主催から正式な連絡はない。出演者に個別の連絡も取れないレベルの混乱が続いていることは、なんとなく想像がついた。
正確さは担保されないものの、頼りになるのはSNSのタイムライン。そこを辿りながら状況を把握していった。大半はモンゴル語なので意味はわからないが、罵詈雑言が飛び交っていることは伝わってきた。中止以前の、あまりにひどい交通渋滞が、火に油を注いでいるようだ。渋滞で会場に辿り着けなかった人も相当数いたことは想像に難くない。何しろ前夜、私たちも、ウランバートル市内のホテルから会場までたどり着くのに6時間かかった。洪水で道路の一部が寸断されているとはいえ、20kmほどの普段なら30分もあれば辿り着ける距離である。

渋滞中の車窓からの風景。馬の方がよっぽど早い…。

 

「中止なら仕方がないが、演奏もせずにこのまま帰国するのもどうかと思う。なんとか市内のヴェニューでライブをやれないものか」。TOSHとEiji Harrisonと話をしている中で、当然そういう話になった。

私は中止と聞いた瞬間に、今夜ウランバートル市内でライブをやるために誰に相談しようかと、考えていた。まず国で一番のフェスの当日、市内のライブハウスやクラブがフルでブッキングされているわけがないだろうし、ライブがやれれば、週末の行き場をなくしたFestival goersの受け皿にもなるだろう。開催できる確信はなかったが、漠然とやれるかもという気持ちはあった。

しかし、キャンセルとはいえ、こちらで勝手にライブをブッキングすることについては、主催者に仁義を通すべきだと思い、一度ディレクターのGeorgeにメッセージを送ってみることにした。この状況で返信が来るとも思えなかったが、11時まで待って返信がなかったら、交渉を始めてみると決めた。

程なくして、会場で夜を明かしたという、韓国のZandari FestaのディレクターDalseがホテルに戻ってきた。「上流が大雨で、ダムが放流されて水位が急に上がった」という話だった。「市内の会場を探してライブをやろうと思うんだけど、韓国のバンドはどうかな?」と尋ねると、「多分興味は持つと思う。あとは機材の問題かな」。
今回、韓国からは、Idiotapeと、Animal Diversの2組が参加している。とりあえず、両方のステージプロットを送ってもらうことにした。Idiotapeは、7年前ぐらいに、韓国・蔚山のAPaMM(Asia Pacific Music Meeting)で聴いたことがある。とても技術が高くカッコいいバンドなのだが、シンセサイザーを多用するので、機材的に今夜のライブは難しいだろうなと感じた。

結局11:00までにGeorgeからの返信はなく、メッセンジャーでグループを立ち上げて何人かに連絡をとることにした。私自身、モンゴルは5回目。フェスを通して、それなりに知り合いは増えていた。

送ったのは、以下のようなメッセージ。

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親愛なるモンゴルの友人たちへ

お元気でお過ごしでしょうか。
ご存知の通り、プレイタイムフェスティバル<3日目>は中止となりました。
今回は沖縄のアーティストのTOSHをモンゴルに連れてきました。
彼のショーは今日予定されていたので、モンゴルでの唯一のショーがなくなってしまいました。

可能であれば、今夜、ウランバートル市内でショーをブッキングしたい。
当日会場を確保することは難しいと思いますが、コネクションがあれば紹介してもらえますか?
私たちは、会場を借りるお金もありませんが、可能性を探りたいと思います。

おそらく、今夜Playtime Festivalにいけなくなった音楽ファンも多いと思います。
可能であれば、地元のバンドやPlaytimeに出演している海外のバンドと共演できればと思います。

以下のような形でやれないかと考えています。
ライブチャージ:無料
ドリンクオーダー制
ミュージシャンはギャラ不要。ドネーションをやる。
会場費を無償で貸してくれること。

ご意見、アドバイスをお願いします。

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メッセージを送ったのは5人ほど。PlaytimeのディレクターのGeorgeは入れなかったが、開発チームのボスのJuliaを加えておいた。これで最低限の情報をフェスティバル側と共有できればと考えたのだ。最初のメッセージを送信したのは、12:36だった。

