【タイ / Thailand】めくるめくタイインディーズの世界
第17回「タイでライブをおこなう際に注意しておきたいこと 5選」

 

タイといえば、これまでは食や旅行などで注目されることが多かったかと思います。ここ最近は注目される範囲が広がり、タイの文化やエンタメ、音楽にいたるまで注目を集めるようになってきたと感じています。それに伴い、日本語での情報発信される方も増え、多くの情報を目にすることができるようになりました。

僕は僕で、タイのバンドやタイのフェス情報、ライブハウス情報など、特にタイのインディーズシーンにまつわる情報をお届けしてきました。タイにいるからこそ仕入れられる情報、現場に出向いてるからこそ得られる経験をシェアすることにこだわり、コラムやニュースを寄稿してきました。

今回は、その最たるものになるかと思います。

 

コロナ禍が落ち着き、去年から日本でもタイでも海外ツアーへ出るアーティストが増えてきました。

ということで、「タイでライブをおこなう際に注意しておきたいこと 5選」と題し、タイでのライブではどういうことに気を付ければいいか、何を準備しておけばいいか、といったポイントを選りすぐって5つ、お伝えできればと思います。自分がミュージシャンとしてタイのインディーズシーンで活動を重ね、また、日タイ音楽交流活動を数多く手掛けてきたからこそ導き出された経験則を詰め込んでいます。

演者に特化した内容となるため、なかには面白みを感じていただけない読者の方もいるかもしれませんが、内容的には我ながら有料級の記事になってると思いますので、気が変わって当コラムを消す前に、しっかり読み込んでおいてください。

なお、コラムの題材の性質上、ネガティブな言い回しが多めだと感じられるかもしれません。日本のライブ環境はタイと比べると(恐らく他の国々と比べても)相当素晴らしく、そのため、どうしても表現がネガティブになりがちではあります。ただ、今回取り上げる5つの注意点は、日本からタイにライブをしにいくミュージシャンにとって注意すべきことではありますが、悪いことであるとは全く思っていません。タイのライブ環境、しっかりと自身の実力を試せる環境です。万全の状態でないと凄いライブができない実力なのか、どんな状況でも自分の精一杯を超えて観客に届くライブができる実力なのか、ぜひ、タイでのライブで自分を試してください。

 

電圧・コンセント形状

まず第一に注意すべきことは電圧です。訪タイ10日前から額に太めのマジックで「電圧」って書いて絶対に忘れないようにしたほうがいいくらい重要事項です。

 

 

日本の電圧は100Vですが、タイの電圧は220Vです。100Vまでしか対応していない楽器・電化製品をこちらのコンセントに繋ぐと壊れます。実際、日本からくるミュージシャンに事前連絡していたのに、多くのミュージシャンが楽器を壊してしまってます。エフェクターは反応しなくなり、キーボードは爆発します。

最近は電源がユニバーサル仕様になっていることも多いです。通常、バッテリーに対応電圧の範囲が書いてありますので、そちらをご確認ください。もし、100Vまでしか対応していない電源だった場合、変圧器を使うか、エフェクターであれば電池を使うか、などで代用します。なお、タイのハコ(後述しますが、ライブする場所は基本的にはライブバー・パブ)には変圧器の用意はないと思っておいたほうがいいです。自身で準備することになります。

万が一、電圧のことが頭から抜け落ちてて、タイの220Vに100Vを突っ込んで楽器をおしゃかにしてしまったら、キンキンに冷えたスイカシェイクを飲んで頭を冷やしてからどうするか考えてください。

 

コンセント形状についても注意が必要です。タイではいくつかのコンセント形状が使われていますが、日本のコンセントも基本的には使えます。もしコンセント形状が異なる場合でも、タイ現地にて延長コードや形状変換プラグなど簡単に手に入るので、そちらを購入すれば対応可能です。念のため、日本で購入して持ち込むようにすれば安心です。

 

 

演奏環境

いわいる日本風ライブハウスはタイにはほぼ存在しておらず、ライブバー・パブでのライブが多くなります。まず、日本のライブハウスと同じように整備が行き届いている、なんでも揃っている、とは思わないでください。どんな環境でも、状況でも、機材でも、凄い演奏ができるかどうか、実力が試されます。

