2020年代、ドラマティックに変化を続ける音楽シーンにおいて沖縄からより広く、より遠く、より多くの人に届けることを目指すレクチャー第4弾が、2021/11/16(火)、17日(水)の2日間、ミュージックタウン音市場とてんぶす那覇3F会議室で開催されました。会場には多くの参加者が集いました。
講師は、Gerbera Music Agency合同会社代表でSpotifyプレイリストメディア「Pluto」代表の金野和磨さん。Gerbera Music Agency合同会社(以下、GMAと略称)が行うプロモーションのアウトラインや、Instagram広告・YouTube広告などインターネット広告で成果を挙げるために知っておくべき考え方などをテーマに約1時間レクチャーしました。
金野さんは1987年宮城県生まれ。大学時代に「THE YELLOW MONKEY」に衝撃を受け、グラムロックやモッズ、UKロックなどに傾倒。大学卒業後は、人材サービス会社での営業職で1日50件~100件の飛び込み営業を2年半、音楽配信サービス会社での営業職を経験。2013年にデジタルマーケティング会社「INFOBAHN(インフォバーン)」でマーケターとして勤務しはじめます。仕事で得られた知見をブログで発信し、関西のCDショップから声をかけられたことを機会にアーティストのプロモーションサポートを開始。2015年にGMA設立後は広告代理業に力を入れ、2020年インフォバーンを卒業しています。
GMA設立当初は、何をやってもうまくいかないという壁にぶち当たり、挫折を経験したという金野さん。プロモーション業務の一環で行っていたプレスリリースやブッキング等は、当時、本元の音楽事務所やレコード会社が得意とする業だったため、わざわざ外注するものではなかったのが一因だったと話します。
その後「何をやればアーティストのためになるのか」ということを考え、2019年にインターネット広告の可能性に気付きます。今までの経験を活かし集中して注力すると、サブスク等の登場で2020年より仕事の依頼が爆増し、2021年は更に急増。
GMAは、日本人アーティストがグローバルで活躍するための環境づくりを目的とした音楽業界特化型のインターネット広告代理店。全案件の9割を占める「インターネット広告運用」のほか、ピッチングなどの「ストリーミングプロモーション」サービスを提供しています。
業務は、メインとなるプロモーションサービスのほか、プレイリストレーベル「Pluto」の運用及びブランドプレイリスト制作サービスの提供、webサイトの制作、クラウドファンディングの企画・実施。「Pluto」とは冥王星を意味し、冥王星のように「他とは異なる切り口で新しい音楽を紹介する存在でありたい」という思いを込めて、Spotify特化型のプレイリストメディアを立ち上げたそうです。
Plutoのプレイリストのフォロワー数は15万人弱(2021年10月現在)。日本で2番目の規模感となっているとのことです。
対応しているインターネット広告はYouTube、Instagram、TikTok、Twitterなど多数。主に新譜リリース時のキャンペーンで利用されることが多く、実際に運用依頼が多いのは、Instagram、YouTube、TikTok。圧倒的にInstagramの依頼が多く、次いでYouTube、TikTokの順。競合他社はおよそ3社です。
GMAの強みは「音楽シーンとアドテクノロジーの両方を理解していること」。現在の音楽をきちんと聞いているためシーンやリスナーを理解しており、シーンのトレンドや動向を踏まえたターゲティングが可能。同時にアドテクにも強く、SNSのオーディエンスデータなどを活用した精度の高いターゲティングを行うことも可能となっています。単に再生回数を稼ぐだけでなく、アーティストのファンバーベース成長を実現できるのがGMAの魅力だそうです。
次いでは、YouTube広告(TrueViewインストリーム広告)の概要説明。YouTube広告は、「ミュージックビデオの再生数増やチャンネル登録者数増を増やしたい」という依頼が多いと前置きし、YouTubeにはディスカバリー広告とインストリーム広告があると説明。Youtube広告は、視聴者が動画を視聴しているときに表示されるタイプの広告で、視聴者の年齢、性別、好みの音楽ジャンルなどに合わせて配信が可能で、30秒以上視聴されると課金されるため、配信のムダが少ない広告。
2021年11月現在、日本の場合だと1再生あたり約2~4円で広告配信可能と見受けられ、おおよそ予算1万円だと、約2500回再生~5000回再生が目指せるそう。ただし配信する国によって単価は変動。東南アジアや南米などは1再生1円以下で配信されることもあり、0.5円の時もあるとのことでした。「20万円の予算があれば数十万回の再生が取れることもある。でも再生数を伸ばすだけでは意味がない。そこは難しいところ」と話します。
次いで、GMAが実施したYouTubeインストリーム広告配信の結果として、1つのキャンペーン例を紹介。費用131,671円で実施した広告配信の時は、広告表示回数275,888回、視聴回数73,398回、視聴率26.60%。1再生の単価は1.79円で、クリック数4,214回、クリック率1.53%という結果になったそうです。「クリック率は平均0.3%。この数字を下回ると広告がハマっていない可能性がある。平均を上回ったので、この事例はかなり良かったと思う」と分析します。
他にも、広告視聴後のチャンネル登録数や再生リスト追加数、高評価数、他動画視聴数をあげ、直近のライブの動員数へおおよそどれくらい影響があったか、レーベルからの話もふまえ示しました。
「広告がフィットしたかどうかは、広告で使ったミュージックビデオへのコメント欄でわかる」と金野さん。「広告がフィットしてないときは何のコメントもなく、再生回数だけいたずらに伸びる。うまく広告がフィットすると再生回数もチャンネル登録者数も好感触のコメントも多くなる」と説明します。以後、レクチャーはYouTube広告の中枢に迫ります。
