【Column】
コザの天ぷら【コツのいらないアジア音楽】VOL.18
刺激と閃きを感じて!
INSPIRATION OKINAWA 2024 ライブレポート 後編

前回のコラムに引き続き、2024年5月26日に沖縄市 ミュージックタウン音市場にて行われた音楽フェスティバル INSPIRATION OKINAWA 2024のライブレポート後編をお送りします♪フェスティバル後半は、名は体を表す!本領発揮のステージの4組をどうぞ!

【前編】は以下のリンクから。

【Column】コザの天ぷら【コツのいらないアジア音楽】VOL.17閃きのフルコース!それとも闇鍋⁈ INSPIRATION OKINAWA 2024 ライブレポート 前編

 

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【後編に登場するアーティスト】
▶ HOME
▶ H3F
▶ Age Factory
▶ 水曜日のカンパネラ
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HOME

撮影:稲福秀淳 @shumz_mags

 夕方6時をすぎ小腹も空く時間帯に差し掛かり、会場とホワイエ、出店ブースへの行き来がフリースタイルになってくる時間帯。MCのありんくりんは次のステージに出演するHOMEを紹介しながら、「モンゴルの音楽フェスに参加⁈俺たちもスタッフとして連れて行って欲しい!!」と思わずこぼしてしまうほど、スケールの大きな話題にありんくりんだけではなく、驚きの声が会場内の至るところから聞こえてくる。彼らのこれまでの出演してきた名だたる海外の音楽フェスティバルー台湾 LUCfest、韓国 Zendari Festa、シンガポール AXEAN festivalなど、アジア各国のステージに立つ彼らの奏でる音に興味をそそられ、ホワイエから戻ってくる人、県内外から駆け付けた早耳の音楽ファンが集まる中、ステージが始まった。

 人気曲の常時、Plastic Romanceと続き、照明の深い紺藍の色にスポットライトのシンプルなステージ演出の中、メンバー3人自身が深く、さらに深く海底に沈みこんでいくように、歌い演奏する。魅せたい音楽や景色がある、伝えたいことは音楽から感じ取ってほしいと言わんばかりの大人びた硬派なロックンロールな一面を魅せたかと思いきや、唐突に視覚に飛び込んでくるパンキッシュにステージを暴れまわるステージ、それでいて耳の中にリフレインする印象的なトラックとポップなメロディー―目と耳でとらえる大きな認識のズレをどう受容すべきか思案し、観客の聴く姿勢も私語は消え、どんどん前のめりになる。終盤Maybe I should die with you後半、ボーカルsei.のマイクの線が外れるアクシデントを支えるかのようにギター shunのマイクにむかって叫び&絶叫のマイクプレイ。そのインパクトたるや!(痺れた!)掻きならされるギターから一転、ポップでアップテンポのLucy、最終のmilgausまで一気にステージを駆け抜けた。

撮影:稲福秀淳 @shumz_mags

 HOME終演後、始まる前は面白おかしく話をしていたMC ありんくりんの2人が、「僕たち(ありんくりん)のお笑いステージにも、活かせる何かを、HOMEの演奏の中に見つけることができた。ありがとう」とコメント。これこそ、この音楽フェスティバルの目指してきたインスピレーション"閃き”の最たるものかもしれないと思わせるステージだった。

H3F from タイ

撮影:稲福秀淳 @shumz_mags

 先ほどのHOMEのステージの余韻を引き継ぐかのようにステージに登場したのは、タイの人気バンドH3F。H3Fの音楽の愛聴者の世界分布を辿ると、本国タイのバンコクやチェンマイだけでなく、台湾、インドネシアなどアジア各国にファンを見つけることができる、アジアの音楽好きなら誰でも1度は耳にしたことのある有名バンドだ。
 1曲目Chalawan Funkから披露されるスローなテンポの80年代調ディスコファンク調の楽曲序盤から、トロンボーン・トランペットの管楽器のプレイがプラスされ、音像はググっと華やかに。それでいてボーカル&ギターGongのボーカルは洒落た声質で鍛錬されたメロディを丁寧に歌い上げ観客を酔わせていく。HOMEのステージでINSPIRATION的(=フェスタイトル通りの)楽しみ方を無意識下で理解した観客たちは、初体験の音楽に触れる感動を、そのまま素直に、存分に味わえる空間が広がる中、H3Fの7名が奏でる、芳醇で、濃厚であるが後味あっさりの、小気味よい楽曲の数々に、魅了の魔法にかかったかのよう。
あるときはブルース調、またある時はアップテンポのR&B、また別の曲では都会的なシティポップといった具合で色とりどり、リズムも鮮やかに展開していく。

撮影:稲福秀淳 @shumz_mags

 タイの人気SSW Phum Viphuritプム・ヴィプリットとの共作楽曲、 Catwalkではメロディの美しさ、ギターリフとホーン隊、ドラムとキーボードの軽快なかけあいの巧妙さに、誰もが釘付けに。終演後、鮮やかなタオルを手にした人、黒Tシャツに黒スキニーのいでたちのライブキッズ、子連れのパパママ、誰もが「すごいステージをみた」「良いものをみた」と友人知人と呟き合っていた。良い音楽に国境はないのだと改めて感じることができるステージだった。