なお、僕が日本のバンドのタイでのライブをサポートする際に必ず伝えているのは、「自分たちで音を前に出せないバンド(出音の弱いバンド)はタイでは通用しません」ということです。恵まれた演奏環境でないと満足なライブができない、という方々には、タイの演奏環境は厳しいかもしれません。

 

 

モニター

最近はライブバー・パブでもモニターをしっかり備えてくれている場所が増えてきました。とはいえ、まだ、モニターが一つもない場所があったりもします(ボーカルやキーボードなどの音については、外音用のスピーカーから出てくる音を聞きます)。その場合、リハでしっかりお互いの音が聞こえるか確認しましょう。

 

演奏機材

僕はドラムについてしか詳細がわからず、他の機材がどんな状態なのかよく知りませんが、ドラムセットについて、今まで遭遇した例を列挙します。

 

– ヘッドは何年も変えておらずヘタってる

– シンバルがない(タイでは基本持ち込み。割れるので消耗品の扱いとなっている感)

– フェルトワッシャー、ナットがない(誰かがパクってるか無くしてる)のでシンバル直置き状態

– メタルワッシャーがないのでティルターがシンバルを想像以上に突き抜ける

– ハイハットクラッチがなくて、ハイハットのオープンクローズ奏法ができない

– バスドラを支える足の片方が壊れてて、バスドラ踏んでるとだんだんとバスドラが斜めになっていく

– シンバルスタンドのボルトが壊れており、ガムテープでぐるぐる巻きに固定されている(高さ調整できない)

– フロアタムの3本の脚のうち1本が壊れてて、台を置いて支えてある(高さ調整できない)

– ドラムスローンがなく、普通の椅子が置いてある(高さ調整できない)

 

恐ろしいことに、これらはほんの一例です。こういう現場に遭遇してきたので、小さな部品系(フエルト、ナット、ハイハットクラッチなど)は全部自前で揃えてあり、ライブの際には毎回持ち込んでいます。事前に準備ができるもの(特に小物系)があれば、入念に準備しておきましょう

まぁ、でも、海外でのライブではちょっとしたトラブルに遭遇することは当然のことで、それもまた今後の活動の糧となるはずです。唐辛子いっぱいのトムヤムクンをかきこんで舌を痺れさせてトラブルを忘れてください。

 

PA (サウンドエンジニア)

日本と違い、ハコ付きのPAさんはいません。ライブバー・パブでの演奏が多いタイでは、PAさんがハコに常駐しててバンドのサウンド面での面倒を見てくれる、なんてことはありません。

 

【Bangkok】めくるめくタイインディーズの世界第16回「バンコクのライブハウス事情」2024年版

 

では、誰が音響システムを操作するのかというと、ライブバー・パブのスタッフが音響卓をいじってくれたり、運が良ければそのイベントのためにPAさんを雇ってくれてたり、って感じです。

ということで、日本からのPAさんの同行がない場合は、その旨をタイ側に伝えつつ、当日は誰が音響システムのサポートをしてくれるのか、事前に確認しておきましょう

そして、セット図(タイでは「Rider」と言います)とバックラインリストを送っておきましょう。結局、事前に確認してもらえておらず、ライブ当日に「もう一回送りなおして」と言われる、なんてこともありますが、タイでは怒ったら負けなので、成分がほぼ練乳なんじゃないかくらいの甘いタイティーを飲んで心を落ち着かせてください。

 

 

なお、タイの地元バンドは、若手バンドでも専属PAがいる場合が多いです。恐らく、上記の通りハコ付きのPAさんがいないのが要因なんだろうな、と思っています。タイのバンドが日本ツアーに行く際は、だいたい専属PAさんも一緒に連れて行くのですが、日本のライブハウスの音響システムに不慣れのため、特に低音の調整が上手くいかず、迫力に欠けた音になることもしばしば。見かねたハコ付きのPAさんがサポートしてくれて、最終的には良い音で演奏でき、皆感動してタイに戻ってきます。

