【Interview / インタビュー】 JUSU / ジュス オキナワン・ポップスの手触りとは違った、新しい沖縄音楽の誕生 ①

沖縄の音楽と長く、深い関わりを持ってきた、笹子重治(ショーロクラブ)とゲレン大嶋(TINGALA / coco←musika / チュラマナ)が中心となり、ボーカルに石垣島出身の宮良牧子(チュラマナ)を迎えて結成されたユニット、”JUSU / ジュス”。その1st Album『サガリバナ~島をくちずさむ Vol.1 』がリリースされた。
二人の腕利きの音楽家と、沖縄の島に根ざした歌をうたい続けるシンガー。3人のエッセンスが溶け合って、いわゆるオキナワン・ポップスの手触りとは違った、新しい沖縄音楽の誕生とも言えるような作品に仕上がった。三人三様の沖縄、沖縄音楽との関わりを中心に話を聞いた。

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笹子重治
「沖縄との関係は実際に沖縄に来て、自分で沖縄を感じた時に始まった」

僕らにとって、沖縄が好きになるというのは、異文化ですから。本土の別の街が好きなこととは別の種類の動機があると思うんです。僕の場合は、音楽より先に沖縄という土地にビビッときたんです。

初めてきたのは1988年。西表島の”西表カーニバル”というイベントで、対バンがマリーwithメデューサでした。島に早めに着いて付近を散歩したり、案内してもらってジャングルの中に入ったりして、その経験すべてが無茶苦茶強烈だったんです。
ブラジルの場合は、音楽から入りましたけど、沖縄との関係は実際に沖縄に来て、自分で沖縄を感じた時に始まったという感じです。自分の中で絶対に好きになる要素が満載なものに出会ってしまったという感じでした。こういうのはあまりないと思います。

そういうところから始まって、沖縄の音楽を聴いてみて、”これはなんだろう”っていう。それで、もうちょっとわかりたいという気持ちが強くなってきたわけです。それでも、沖縄の音楽はよくわからないわけです。沖縄民謡って、既成の音楽とはまったく一線を画すものですから。わからないままにCDを買って聴いたりしているうちに、音楽家との個人的な関係ができてきた。例えば古謝美佐子さんや大島保克さん、ああいう人は民謡の側に立つ人ですから、その人たちと自分の音楽のスタイルがどうマッチするのかという。いきなり核心の場所にドンと連れていかれる感じでした。
三線が音楽の骨格を作っているんだと思って、まず三線のフレーズを全部コピーすることから始めて。その中に自分なりのハーモニー感覚とかを取り入れていくということをやってきました。
それとは別に比屋定篤子さんがいます。彼女は沖縄の音楽をやっているわけではないので、アプローチできる手段はもっとあります。でもメンタル的にはすごく沖縄の人だし、独特の大らかさが歌にも音楽にも表れているんです。

自分にとって沖縄音楽っていうのは、音楽のベーシックな部分を自分なりに解釈していくということと、ひたすらメンタルな部分で、寄り沿っていくということ、そういう二つの面でアプローチを続けてきたんだと思います。

 

ゲレン大嶋
「最大限のリスペクトを持って、三線のあり方を大事にしながら自分の音楽を作る」

僕は小学校3〜4年の頃から、ロックバンドをやっていた年上の従兄弟の影響で、超ロック少年として過ごしました。そんな時に、喜納昌吉&チャンプルーズの“ハイサイおじさん”を、東京のテレビやラジオでも耳にする様になりました。それがものすごい衝撃で、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」のキース・リチャーズのギターのリフと、「ハイサイおじさん」のリフを同じようにかっこいいと感じました。カッコいいロックの様だけど、今まで聴いた音楽とちょっと違うという、それがどこかに引っかかっていました。
高校生になって音楽を作って、自分で表現しようと思った時、自分は英米のロックに近づくことはあえて考えずに試行錯誤を重ねていました。その時に喜納昌吉&チャンプルーズのことを思い出したんです。
1990年に、「ニライカナイParadise」というアルバムが出て、それで一気に入り込みました。音楽の背景も自分なりに理解できましたし、風土と密接に結びついた音楽ということで、その音楽が生まれた場所に行きたくて仕方がなかった。本当に運よく、喜納さんたちと親しくなれて、当時喜納さんが拠点にしていた北中城に遊びに行って、お父さんの昌永さんに三線を売ってもらいました。

僕は、笹子さんとは真逆で、沖縄には完全に音楽から入りました。チャンプルーズのアルバムで、昌永さんが弾いている「海のチンボーラー」と「唐船ドーイ」をまず練習して掘り下げました。音楽の背景を知りたいと思ったんです。それをある程度やると、この楽器を使って自分の音楽を作ることにシフトしました。自分が沖縄民謡を沖縄の人のように歌って弾けるようになったところで、あまり意味はないと思いました。最大限のリスペクトを持って、三線のあり方を大事にしながら、独特の響きを活かして、自分の音楽を作ろうと思いました。自分のオリジナルな音楽の中で、三線をどう響かせるかっという究極の形が、coco←musikaなんです。ものすごくリスペクトしながら、三線を自分の音楽に活かしてます。

そんな中で、沖縄への移住を何度も考えました。でも、僕が沖縄に住んだら、三線を持って、自分なりの音楽をやることはもうできなくなるだろうと思ったんです。完全にこの濃厚な世界に吸収されてしまって、自分のアイデンティティは、すごく擦れていってしまう気がしたので、堪えて移住はしなかったんです。もし移住していたら、coco←musikaの曲も、JUSUの曲もなかったと思います。
JUSUでは、自分の頑なな姿勢を、沖縄への愛情とか思い出という、より素直な形で出せた感じがします。coco←musikaより素直になれたのかもしれません。

 