Age Factory

撮影:稲福秀淳 @shumz_mags

 2024年4月には初の海外公演である台湾公演を成功させ、今回が沖縄でライブ初披露となる奈良県出身の3人組ロックバンド Age Factoryメンバーと同じいでたちの黒色ロックTシャツのライブキッズが客席エリア前方に増えていく。
 Blood in blueの印象的なギターリフとドラムが鳴り、彼らの来沖を心待ちにしていたファンが多かったのだろう、沖縄でAge Factoryのステージが見られる感動を、直立で楽しむオーディエンスが序盤多数みられた。ロックのライブスタートでこれだけ観客の腕が上がらないライブも珍しい。照明はステージ後方から強く当てられ、メンバーの姿は逆光、シルエットで映し出される。エピローグのような佇まいのように神々しくもみえる。ただし、これはあくまでプロローグに過ぎなかった。

撮影:稲福秀淳 @shumz_mags

 ボーカル、ドラム、ギター、ベースのシンプルな構成故に、心にこみ上げる激情のようなもの。Dance all night my friendsの疾走感あふれる出だしに、私は友人との会話を遮り思わず前方フロアに駆け出していた。真っ直ぐに伝わる歌、その低く渋い声で、どこの誰でも良い、1人でも響いてくれたらとひたむきに歌う清水英介のボーカル。
 焦燥感、己の無力さを感じながらも前に突き進む、少しの夢と勇気。残響の残るギターと、早くなり止まらない心音と連動する頼もしいベース音、遠くからも見える汗の粒と腕を振り上げドラムスティックでスネアドラムを叩く姿に、いてもたってもいられなくなり、私は思わず前列ポールに身体を委ね全力で拳を振り上げる。どんどん周りの観客たちも腕が上がり、メンバーと同じように頬に汗をとどめながらシンガロング。私が学生だったときにCDプレイヤーから聴いていたような懐かしく不器用なロックンロールが、今の若いライブキッズにも響くのかと、驚きながらもAge Factoryの音楽の普遍性と、彼らの届ける実直なロックンロールを味わい尽くすことのできるひとときだった。

水曜日のカンパネラ

撮影:稲福秀淳 @shumz_mags

 今回の大トリ、水曜日のカンパネラ。今回のイベント前のコラムも書いた通り、アジアの音楽シーンからも一目置かれる詩羽の歌とパフォーマンスを一目観ようと、日本語、タイ語、英語、中国語ー客席フロアからは様々な言語が飛び交う。 ステージを今か今かと待っていたファンに向けられた詩羽の前説アナウンス「本日はステージ上からではなくこちらから登場します!」と姿をあらわすことなく詩羽の声だけが響く会場。
登場したのは、観客席下手(しもて)中央ドア!

撮影:稲福秀淳 @shumz_mags

 ピンクと黒のツートーンの凝った編み込みのヘアスタイルに、パニエでふわふわになったスカートで、くるりと華麗にターンをしながら観客に手を振り、観客の掲げるスマホにピースサインをおくりながら、客席フロアでティンカーベルを歌い始め、一瞬で観客を虜にしていく。壇上に上がり、アップテンポにステージを動き回りながらも、優しい気配りと小悪魔的な可愛らしさで観客を夢中にさせていく。狼さんの着ぐるみや、人の上を転がる特大ビーチボール(詩羽入り)など、様々な仕掛けに笑いと驚きが止まらない。

その中でも、ミュージックタウン音市場のステージならではのとっておきの演出は、中盤 たまものまえ に仕込まれた、地元沖縄市の有志ダンサーたちとの共演ステージ!(終演後、ダンスを踊っていた子に聞いたところによるとミュージックタウン音市場にダンサー募集ポスターが張り出されていたらしい)様々なバックグラウンドを持つ幼稚園生ダンサーから大人ダンサーたちが詩羽とともに「たまもるふぉーぜ!」と重低音のクラブビートにあわせて首を平行移動させながら、指でキツネを作りダンスを踊る。サビを1度2度と迎えるたび、バックダンサーたちも緊張した顔つきからステージ自体を楽しむ余裕が出来、ステージから客を盛り上げフロアの熱気をさらに呼び込む。あっという間に終盤エジソンをはじめとした人気チューンで「ハッピー」と「kawaii」を全力で放出し、一気に駆け抜けた。

撮影:稲福秀淳 @shumz_mags

最後に

"INSPIRATION(インスピレーション)”=人を鼓舞する人やもの、刺激となるもの、心に火をつけるもの
"最高にクールで高いポテンシャルの音楽やカルチャーだけを集めて、沖縄・コザから新しい世代に向けて、ポジティブなエネルギーを発信するフェスティバル”
 フェスティバルの名付けに込められたメッセージに、納得しきりの1日。名は体を表すとはこういうことか!

「あー!楽しかった!」だけではない充実感。今回得られたインスピレーションを、いつか自分自身のパワーにしてOutput(アウトプット)してみたいと、自分の情熱に火がついたフェスティバルでした。閃きにまだまだ伸び代あり!のINSPIRATION OKINAWA。vol.2、vol.3と続くことを願って!!

 

 

サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛聴する、コラム・エッセイスト。
Instagramにて、邦楽アーティストとアジア圏のアーティストのコラボ(コライト)曲に特化した楽曲レビューを不定期更新中 。
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