【タイ / Thailand】タイの大型野外音楽フェス「CAT EXPO 8」現地からのリポート

去る2022年5月7日(土)~8日(日)、タイの大型野外音楽フェス「CAT EXPO 8」が開催された。

「CAT EXPO」とは、タイの音楽専門Webラジオ局「Cat Radio」(よく「インディーズ専門ラジオ局」と記載されているのを見かけるが、誰もが知ってるメジャーどころから、まだ名の知られていないインディーズまで幅広く扱っているラジオ局)が年に一回企画している大型野外フェスのこと。バンコク郊外にある稼働していない遊園地を貸し切り、2日間で100以上のバンドが5つのステージで演奏を繰り広げる(年によってバンド数やステージ数は変動)。

 

こちらは前回の「CAT EXPO 7」の様子をまとめた動画。
その他、「CAT EXPO」の様子は、Cat RadioのYouTubeチャンネルで順次アップされていく。

 

出演は、Cat Radioでかかっている楽曲と同様、メジャーどころからインディーズまで懐の深いラインナップとなっている。また、「DOG STAGE」という名の、まだ世に出てきていないインディーズバンドのみにフォーカスしたステージが備えられており、若手バンドにとっては「CAT EXPO」に出演することがひとつの目標にもなっている(今回はDOG STAGEが設置されなかった。詳細は後述)。

他のフェスと大きく違う特徴としては、出演バンド・アーティストやレーベルなどの物販エリアが大きく設けられており(通称「Market」)、出演者から直接物販を購入できる。この日のためにお小遣いを貯めてきている観客も多く、また、バンド・アーティスト側もこの日に合わせて新音源(CDやレコード、テープなどのフィジカル媒体)をリリースしたり、限定Tシャツや物販を用意したりする。「バンド・アーティストとファンにコミュニケーションの場を」というフェス主催者の想いにより、どんなに無名のバンドだとしても、ちゃんとブースが用意される。

※タイの音楽フェスについてはこちらを参照。

めくるめくタイインディーズの世界第8回「タイの音楽フェス事情」

 

タイでも2020年2月頃からコロナが本格的に流行し、非常事態宣言や夜間外出禁止令、店内飲食の禁止など、厳しい処置が取られた。

それが功を奏したのか、2020年中盤から後半にかけて感染者の抑制に成功し、音楽フェスを含むイベントも盛んに開催されていた。ただし、2020年から2021年にかけての年末年始でクラスターが発生し第2波が訪れる。この第2波の余韻が長く続き、2021年はほとんどのイベント・フェスは中止か延期を余儀なくされた。「2020年はエンタメ業界にとって不遇の年」とされていたが、2021年のほうが被害が甚大だったように思う。

 

「CAT EXPO 8」も、当初は2021年11月の開催がアナウンスされていた。ただし、当時のコロナの状況を鑑みて日程を延期。その後、延期となった日程がアナウンスされるものの再度延期となり、何度か延期された後、やっと2022年5月に開催するに至った。

2021年以降、タイでは来場者が1万人を超える大型フェスは開催されておらず、今回の「CAT EXPO」が先陣を切る形となった。筆者は演者として参加しただけなので(タイのシューゲーザー第一人者「INSPIRATIVE」のドラムとして参加)、フェス主催者がどれほどの苦労や努力を賭して開催にこぎつけたのか、スタッフの顔から滲み出る疲労からしか感じ取ることはできない。政府との交渉、感染対策の徹底、日程延期による出演者・サプライヤー・スポンサーとの再交渉、開催が5月になったことでの雨対策(当初開催予定であった11月は乾季のため基本的には雨が降らない。5月からは雨季となるため雨が降る確率が高い)、などなど、計り知れない労力を要したことであろう。

そこまでの労力をもって作り上げたこの「CAT EXPO」、成功裏に終われば、「タイでも大手を振ってイベントを開催していい」という合図になるのではないか。

筆者は、今まで全8回開催されている「CAT EXPO」に、それぞれ出演バンドは異なるものの、全回に出演してきた。毎回各ステージを観賞し、ステージ裏にも出入りし、Cat Radioのスタッフルームにも顔を出し、物販エリアをそぞろ歩き、出演バンドから色んな話を聞き、スタッフとも会話し、自らもステージに立ち、おおよその表も裏も見てきた。

