【リポート】「世界は沖縄と日本の音を欲しがっている!」
世界のワールド/グローバルミュージック市場における沖縄音楽の可能性(講師:サラーム海上さん)

 

音楽評論家、DJ、そして中東料理研究家という多彩な肩書を持つサラーム海上さんを講師に迎えた「Music Lane Open Lecture Voi.13」が9月21日にミュージックタウン音市場で開催されました。今回のテーマは「世界のワールド/グローバルミュージック市場における沖縄音楽の可能性」。
ラジオDJとして最新のワールドミュージックを紹介しつつ、世界各国の様々な音楽フェスにも足を運び、さらに今年、世界最大のワールドミュージックフェスティバル「WOMEX(World Music Expo)」の審査員も努めたというサラームさんの視点から、「ワールドミュージックとは何か」「国際的な音楽フェスに出るためには」「沖縄音楽の可能性」といった内容を解説。
レクチャー中は時折サラームさんセレクトで様々な音楽を映像付きで挟み込んで、さながらラジオ番組のように進行しました。

サラームさんは「世界は沖縄や日本の音をもっと欲しがっています」と述べ、積極的に沖縄の音楽を世界へ展開していく視野を持つことの重要性を説きました。

ワールドミュージックとは?

講義では先ず、そもそも「ワールドミュージック」とはどういった音楽なのか、という定義から話を始めました。サラームさんは、ワールドミュージックを「その国や地域に伝わる民謡や古典音楽特有の旋法、メロディー、リズム、言語が特徴的な音楽」と説明。

それを踏まえて「沖縄民謡はワールド・ミュージックか?」という問いに対して「沖縄は人にとっては違うでしょうけど、やまとんちゅーや欧米人にとってはワールドミュージックなんです」と応じ、「凄く相対的なジャンル」としています。

また、イスラエルのアーティストであるイダン・ライヒェルの言葉を引いて「ミュージシャンが来た土地を想起させるサウンドトラック」とも付け加え、「自分の知らない国や地域の音楽に出会って感動すること、そして言語や知識に関係なく芸術的な興奮を覚えることも醍醐味の1つです」とも添えました。

その中で、世界でツアーを行うなど国際的に受容されている日本人アーティストの例として、アイヌの弦楽器「トンコリ」奏者のOKIさんや、日本の伝統的民俗音楽をカリブやラテン、アフリカなどの音楽からインスパイアされたアレンジで再構成するバンド・民謡クルセイダーズを紹介。

韓国人アーティストと日本人アーティストとの国際的な受容の相違点にも触れながら、なぜワールドミュージックのフェスで日本のプレゼンスが無いのか、という話につなげていきます。

日本からの応募はほとんど無い…

「世界中のフェスで韓国人アーティストは大体出ていて、アンビエントやシャーマニックなもの、難解な音楽もやっていますが、日本人アーティストよりもプレゼンスが圧倒的に大きいんですよ。なぜ日本の存在感が無いかというと、日本の応募がほとんど無いからです」

日本人アーティストの存在感が世界のフェスで薄いのは、そもそも応募していないからというシンプルかつクリティカルな理由をサラームさんは示しました。

例えば韓国人アーティストは、サラームさんが審査員を務めたWOMEXを始めとする国際ショーケースにかなり積極的に応募しており(毎年数十組!)、さらに自国でも「Seoul Music Week」といったワールドミュージックのフェスも定期開催しているとのこと。

Seoul Music Week 2023

これに対して、日本からWOMEXへの応募は非常に少ない上、その多くが在外の日本人で日本や沖縄からの応募はほぼゼロということも指摘しつつ、沖縄音楽が国際的に受容される可能性は「大いにあります」と強調しました。

ちなみにWOMEXはワールドミュージックの中で最重要な国際プロフェッショナル
マーケットと位置づけられていて、いわば「ワールドミュージック見本市」。1994年からベルリンを拠点に、毎年ヨーロッパの各都市で開催され、世界中のアーティストはもちろん、各国フェスのプログラマーやオーガナイザー、エージェント、マネジメント会社、メディア関係者が集結するイベントです。

このイベントに携わり、数々のショーケースを観て来た上でサラームさんは「世界は沖縄や日本の音をもっと欲しがっています」と力説しました。

「日本の音楽の存在感を増すには、数組のアーティストが継続的に優れた音源を発表して国際的にアピールし続けることが必須です」と続け、さらに「国際的な音楽ショーケースに応募し続けるアーティストと、そこに通い続ける音楽関係者の存在も重要になります」とも付け加えました。

また、国際的なショーケースに出席することの利点として、①国際的な営業活動を展開できること、②世界の中での自分たちのポジションを知ることができる(=自分と世界の人たちとにどんな差があるのか)、そして③世界にいる“同志”を見つけることができる、といったことも説明しました。

2014年〜2016年の3年間、Music from Okinawaとして、WOMEXにスタンドを出展。2015年のブダペストではKachimba4がショーケースを行い、カンファレンスにも登壇した。

「売り込み」の方法論

後半に差し掛かると、サラームさんは音楽を巡る国際的な仕事を得るために出来ることについて具体的に言及していきます。

売り出す場としてのマーケットの具体例には、WOMEX、Music Lane Festival Okinawa、AXEAN Festival(シンガポール)、Visa For Music(モロッコ)、Babel Music XP(フランス)、Global Toronto(カナダ)などを挙げていました。

「スタンディングもあれば、着席のフェスもあります。派手な音楽性の方が売り込みやすい面もあるかもしれませんが、そうじゃない個性的な音ももちろん良い。踊らせる必要のない音楽でもいいんです。自分たちを売り込む時には、フェスの特性を見極めることも大事です」(サラームさん)

さらに、SNSで示すバイオグラフィーや写真、ステージプロットやテクニカルライダーの必要性についても説明しました。

「自分が誰に売り込んでいるのかを知る必要があります」とサラームさん。自身やアーティストをPRする際には、売り込む相手がどんな規模のことをしていて、何を望んでいるのかを把握した上で「ラブレターを書く時と同じように」アプローチすることが大事だと言います。

最後に「人間は基本的に怠け者」という前提を置いて、事前準備をすればするほど後の様々な作業が楽になること、そして、売り込む相手の作業負担が減れば減るほど、その後に繰り返し依頼が来る可能性が増えるということも説明し、そこに「プロフェッショナルな信頼と手法」を成立させることが肝心だと話し、レクチャーを締めくくりました。

取材・文:真栄城潤一


サラーム 海上 プロフィール
DJ/中東料理研究家
1967年生、群馬県高崎市出身、明治大学政経学部卒。中東やインド、ヨーロッパを定期的に旅し、現地の音楽シーンと料理シーンをフィールドワークし続けている。NHK-FMのワールドミュージック番組「音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ」のナビゲーター。J-WAVE の「Oriental Music Show」では2017年日本民間放送連盟賞ラジオエンターテインメント番組部門最優秀賞を受賞。『美味すぎる世界グルメ巡礼』『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』ほか著書10冊。世界最大のワールドミュージックエキスポ「WOMEX 2023」にて日本人初となる審査員「7 SAMURAI」を務める。
www.chez-salam.com

 

 

”Seoul Music Week”では、来年9月6日〜8日に開催される2024年版の出演アーティストの公募を、今年11月1日〜30日の間に実施する。詳しくは以下のサイトから。
https://www.seoulmusicweek.com/international-showcase

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