「YouTube広告で成果をあげるには配信対象動画の見極めが大切です。特に冒頭5秒のフックが重要。YouTube広告はそもそもサビから流せず、冒頭から音楽が再生される仕様になっています。再生から5秒経つとスキップボタンが表示されるため、冒頭5秒のフックがあれば視聴者の目を惹きつけられる」と金野さん。ターゲティング、配信頻度設定、日々の設定のチューニングなどの大切さも示しました。
この後は、広告がヒットした動画事例を3つ紹介。「サビからはじまる歌はとても強く、歌い出しが早い歌も成功につながる」と話しますが、特殊事例もあるとのこと。イントロまでに1分かかり、本編がドラマ仕立てになった動画はTikTokでバズり、YouTubeではサビのあとに本編に持ってきたという工夫の背景を紹介しました。
変わって、Instagramストーリーズ広告を推す理由。再生数の獲得に適した広告プラットフォームのYouTube広告とは異なり、Instagramストーリーズ広告は「最もファンベースの成長に適した広告プラットフォーム」と話し、いろいろな広告を運用したなかでフォロアー(ファン)を増やしやすかったと金野さん。送客の流れとしては「ストーリーズに表示→スワイプ→指定のリンクに飛ぶ」という一連の仕組みを紹介し、動画は最初の15秒が勝負で、リンクはアーティストページに飛ばしていると話します。
GMAの広告運用事例(ポップバンド)を挙げる場面では、17万円でInstagramストーリーズ広告を実施した結果、広告が多く配信される国とそうではない国に分かれたと金野さん。それでもSpotifyはフォロワー5,790人増、月間リスナー5,649人増。Instagramフォロワーは903人増、YouTubeチャンネル登録者は2,100人増加。「結構激しく伸びた」と話します。
背景としてはインドネシア、台湾、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、香港などにヒット。他事例として、予算を「台湾」絞って追加したところ、台湾バイラルトップ50の1位にチャートインした運用事例なども紹介しました。
「Instagramに関しては、知名度はあまり関係ない。広告がハマるかどうかが重要」と金野さん。Instagram広告の成否に影響を与える要因ランキングとしては「属性のターゲティング<エリア選定<広告の動画」という順に重要度が大きくなることを挙げ、広告にハマる動画としては「冒頭2秒の引き(込み)」、「視認性」、「シンプルな文字情報(アーティスト名は英語表記)」の3点が大切だと話します。
さらに「風景はウケない。人やキャラクターの顔のほうがハマる」、「文字はいろいろ入れるよりアーティスト名だけとか、シンプルな方が分かりやすくて伝わりやすい」、「漢字やカタカナは外国の人は検索できない。検索できるよう、すべて英語表記にして広告を打つ」と詳しく説明。ちゃんと検索されるようにすることが大切だと話します。例として、上記3点を満たした動画を紹介しました。
さらに広告動画をヒットさせるための重要な「A/Bテスト」という手法を紹介。これは、1楽曲から複数の広告動画を作成・入稿し、複数の動画を戦わせて広告配信後のパフォーマンスが最も高い動画に予算を寄せることで、効果を最大化させるものだと説明。
「SNS広告はハマれば少額でも伸びるが、ハマらなければ100万円投下しても伸びない。広告動画が1本のみの場合、その動画がハマらなかったときの被害額が大きすぎる。基本的には複数動画によるA/Bテスト配信を推奨している」と話します。
このあとは「広告」について言及。金野さんは「まずはSpotify上陸済のすべての国に配信すること」を推奨しており、はじめから絞るのではなく、反応を見てから絞っていると話します。日本人アーティストがフィットしやすいエリアは「東南アジア・中南米・東欧」。
SNS広告の機会学習は人間が設定した「目的」に沿って最適化されるため、人間が適切なキャンペーン目的を設定しなければ機械学習は機能しない。広告の「目的」を最適化することが大切だと分析します。
広告の遷移先をSpotifyにする理由としては3点を挙げます。「最もユーザーが多く、最も安価で送客できるDSP(広告効果最適化を目指せるプラットフォーム)」、「フォロワー数が増加するとアルゴリズムプレイリストからの再生が増加し、リスナー数を積み増やせる傾向がある」、「遷移先のDSPを絞ったほうが広告の効果測定が容易だから」という理由を話し、プロフィールページに飛ばす理由も紹介。
最後に、金野さんは「広告の限界」も紹介。作品を広める3ステップとして「知ってもらう<広げてもらう<愛してもらう」を挙げ、広告ができるのは最初の「知ってもらう」までだといいます。
その上で、MVに英語表記入れることも「知ってもらう」ために大切だと話し、「英語でアーティスト名、プロフィール、歌詞を入れなければ、海外リスナーがMVにたどり着かないし、彼らを掴めない」と金野さん。できるだけ日英併記でSNSのプロフォールを書き、投稿して、海外リスナーからのコメントには「いいね」で返信するよう呼びかけました。
〆は、金野さんがおすすめする「インターネット広告」の本の紹介。参加者の反応が高く、参加者より「スライドを戻して欲しい。もう一度情報がみたい」と声が上がりました。
今回、レクチャー全体を通して参加者より活発に質問があがりました。最後の質問タイムまで活発な挙手が盛り上がるなか、無事に講演が終了しました。
( Text:小鍋悠 / Haruka Konabe)
Music Lane Open Lecture :
【沖縄 / Okinawa】音楽シーンの最新動向をキャッチ「Music Lane Open Lecture Vol.3 /Vol.4」の開催が決定 – MusicLaneOkinawa
次回イベント:
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主催:株式会社クランク
令和3年度沖縄文化芸術を支える環境形成推進事業
支援:沖縄県・公益財団法人沖縄県文化振興会