【Report / リポート】
Music Lane Open Lecture Vol.17
「音楽業界の近未来」
講師:関根直樹さん


3月11日のMusic Lane Open Lecture Vol.17は、大学教授をしながら海外興行のエージェント業務を行う会社の代表を務める関根直樹さんを講師に迎え、「音楽業界の近未来」をテーマに話が展開されました。

関根さんは音楽業界の現状に始まり、音楽配信プラットフォームの課題やエージェントとマネジメントの違い、音楽フェスに参加する客層の変化、日本人アーティストの海外展開などのトピックについて持論を示した上で、「音楽業界の未来は明るい」と断言します。

取材・文:真栄城潤一 / Junichi Maeshiro

 

「人類史上最も音楽が消費されている時代」

冒頭部分で関根さんは、レコード産業の現状について「現在は人類史上最も音楽が消費されている時代です」と、いきなりパンチラインを炸裂しました。

全体の売り上げの7割弱がストリーミングになっており、この数字はさらに右肩上がりになっている傾向にあるというデータを提示すると、日本国内では未だダウンロードしている人が一定数いることから「日本のストリーミング市場にはまだ成長の余地があります」と指摘しました。

ちなみに配信プラットフォームについては、世界的にはSpotifyが席巻している中で、日本はつい最近までApple Musicが主流だったものの、現在はSpotifyに移行しているということも付け加えていました。

その音楽配信プラットフォームについて関根さんは「印税率の不平等」を問題視します。

現在主流のプラットフォームで多数派のシステムは「比例按分方式」になっており、端的に言えば再生回数の多いアーティストに印税がより多く分配される仕組み。これだと売れている一部のアーティストにほとんどの印税がいってしまいます。

対して、「ユーザー主体方式」だと、再生回数に関わらず自分の“推し”のアーティストにも公平に印税が分配されますが、こちらを採用しているプラットフォームは多くはないとのこと。

「結果的に、メジャーレーベルのシェアだけが増加し、インディーズ・DIYアーティストへの印税支払い機会は減少していると言えます」と関根さん。冒頭で示したように、音楽が消費されて曲単価が低く/安くなり、還元率が最低になっている現状を再度指摘し、「原盤印税だけではアーティストは困窮し、路頭に迷う可能性が大きいです」と懸念を露わにします。そして「その代わりに、ライブと物販で稼ぎましょう」と付け加えました。

 

マネジメントからエージェントへ

マネジメントとエージェントの違いについては、前者がアーティストの全ての活動に関与しながら、経費を負担し、活動に関係する権利を保有、契約期間が長いなどと特徴を説明します。一方、後者は基本的に単発での付き合いで、ライブやフェスのブッキングを請け負いつつ、契約期間はケースバイケースであることなどを解説しました。

これらの点を踏まえた上で関根さんは「知名度や実績があり、自社運営を厭わないアーティストであれば、エージェント契約の方がベター」と指摘します。

「これまではマネジメント主体でしたが、これからはアーティストが主体になっていくでしょう。自分の不得意分野を専門会社に任せるようになり、エージェントという業態に光があたって増えてくると思います」

次に、サマソニやフジロックなどの音楽フェスについても話が及びました。コロナ禍が明けたことでフェス需要が高まり、人件費や資材、そしてギャラの高騰の煽りを受けてチケット価格が急上昇している現状を関根さんは問題視します。

「チケット価格はコロナ前から20〜30%程度上がっており、このままだとフェスに行ける層と行けない層で二極化する恐れがあります。音楽は多感な時期にこそ聴いて、観るべきなのに、学生が1日に1万円以上のチケット代金を払えるはずがありません」

こうした現状を受けて、一部のフェスが中高生割引を導入してリスナーの裾野を広げる動きや、地元地域のつながりを深めて活性化を図るフェスの可能性を探る事例についても紹介しました。

 

日本人アーティストの海外公演は今後も増える

日本人アーティストの海外展開の可能性に関して、関根さんは「今年もすでに色んなアーティストが海外公演に向けて動いていて、コロナによってこうした傾向が加速したと考えています」と話します。

実例としてYOASOBIのジャカルタ公演で現地の人たちが日本語で大合唱して盛り上がる様子を挙げつつ、そこに2つの要素を示します。

①SNSを通して世界中に音楽が発信されたことで、海外の人たちが直接触れる機会が増えて需要が生まれたこと、②海外ファンのライブへの飢餓感が醸成されているところに公演を打つフットワークの軽さ。

①を見極めた上で、②の機動力を活かすことができれば、日本人アーティストの海外公演はより一層増えることが見込まれると解説しました。

また、ファンダムの構築の仕方については、音楽ジャンルやアーティストのあり方が多様化している中ではマスメディアも消失していくことを指摘しつつ、「100円を払う1万人のファンよりも、1万円を払う100人の“スーパーファン”を獲得する方向へシフトしています」と関根さんは述べます。

さらにMENA(中東・北アフリカ地域)や中南米、そしてインドを含むアジアの音楽市場の成長率が著しく、新たな市場が生まれ始めていることについても言及しました。特にアフリカの成長率が飛び抜けて高いことに触れ、現地で人気のあるトレンドのジャンルや楽曲も紹介しました。

これら国内外の現状を踏まえ、関根さんは「音楽業界は対象企業を絞らなければ、結成狭き門ではありません」と話し、総じて「音楽業界の未来は明るい」と結論づけました。

さらに、音楽業界で仕事をするには「他人に勝る何かを深掘りしておくことも重要です」と助言を付け加えて、レクチャーを閉じました。

 

関根直樹 さん プロフィール

インアウトワークス合同会社 CEO
江戸川大学 社会学部 経営社会学科 教授
上智大学外国語学部英語学科卒。ニューヨーク大学大学院で音楽ビジネスを体系的に学ぶ。ソニー・ミュージックエンタテインメントでプロデューサーとして邦楽宣伝・A&R業務に携わり、ライブエグザムでチーフ・プロデューサーとして日本人アーティストの海外興行エージェント・ツアーマネジャーおよび海外のアニメ・音楽フェスティバルの制作業務を手掛ける。音楽ビジネスセミナーのゲストスピーカー、日経クロストレンド等メディアへの寄稿など実績多数。日本ポピュラー音楽学会会員。

 

 

◎主な著書
17人のエキスパートが語る 音楽業界で食べていく方法」(リットーミュージック)
日本のアーティストを売り込め!実践者が明かす海外攻略の全ノウハウ」(日経BP)
「アメリカン・ミュージックビジネス」(音楽之友社)
「音楽ビジネス:マーケティング&プロモーション編」(音楽之友社)
『The Global Music Industry~Three Perspectives~』(Routledge)

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