コザの天ぷら【コツのいらないアジア音楽】VOL.11
Music Lane Festival Okinawa 2024【レポート2】

1月21日 – 3日目(ショーケース2日目)

コンビニでホッカイロ コーナーの前で立ち止まる、買おうか、どうしようか(結局買った)。前日の夏日とはうってかわって寒空。厚手のコートが必要な程の気温に前日半袖で活動していた身体が追いつかない。

コザミュージックタウンへ到着し、早々に3階ホワイエに向かう。

Trans Asia Music Meeting 2024 Session1 The importance of Music Network ~ Introducing”Global Music Market Network” (Presentation) 音楽ネットワークの重要性 〜”Global Music Market Network”の試み SPEAKER : Jung Hun Lee (Seoul Music Week / South Korea) Photo by Naoko Taira

午前中に行われた音楽カンファレンス Trans Asia Music Meetingは、到着早々座る場所も見つからないぐらいの賑わいだ。到着した際に行われていたのはカンファレンス3。海外デリゲーツが各々出演オファーを出すの際のポイントをざっくばらんに話をしている(超貴重!)

登壇した彼女・彼らの話すキーワードから、パソコンやスマホ・ノートにメモを取っている海外出演者とその関係者。…が、日本の出演者帯同のスタッフさん、マネージャーさんの姿をちらほら見かける。想像していたより少ない。

…こういうところだよなぁ。海外に出たいと言いながらその情報を取りに来ないってどうなのよ、などと、もどかしさを感じる。

“TIPS for increasing fanbase in Asia” ​アジアの国々でファンベースを獲得するためのヒント SPEAKERS John Uy (Wonderland Music & Arts Festival / Philippines) Cecilia Soojeong Yi (DMZ Peace Train Music Festival / South Korea) Zhang Ran (KILOGLOW / China) Weinning Hung(LUCfest / Taiwan) MODERATOR MC Galang (The Rest Is Noise / Philippines)

− そんな偉そうなこと考えておきながら、私だって流暢な英語の聞き取りが苦手だから、居ても内容がわからないだろうと、カンファレンス3から途中参加なのだから、自分を棚に上げるのもおかしな話だなと、人の振り見て我が振り直せ、自分にもその思考の刃が向かってくる。がんばろう英語。

英語が聞き取れないからとカンファレンス参加をあきらめた人へお知らせをすると、英語がわからなくともor日本語がわからなくとも、カンファレンス参加は可能だということを声を大にしてお伝えしておきます。

音声同時通訳のイヤモニがあります!流石、アジアと日本の音楽を繋ぐカンファレンスと謳っているだけある…(もっと早く情報を仕入れるべきだった。大反省)

カンファレンス3ではアーティスト自身がいかにSNSを活用するか、カンファレンス4では日本の音楽シーンにアジアのアーティストが入り込むコツなど、レアなお話満載で終了。

さあ、午後からは最終日のショーケース!!土曜の4会場から2ヶ所増え、本日は6会場!!

観客もお目当てを1つでも多く見るため、会場で購入したドリンクさえ飲み切る前に会場を後にするほどのドタバタっぷり。忙しいけれども、想像を超えるステージ演奏や演出に出くわすと、そのドキドキワクワクから放出されたアドレナリンで、さらに次の会場へ、疲れも忘れ移動していく。

レポート1では日本国内アーティストを中心にお届けしたので、レポート2は海外アーティストを中心にお届け!

straw man.&celine

Crossover Cafe 614の会場には入場前から、続々と集まりたちまち入場待ちの整列待機の列が。イタリアとモンゴル出身の男女混合デュオ straw man.&celineのステージ。straw man.はギター、celineはバイオリン。楽曲によってはドラムスティックに持ち替えドラムパッドを演奏する、めずらしいスタイル。

彼らの演奏は、1月の寒空の中でも太陽の光の暖かさを感じるような、陽だまりでピクニックしてるかのような、じんわりと暖かい気持ちにさせてくれる。(ので、速報レポートコメントに大層驚いた!)

straw man.のつま先で取るリズム、celineの細い身体から想像できない程の躍動感あるバイオリン。2人の観客へ向けられる、楽しんでる⁇と、呼びかけられているようなハッピーなハーモニーと笑顔は、ステージから向日葵の花束を渡されているようで、心の滋養強壮になる、素敵なステージだった。

Logic Lost

SLUMBARで先ほどまで行われたVVASのエピローグ、全員で畳みかけるジャムセッションに夢中になりすぎて、出発が遅れた。間にあわないかも、と息を切らして騒音舎へ到着。開始1~2分だろうか。なんとか間に合い、空いているスペースに滑り込む。