そんな筆者が今回感じたことを、以下、箇条書きで備忘録的にしたためておきたい。

※なお、文中に出てくる写真は筆者がスマホで撮影したものとなる。先日、スマホを落としたせいでカメラがダメになったようで、どんなにピントを合わせようと努めてもぼやけるようになった。自身の目の解像度を上げて見てもらいたい。

 

所感

2021年以降、初の一万人を超える観客を動員した音楽フェスとなった。今回の「CAT EXPO」が成功裏に終われば、「タイでも大手を振ってイベントを開催していい」という合図になるのではないかと思っている。

 

「CAT EXPO」の日程延期は、公表・非公表含め結局4回あった。その度に、出演バンド・アーティストとの日程調整、音響・照明・機材サプライヤーとの日程調整などなど、膨大な手間がかかったとのこと。
コロナ感染拡大防止のため、様々な規制を遵守しなくては開催できないという制約もあり、誰もが満足する形での開催はできなかったかもしれないが、中止とせず、開催にこぎつけてくれたことに敬意を払いたい。

 

全体的にメジャー寄りなブッキング。アイドルやそれに準ずるのも多く出演。有名どころや色んな客層を取り込んだほうが集客しやすいのはわかるし、コロナ禍で経営的に厳しいだろうから、まずはしっかり稼いで欲しい。その後は、またあの頃の音楽フェスに戻って欲しい。

 

Cat Radioのスタッフと会話。自分たちのイベントの成功だけでなく、「CAT EXPO」の後に続く(他のイベンターが開催する)イベントがやりやすくなる様に、相当厳しく規制を守った。なにか問題が発生したら次に続くイベントに影響が出るかもしれず、成功させなくてはいけない、と。
ファーストペンギンの役目を買って出た者としての責任感と使命感を強く感じた。

 

会場内の様子

入り口ではATK検査の結果を提示(事前、もしくは、当日のATK検査の結果をアプリに登録)し、陰性が認められたら入場という流れ。

 

規制のためにチケット販売数を絞ったこともあり例年よりは人が少ない。歩きやすいし、フードブースにあまり並ばなくて良いし(演者はステージ裏に弁当が用意されてるが、イベントにお金落とすために毎回フードブースで買ってます)、トイレも並ばなくていいし快適。

前回は通常のチケット販売数であったため、ステージ間の移動に難儀するほど人がギュウギュウ詰めで、フードを購入するにも時間がかかったし、出番前なのにトイレに並ばなきゃいけなくて出番に間に合わないかもしれず(ステージ上でも緊張することないのに)ドキドキした。

ただ、例年より人は少ないとはいえ閑散としている感じはなく、各ステージにも物販エリアにもフードブースにもお客さんがわんさかいて、活気があり、いい感じの混雑具合。

 

観客はマスク着用率ほぼ100%。アルコールジェルの設置場所はちょっと少ないかな。

 

例年よりも警察官の姿が目立った。規制をちゃんと守っているか監視していた。

 

ステージ

今回は全5つのステージ。100バンドほどが出演。

 

各ステージ前にソーシャルディスタンスを確保する形で椅子が置かれ、鉄柵で囲いもあり、入り口には警備員がいて、入場制限をしていた。人数オーバーのためにステージ前エリアに入れない場合は、鉄柵の外からステージを遠巻きに眺める形になる。結局、鉄柵の外が密になるので、現場を知らない役人が設けそうな規制だな、と思った。

この処置を開催前日の金曜日に発表したため、Cat Radioのページは大炎上し、非難のコメントが殺到した。「なんでもっと早く言わないの?こんなならチケット買わなかった」「良いですね。おかげで行かない決心がつきました」「これはコンサート会場?それとも、都知事候補者の演説会場?(5月にバンコク都知事選がおこなわれるため、それを皮肉ってのコメント)」など非難轟轟。

当件についてCat Radioのスタッフと話したが、「この規制を守らないと開催ができなかったため仕方なしの処置。誰もステージ前に椅子を置きたいなんて思わない」と。