 

サウンドチェック (リハ)

日本では各楽器の出音の確認をしたあと、各モニターのチェックをし、中音が定まってから「じゃー、曲で」となる流れかと思います。タイでは、各楽器の出音の確認をしたあと、中音の調整を待たずに「じゃー、曲で」となります。モニターの調整は曲を通した後となります。

 

 

推測するに、ハコ付きPAの文化がなく、若手の頃から専属PAがいる状態だと、モニターの調整は専属PAがすでにおこなっている前提ということなのかな、と思います。なので、モニターの調整をおこなってから全体で曲を通す、という効率的なやり方が根付いていないのかな、と。また、タイのリハは比較的長めに時間をもらえるので、そもそも効率的にテキパキ進める必要がなかったのかな、とも思います。

僕のバンドの場合は、「じゃー、曲で」って言われても、まずはモニターの調整をしてもらい、そのうえで曲を通してリハをするようにしています。カオニャオ・マムアンのココナッツミルクがたっぷりかかってるもち米を恐る恐るも思い切って一口いったあの時の勇気を思い出し、強い心で「モニターの調整を先にやらせて」と言いましょう

 

本番

さて、演奏環境の日本との違いを乗り越え、PAさんともなんとか意思疎通を図り、リハもしっかりおこない、さぁ本番だ!と音を出した瞬間に感じることでしょう。モニターから返ってくる音が、リハで調整した音とは違っていることを。

タイでも卓はデジタル卓が主流で、当然、リハでのセッティングを保存しておく機能も付いており、本番の際はそれを呼び出せばいいだけのはずです。オーディエンスの入り具合とか、アンプの温まり具合とか、自身の体調の変化とか、リハと本番とでは状況が異なる部分があるとはいえ、それにしても全然違う音がモニターから返ってきて面食らうことはよくあります。

 

 

これまた日本と違って、袖にステージスタッフがいることは稀なので(フェスとかでは、そんなにいなくてもいいんじゃないか、ってくらい袖にスタッフがいますが)、演奏中にスタッフにモニターの調整をお願いするのも難しいです。なので、あまりカッコよくないですが、曲が終わってからマイクでPAさんに伝えるか、聞こえてくる音だけで凌ぐか、覚悟を決めましょう

また、フェスや大規模イベントで大きなステージでライブすることになった場合、リハのときに使ったアンプが本番では消えてなくなっている、なんてことも多々ありますが、怒ったら負けなので、激辛ガパオライスを一気食いして唐辛子の刺激に意識を持ってかれて怒りという感情を忘れてください。

 

最後に

まだまだ注意すべきあんなことやこんなことはいっぱいありますし、紹介したいタイ料理も数多くありますが、取り合えず重要なのはこんなところかと思います。

タイのオーディエンスは、有名・無名関係なく、良い演奏をすればちゃんと反応してくれます。逆に、どんなに知名度があっても、つまらないライブをしてると途中で人が帰っていきます。実力を試すにはもってこいの環境です。

海外でのライブは経験値が一気に増えますし、視界も大きく開けるかと思います。タイのミュージシャンの知人・友人もできるでしょうし、音楽で世界と繋がれる感覚を直に体験できるはずです。

ただ、一回だけタイにライブしにきて「良かったね、楽しかったね」で終わるのは、それを僕は「修学旅行」と呼んでいます。何度も訪れ、しっかりと現地のシーンと繋がり、ファンベースを築き、皆さんの来タイライブを楽しみに待ってくれるタイのファンができるまで、ぜひ、チャレンジを続けてもらえればと思います。

 

※Music Lane連載との連動プレイリストも合わせてどうぞ。

Music Lane連載 連動プレイリスト「めくるめくタイインディーズの世界」

 

■執筆者紹介

Ginn

タイ・バンコク在住15年。タイ人メンバーと結成したポストハードコアバンド「Faustus」で自身でも音楽活動をしつつ、日本とタイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」を主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、日・タイ音楽交流のための草の根活動をおこなっている。

 

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