インドネシアのLogic Lostステージはアンビエントなステージを予想していた…が、予想が外れた。目の前では観客が頭をぶんぶん振り乱しながら、さながら深夜のCLUBにでも来たかのような光景。

Logic Lost (Indonesia) Photo by Ayako Sakurai

壁面のスクリーンで映し出される退廃的な映像は、彼の表現しようとする世界観の輪郭をはっきりとさせる。低音強めのエレクトロミュージックを主体に、表現される彼自身の内省的な発露は、彼の怒りなのか、無力感なのか、絶望なのか、希望なのか…彼の抱える感情が音になって飛び出してくる。彼の音に呼応し受け止める観客は、感情の混沌の渦に巻き込まれ、身体を縦に横に揺らさずにはいられない。興奮して絶叫の声もあがる。私も思わず最前列まで飛び出し他の観客同様、頭を振り乱しリズムにあわせて叫んだ。

終盤にLogic Lost自身、自分の音楽が好意的に受け入れてもらえるとは思っていなかったようで、MCの度に観てくれた観客への感謝と自身の感動を観客へ伝えてくれて、彼にとっても納得のいくステージ演奏だったことに、観ているこちらもうれしくなった。

San The Wordsmith & The Workshop

前日の2日目同様、タイムテーブル通りにいかない問題が夕方の時間帯から如実に出てくる。昨日と違ってこの日は公式SNSでどの会場がどれだけ時間が遅れているのか投稿してくれている分、まだ心に余裕が持てている(けれど押していることは押している)。

タイテ遅れと理由はわかっていても、演奏序盤に観客が少ない状況は不安になる(ステージ終盤には客席を振り返ると観客でにぎわっているのだけれども)。演奏序盤にお客さんが少ないのは見るこちら側も心もとない。観終わった後…そんなことを考えた自分を張り倒したいと思った。

San The Wordsmith & The Workshop (Singapore) Photo by Ayako Sakurai

シンガポールからやってきたヒップホップを主体としたミクスチャーバンドSan The Wordsmith & The Workshop 。彼らはステージ中盤、観客に向けて、ボーカルのSanが「貴方のお題でフリースタイルするよ!お題頂戴!」と英語でMC。異国で、言葉が通じない日本・沖縄で即興演奏を披露するその度胸!フリースタイルラップに合わせ、生バンドもJazz要素強めの即興でバシッと決めてプレイ。コール&レスポンスも多分にあり、演奏もMCもなんとも面白可笑しい。「大丈夫!(楽器隊の)彼ら演奏上手いからなんでもできるよ!」なんて軽口も冗談ではなく、本当にやってのけてしまうのだから、凄いバンド!

フェス終わり、商店街の居酒屋で飲んでいた彼らにステージの感想を伝えた。即興演奏をやってのける堂々としたステージとは裏腹に人懐っこく優しいやり取りと握手が印象に残った。

LEMONY

フェスティバル最後をどのバンドを観て締めるか、悩みに悩んだ末、私はタイのバンドLEMONYを観にSLUMBARへ!!

少し遅れて会場へ入ると、フロアの前方では雄たけびとモッシュが起きている。ステージ前方スペースに程よく私1人分の観覧するスペースは…無い。モッシュの起こるフロアに突進する勇気は流石になく、ステージ側の通路スペースで見ることに。私の傍ではスタッフさんが本国タイのファンへ向けてインスタライブを生配信中。本国からのコメントやリプライがひっきりなしに続いているのか、画面には❤のマークが漂っている。

LEMONY(Thailand) Photo by Ayako Sakurai

メロディアスな王道のオルタナティブ・ロック。スピーカーの上から天井にも届きそうなほど生動的なジャンプ、時にはしゃがみ込み、寝転がりながらもマイクを離さず歌い続けるボーカルのチィーム・アナン・プアニランの歌のパワーと天真爛漫さ。ティームに負けず劣らず、ギターのラック・カニン・クンプラシットも、ベースのエフ・ソンフォン・デツワンも楽器抱えてシールドが波打ち、絡まるほどに動き回りながら演奏する。ドラムのチャンプ・シッティコーン・クラドぺッチは、弦楽器2人のソロパート中はすかさず立ち上がり観客をスティックで煽る。ロック・キッズがじっとしていられるわけがない。モッシュが起きるのも納得だ。彼らは青くて、ストレートなロックを会場中に浴びせ、最後は、フロアに向かってティームがダイブ!観終わると日常の悩みや心の靄がバカらしくなるほど、後味スッキリ、爽快さを持ったライブ。終演後に客席に投げたティームの“I Love BANGKOK”とプリントされたTシャツは観客で取り合いに。「楽しかった!」の歓声と拍手が沸きあがり、大団円で幕を閉じた。