そりゃそうだよね。入国規制はどんどん緩くしているのに、イベントには規制が厳しい(政府系イベントでは会場が密になっている写真とか流れてくるけど)という、ちぐはぐな対応のしわ寄せがここにもきていた。

このように、ステージ前エリアには椅子が置かれており、着座してライブを鑑賞する。ただし、その場で立ち上がって観賞しても、特に注意されることはなかった。

 

筆者がサポートドラムをしているタイのシューゲーザー第一人者「INSPIRATIVE」の前日リハより。ステージから見たステージ前エリアはこんな感じ。

 

ステージ前エリアにいくには入場口で並ぶ必要がある。警備員が入場者数を管理しており、ステージ前エリアにいる人数を調整する。

 

ステージ前エリアに入れない場合、鉄柵ごしにライブを観ることになる。結局、この鉄柵周辺が密になる。

 

基本的には着座して鑑賞し、有名曲が演奏されると立ち上がって踊る、と言った感じ。夜になったらそこらへんのルールは破られるのかな、と思ったら、意外と最後までちゃんと運用されてた。

 

毎回設置されている「DOG STAGE」の設置が今回はなかった。上記でも触れたが、「DOG STAGE」とは、まだ世に出ていないインディーズバンドのみにフォーカスしたステージのこと。

Cat Radio内に、まだ誰にも知られていないインディーズバンドの楽曲のみを放送する「Bedroom Studio」という番組があり、「DOG STAGE」には主にこの「Bedroom Studio」内で反響の良かったバンドが選出される。ここから大いに飛び立っていくバンドも数多く、今回でいうと「Safeplanet」が、初めて「CAT EXPO」に出演した際はこの「DOG STAGE」で演奏し、今回はSTAGE 1(一番大きなステージ)のトリを務めるまでとなった。

個人的にも、「DOG STAGE」に出演するバンドや、「Bedroom Studio」で曲がかかっているバンドはチェックするようにしている。

 

今回は、STAGE 5が例年で言う「DOG STAGE」っぽいラインナップだったが、トリ近辺の時間帯は有名どころが出演。

出演者名が伏せられていた最終日のSTAGE 5のトリは、タイポストロック創世記を牽引したバンド「Desktop Error」がサプライズ出演。爆発的に盛り上がった。

【タイ / Thailand】タイポストロック創世記を牽引したバンド「Desktop Error」がシーンに電撃復活

 

STAGE 4、STAGE 5については、STAGE 3からの音被りが酷すぎる。以前はステージを背合わせにしてなるべく音被りを避けていたが、周辺にコンドミニアムが建設された関係上、STAGE 3の向きをSTAGE 4、STAGE 5方向に向ける必要がでてきた。各ステージ、音量制限はしているとのことだったが、どう考えても守ってない。

演者としても集中しにくいし(自分のプレイは自分の実力なので言い訳は嫌いだが、メンバーや他のバンドも総じて文句を言うくらいには酷かった)、なにより入場制限の中、並んでまでステージ前エリアに陣取ってくれたファンの人たちに申し訳ない。当件は、Cat Radioのスタッフにも伝え、次回の改善事項として検討してもらえるようお願いしている。

 

物販エリア(通称「Market」)

出演バンド・アーティストやレーベルなどの物販エリアが大きく設けられており、出演者から直接物販を購入できる。この日のためにお小遣いを貯めてきている観客も多く、また、バンド・アーティスト側もこの日に合わせて新音源(CDやレコード、テープなどのフィジカル媒体)をリリースしたり、限定Tシャツや物販を用意したりする。

「バンド・アーティストとファンにコミュニケーションの場を」というフェス主催者の想いにより、どんなに無名のバンドだとしても、ちゃんとブースが用意される。

この写真に写っているブースで全体の1/3ほど。この大きさのブース群があと2つあり、全部で150以上のブースが出展するという巨大な物販エリアとなっている。まさにMarket。

 

「INSPIRATIVE」と、次世代タイポップの担い手となるバンド「Moving and Cut」は仲が良く、いつもブースは隣同士。基本、メンバーは垂れ幕の向こう側でダラダラしており、ファンの方から写真やサインをお願いされたときにぞろぞろと表に出ていく。

 