George(center) / Holiday(right)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の返信が来たのは、12:59、Holidayからだった。
彼は運送会社を経営しつつ、いろいろな開発を手がけている。一度はモンゴルの鍋料理屋を開きたいと、沖縄まで飛んできたことがあった。その時は一緒に不動産屋を訪ねて物件をいくつか見て回ったこともある。猪突猛進の剛腕タイプの男だ。

「今、Playtimeの会場近くで起きたところ。今夜の会場は多分なんとかなると思う。クラブみたいな店がいいのか、バーみたいなところがいいのか? Fat Cat Jazz Clubという評判のいいバーがあるんだけど。ググってみなよ」。いきなり行けそうなメール。しかし、HPを見ると残念ながらすでに今夜のショーがブックされていた。
「ブッキングされたショーの後にやらせてもらうか、今日のショーをキャンセルさせてTOSHを入れさせようか、hahaha」。
なかなか無茶苦茶なことを言う。「それは辞めてくれ」と返すと、「そんなに深く考えなくてもいい、まずは俺に話をさせてくれ」とのことだった。

その後、どんな話になったのかは知らないが、15:24に届いた次のメッセージにはこう書かれていた。
「場所決めたから。”505 club”。とても新しい店で、特に客層も若い。とりあえず、すぐに連絡してくれ」。
相変わらず剛腕だ。そう言われて、紹介されたオーナーのZunaaに連絡を入れた。

・ライブチャージ:無料
・ドリンクオーダー制
・ミュージシャンはギャラ不要。ドネーションをやる。
・会場費無償。

Zunaaは、こちらが提案したすべての条件を呑んでくれた。
連絡をして1時間足らずの16:40には、505clubのインスタグラムでライブの告知が始まった。
TOSHは、Playtimeの会場で知り合ったという現地の有名なインフルエンサーに、情報の拡散をお願いした。
あまりの急展開に皆驚き、歓喜した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

17:00、505club 会場入り。
Zunaaは、こちら側の急な頼みにも嫌な顔一つせず、「なんでもリクエストしてくれ」と話した。小さな箱をイメージしていたのだが、予想を超える規模の店だった。

505 clubのエントランス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“505 club”は、基本はハウスミュージック系のクラブ。エントランスを入るとL字型の屋外のテラス席がある。建物の中に入るとすぐにバーカウンターがあり、テラスに沿って、ソファとテーブル席。奥に入るとメインのフロア、さらに奥にはサブのフロアとラウンジがある。全体を合わせたキャパシティは、1000人とのこと。
この会場のどこでライブをやるべきかということを、TOSHとEiji Harrisonと話をした。Zunaaは、最初から外を勧めていたのだが、二人はサウンド的な理由から、メインフロアを希望していた。Zunaa曰く、「客がフロアに入り始めるのは深夜0時過ぎからだから、外でやるのがいいと思う」。私は「今回は一人でも多くの人に聴いてもらうことがゴールなので、外がいい」と話をした。最終的に場所は外のテラスの一角でライブを行うことになった。クラブなので、Eiji Harrison用のCDJは標準装備。TOSHのギターアンプは、すぐに準備すると、Zunaaが言ってくれた。

“505 club”の壁に飾られた作品。意訳すると”つまらない大人にはなりたくない”(by 佐野元春)といったところか。

Zunaaは、さまざまなアイデアを持ち、とても前向きでエネルギッシュだった。街の真ん中にあるこの場所は、元々は紙製品の工場だったとのこと。先にオープンしたイタリア料理屋も工場跡をリノベーションしたと話していた。「古い物件を見つけて、自分たちのいいように新しいスペースを作るのが楽しいと話す」。イタリア料理店も繁盛しているらしく、そのレシピや方法をそのまま505clubにも取り入れているということだった。実際に出されたピザやバーガー、スープはどれも皆に好評でカジュアルなのに味のレベルはかなり高いように感じた。クラブでこんなに美味い飯が食べられるところはなかなかないと、皆の感想が一致した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