“Lane”の意味

このフェスティバルの名前の由来にもなった”Lane”の意味を考える。線路。車線。路地。このフェスティバルでは、意訳も含めた、人と人が”交差する”、”繋がる”小道という意味を当てはめてみた。その意味を感じきりな3日間だった。

その中でも2点の”Lane”と未来の”Lane”ついて話題にしておきたい。

Upper: snowy(JPN) / THE ROMP(China) Lower: Yukino Inamine+Harikuyamaku(Okinawa) / Kachimba Combo(Okinawa)

1つ目の”Lane”

− 出演者どうしが繋がって、それぞれをサポートする姿。

▶ emma aibaraのステージにtexas3000のベースkirinがサポート参加

▶ 韓国のOhelenのステージに沖縄のakira.drumsが参加

 

などをはじめとした、出演者どうしの繋がりがステージで見られた”Lane”。出演者どうしの繋がりはステージ上だけに留まらない。ベストを出し切ろうとする出演者と、ステージ下から頑張る仲間への「頑張れ!」「応援してるよ!」の橋渡しが観客の前でも常時起こる。ステージ上とフロアの間でも”Lane”を観客としても感じることができ、仲間の一員になれたような気分になり、なんとも心地良い。

これがMusic Lane Festival Okinawa 2024たらしめる”らしさ”の1つなのかもしれない。

ステージ終わりに出演者どうし・デリゲーツとざっくばらんに会話をし、演奏のインプレッションを受ける姿。恐らく他のフェスティバルでは、楽屋裏で行われていることだ。そういったインプット・アウトプットを、会場内のバーカウンター前や屋外喫煙スペース、会場移動中のアーケード商店街の至るところで行われている。それは、行きつけのBARで見ず知らずの他人が出会い意気投合するように、商店街のアーケードの軒下で、人と人が繋がっていく”Lane”。「一緒にライブイベント企画しようよ!」「一緒に楽曲を作ろうよ!」軒下でそのセリフを何度となく見聞きした。それは、未来に繋がる”Lane”の種がいたるところで芽吹きを待ちわびているようだった。夜な夜なの音楽談義は、電車のない(=終電のない)沖縄だからこそ、徹底的にトコトン花が咲かせられる土地的な利が効いていたように思う。

2つ目の”Lane”

− 今年突出していたのはMusic Lane Festival Okinawa 2024出演に併せてツアーを組んだバンド・アーティストの多さ。

フェスティバル出演に併せて日本ツアーを行った、海外から来た

▶ FORD TRIO

▶ THE 尺口MP

▶ VVAS

▶ Logic Lost をはじめとして、

日本国内バンドも負けず劣らず、沖縄の音楽好きとの縁を深めるためフェスティバル期間中の深夜やフェスティバル開催前後の日程で地元のライブハウスでかなりの頻度でライブを開催していた。私が把握しているだけで

▶ Adee A.

▶ anorak!

▶ cwondo

▶ Darthreither

▶ emma aibara

▶ FamousJapanese

▶ texas3000

▶ HOME

これほどのバンドが沖縄との”Lane”を繋げていた。

昨年も数バンドは行っていたが、今年これほど多くのバンドが複数のライブを開催したのは驚いた。フェスティバル主催者側からしてみると集客に影響があるのかもしれないが、観客としてはライブを観られるチャンスが沖縄で増えるという点ではとても嬉しいトピックだった。

未来に繋がる”Lane”

フェスティバル終了からおよそ1カ月。早速、出演者やデリゲーツの”Lane”で繋がった活動の一端が見て取れる。

▶ Darthreitherのタイのライブ中、デリゲーツとして参加していたGinnさんとコラボセッションの実現

▶ TEXAS 3000の企画イベントにcwondoの所属するバンドNO BUSESが出演

▶ デリゲーツ高波由多加さんの企画イベントにluvisが参加

…とすごいスピードで”Lane”なニュースが飛び込んでくる。Music Lane Festival Okinawa 2024から始まる”Lane”な海外ニュースにも今後、大いに期待しながら、次回の開催を待ちわびたいと強く思う。

筆者紹介

サクライアヤコ:沖縄本島やんばる在住。アジア圏のインディペンデントな音楽を愛聴する、コラム・エッセイスト。
Instagramにて、邦楽アーティストとアジア圏のアーティストのコラボ(コライト)曲に特化した楽曲レビューを不定期更新中 。
Music Lane Festival Okinawa2024の出演者を網羅したミュージックプレイリストはこちらから!(SpotifyAppleMusic

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