初日、開場前後で大雨が降り、物販エリアがこんな感じになった(INSPIRATIVEのベースのジュニア君撮影)。この状況を揶揄し「水上マーケット」と呼ばれる。ただし、筆者が16時頃に社長出勤した頃には水は捌けてたので、水捌けは良いんだと思う。

 

雨対策のため、物販エリアに巨大なテントを設営。コストがだいぶ嵩んだらしい。
※当初開催予定であった11月は乾季のため基本的には雨が降らない。5月からは雨季となるため雨が降る確率が高い。

 

ここ数年、タイではオーバーサイズな服が流行っているため、Sサイズ、Mサイズの売れゆきは不調で、L、XLが売れ筋となっている。各サイズの発注数を間違えると在庫を大量に抱えることとなる。

 

まだCDを物販として販売しているバンド・レーベル多数。ただ、近年、CDプレーヤーが市場に出回っておらず、車にもCD挿入口がなかったりするため、グッズとして買っていくファンも多くなった(タイではアーティストにサインをお願いすることが多いのだが、CDにサインをする際、CDを包装しているビニールの上からサインすることも多くなった)。

 

支払いはほとんどが電子決済。現金でのやりとりはほとんど見なくなった。各ブース、QRコードを印刷して物販机に置いてあり、購入者は銀行アプリでQRを読み込んで支払う、といった寸法。
タイは銀行口座所有率が8割を超えている+リアルタイム送金システム「PromptPay」(財務省、タイ中央銀行、銀行、決済事業者による個人の銀行口座と携帯電話番号や国民IDを連動したリアルタイム送金システム。登録者数は総人口(約6,900万人)の約7割に相当する約5,000万件(2019年))が普及しているため、電子決済が進んでいる。

 

フードブースエリア

会場内にはフードブースエリアが3ヶ所設置されていた。

 

ご飯ものから麺ものまで、焼きものから揚げものまで、多種多様なメニューが揃っている。どれもだいたい一品100バーツ前後で販売されている。
※5/17時点で1バーツ=3.75円。100バーツだと375円。

このようにフードブースが連なり屋台街のようになっている。

 

ご飯ものもあれば、

 

麺ものもある。

 

この日は上記のパスタブースで「パスタ パット キーマオ(酔っ払い風パスタ)」をオーダー。60バーツ(225円(5/17時点で1バーツ=3.75円))。酔っ払い風といってもアルコールがはいっているわけではない。以前、タイ人に「なんでキーマオって名前が付いてるの?」って聞いたら「酔っ払いでも味がわかるくらい辛いからじゃない」っておざなりに答えられた記憶がある。名前の由来が本当にそうなのかどうかはわからないし、筆者は辛い物が得意ではない。

 

まとめ

タイでは「CAT EXPO」のような大型音楽フェスが開催され、また、今年後半に予定されている大型フェスの日程もアナウンスされ始めている。

今年初旬はまだひっそりと静かだったイベント業界も、ここ1~2ヶ月くらいでだいぶ勢いを取り戻してきた。こちらで紹介したバンコクのイベントスペース「Lido Connect」が仕掛ける音楽イベント「BUD LIVEHOUSE」も順調に回を重ね、場所を移転し再オープンした「DECOMMUNE」でもイベントが増えてきており(記事はこちら)、海外バンド・アーティストのタイへの招聘イベントも盛んに宣伝されるようになってきた(記事はこちら)。また、こちらで紹介しているライブスペース「Speakerbox」、「Brownstone」でもイベントが次々と企画されている。

バンコクでも、ようやく街で音楽が鳴り響き始めた。

タイでも日本でも、少しずつではあるが渡航規制が緩和され、行き来がだんだんと容易になってきている。タイ・バンコクにお越しの際は、バンコクでインディーズのライブが見れる場所などをまとめた「Bangkok Indies Music Map」を片手に、生のタイ音楽に触れに来てもらいたい。

 

 

 

■執筆者紹介

Ginn

タイ・バンコク在住15年。タイ人メンバーと結成したポストハードコアバンド「Faustus」で自身でも音楽活動をしつつ、日本とタイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」を主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、日・タイ音楽交流のための草の根活動をおこなっている。

 

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