並行してZandariのDalseとのやりとりも続く。「Idiotapeは機材的に厳しいので無理そうだけど、Animal Diversはやりたいと言っている」。ということで、Animal Diversの参加も即決。沖縄とソウルのバンドが、ウランバートルで対バンをするという、実に愉快な展開になってきた。
あとは果たしてどれだけの観客が集まってくるのか。そして彼らの音楽は、この街の人たちにどういう風に響くのか。

 

Playtime Alternative Night(仮)

このタイトル、深い意味はなく、Instagramのキャプション用に仮につけた。出演順は以下の通り。

22:00 Animal Divers (South Korea)
23:00 TOSH (Okinawa,Japan)

Animal Diversは、ギター+Laptopと、ディジリドゥ+ハンドパンの2人組のインストバンド。声をかけられてわかったことだが、ギター+LaptopのAshとは、Facebookで繋がっていた。

22:00前、Animal Diversが演奏を始める時間が近づくと、客も増えて店内はかなり活気づいてきた。フェスで週末を過ごすはずだった、”Playtime Loss”の観客も一定数はいるようだった。

Animal Divers (South Korea) @ 505 Club

客はそのまま奥のフロアに流れるのかなと思っていたのだが、演奏が始まるとグラスを片手にステージの前に集まってきた。とてもユニークな、インストのダンス・ミュージックは、初見でも十分に楽しめるものだった。観客は踊りまくり、曲が終わるごとに大きな歓声が響いていた。
TOSHの演奏のハードルがちょっと上がってしまったかな、と感じるぐらい素晴らしい演奏だった。

23:00過ぎ、TOSHがEiji Harrisonを伴ってステージへ。EijiのDJから入って、曲に移る流れも形になってきた。ややミドルな曲での立ち上がり。徐々にテンポのある曲が折り重なるに連れて客席は熱を帯びた。最前列に陣取った女性客は踊りまくり、放たれる嬌声のボリュームは1曲ごとに大きくなっていった。

40分ほどのショーは、まさにあっという間だった。
TOSHとは、2019年11月、タイのCAT EXPOを見学に行った。その時は出演があったわけではなく、ブースを出展させてもらって、沖縄発の音楽をプロモーションすることが目的だった。あれから4年、ようやく、彼の海外での初演が実現した。大きなフェスの会場ではなかったが、音楽を愛するファンが集まるとても良い空間だった。
会場には、Playtimeの制作スタッフのBatgerel も遊びに来てくれた。彼女はGeorgeが私に招待メールをくれてからモンゴル到着まで、ずっと並走してくれた。彼女の状況も大変なはずなのに、ライブの成功を喜んでくれた。

TOSHは「トラブル続きだったものの、なんとか爪痕は残せたと思う」と言った。また「海外でやって行く事への意識と自信がかなり強くなった」とも。
大型のフェスに出演するのもいいが、彼の場合は、こうしたライブを重ねていければ、かなり良い形でファンベースは構築していけるという確信を持った。
制作側も、とても鍛えられた現場だった。ここまでイメージ通りに実現できることは想像できなかった。すべては、アーティストとモンゴルの友人たちのおかげである。

終演後の様子。
TOSHのinstagramのフォロワーは、この夜だけで100人ほど増えたという。

 

7月9日 @ Salm Pub & Bar

この日の朝、Batgerel からメールが届いた。
「Georgeがホストを務めるランチ会をやるから来てほしい」というものだった。
疲れもあるだろうし、これから処理すべき作業も多いはずだから、様子を心配したものの、いつもと変わらずで安心した。この席で、また来年のPlaytimeで、TOSHの席を用意すると話してくれた。先のことだからなんとも言えないが、たとえ実現できなくても、とてもありがたく嬉しいことだ。
私もまた、来年のMusic Lane Festival Okinawa / Trans Asia Music Meetingに参加してくれるようにお願いした。TOSHだけでなく、多くの才能あふれる沖縄、日本、そしてアジアのアーティストとの出会いの場に、彼にもいて欲しいと思った。
そして、さらに未知なる出会いへの旅は続いていく。

名物のウォッカ・セレモニー

文:野田隆司

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