宮良牧子
「石垣と東京で過ごした時間が一緒になった頃、島と繋がっていたいという気持ちが強くなった」

小さい頃から歌うのは好きでした。小学3年の時から合唱団で歌っていて、ハモることがすごく好きでした。でも八重山民謡を習っていたわけではありません。中学の頃はドリカムが好きで、J-POPや兄たちが聴いていたロックが耳に入ってきていました。沖縄の音楽は、島のお祭りで聴いたり、学校で習うものという感じでした。人前で歌うなんて思ってもみませんでした。

東京の短大を卒業した後、島に戻らずに楽器屋さんでアルバイトを始めたんです。そこで、出会った別の店舗の白井さんという方に誘われて、”どなん”というグループで歌うことになりました。そのバンドはカントリーやブルーグラスに沖縄音楽をミックスしたようなオリジナル曲を作っていました。ある意味勉強だと思ってやっていました。
当時は、宇多田ヒカルやMISIAがすごく流行ってて、私もそういう音楽をやりたいと思っていたんです。その頃は、沖縄の音楽の良さがわかっていなくて、どこか田舎くさいものだと思っていました。でもその時期があったから今があると思います。

三線は”どなん“で必要に応じて触るようになっていて、自分が石垣島で過ごした時間と東京で過ごした時間が一緒になった頃に、やっぱり島と繋がっていたいという気持ちが強くなったんです。それで金城弘美先生に師事して、古典音楽を通して先人達の知恵を勉強することにしました。先生は石垣島在住なので、私が帰郷した時とかに集中して見てもらっています。あとは自主練ですね。

八重山の周りの先輩に影響されたこともありましたね。みなさん島の後輩ということで、とても気にかけてくれます。私がデビューしてすぐくらいの時に、渋谷で、新良幸人さんの一合瓶ライブがあって、そこに呼んでもらって歌わせてもらいました。みなさんに島の後輩として紹介していただいたことが強く印象に残っています。同じ島の生まれということで、とても良くしてもらっていると思います。本当にありがたいですね。

取材・文:野田隆司

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ライブ・インフォメーション

JUSU / ジュス
アルバム 発売記念ライブ
『サガリバナ~島をくちずさむ Vol.1~』

出演:JUSU / ジュス
   笹子重治(ギター)・ゲレン大嶋(三線)・宮良牧子(ヴォーカル)
サポートミュージシャン:西仲美咲(フルート)

日程:2022年10月02日(日)

会場:桜坂劇場ホールB(沖縄県那覇市牧志3-6-10)
時間:開場14:30 開演15:00
料金:一般前売3,500円 4,000円(全席自由)
高校生以下前売・当日共2,000円
※入場時別途300円の1ドリンクオーダーが必要
チケット販売店:桜坂劇場窓口・ファミリーマート各店・イープラス/ローソンチケット・チケットぴあスポット・セブンイレブン
問合せ・電話予約=桜坂劇場098-860-9555

 

リリース・インフォメーション
ジュス 1stCD 『サガリバナ~島をくちずさむ Vol.1~』

1. 島へ  (作詞、作曲:ゲレン大嶋)
2. 島のワルツ (作詞、作曲:ゲレン大嶋)
3. サガリバナ (作詞、作曲:ゲレン大嶋)
4. 行(い)ち戻(むどぅ)い (作詞:名嘉睦稔、作曲:笹子重治)
5. 竹富の猫(まやー)小(ぐわぁ) (作詞、作曲:ゲレン大嶋)
6. 花とオルゴール (作詞:ゲレン大嶋、作曲:笹子重治)
7. 風(かじ)や向(ん)かい風(かじ) (作詞:名嘉睦稔、作曲:ゲレン大嶋)
8. あなたの島 あなたの歌 (作詞:ゲレン大嶋、作曲:笹子重治)
9. イアイ (伝言) (作詞:ゲレン大嶋、作曲:笹子重治)

¥2,300円
CD購入
https://jusu.theshop.jp/

バイオグラフィ

●笹子重治(作曲、アレンジ、ギター)
ギタリスト、作編曲家、プロデューサー。弦楽トリオ、ショーロクラブ(1989年-)のリーダーであり、ソロ・アーティストとしても優れた楽曲を発表。多くの尊敬と信頼を集める彼のサポートを求めるアーティストは後を絶たず、これまでに共演してきた歌手や演奏家は、畠山美由紀、Ann Sally、大島花子、純名里沙など、枚挙にいとまがない。また、古謝美佐子、大島保克、比屋定篤子、桑江知子といった沖縄出身アーティストとの共演も多い。

●ゲレン大嶋(作曲、作詞、三線)
1999年に沖縄系アンビエント・ミュージックのユニット、TINGARAのメンバーとしてデビューしたヤマトンチュ三線プレイヤーの先駆け的存在。その後ハワイアン・スラック・キー・ギターの名手山内雄喜、宮良牧子、上原まきと組んだチュラマナなどを経て、2010年からは日本を代表するギタリストのひとり、梶原順とのインスト・ユニットcoco←musika(ココムジカ)で作曲と三線を担当し、三線音楽の新たな可能性を広げている。

●宮良牧子(ヴォーカル)
石垣島出身。民謡のDNAを大切に受け継ぎつつ、そのエッセンスを多彩でダイナミックな表現の中で輝かせるという、稀有なスタイルを持つヴォーカリスト。その圧倒的な歌唱力を絶賛するアーティストも多い。これまでにソロや、ゲレン大嶋とも共演したチュラマナなどでアルバムもリリース。また2010年にはNHK連続ドラマ小説「ゲゲゲの女房」サウンドトラックに参加し、2012年の映画『ペンギン夫婦の作りかた』では主題歌の作詞作曲と歌唱を担当し活動の場を広げている。

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