「Music Lane Festival Okinawa 2023」のレポート、やっと完結(だと思う)。もうちょっとだけ、お付き合いのほど。
去る2023年2月17日~2月19日の3日間、沖縄のコザにてインターナショナルショーケースフェス「Music Lane Festival Okinawa 2023」が開催された。
Music Laneを含めたショーケースフェスへの参加に興味のあるバンド・アーティストの方に向け、「こういう雰囲気のイベントなんだ」「こういう人と会えるんだ」「こういうチャンスが得られるんだ」というのをなんとなくでも掴んでもらうため、自分が体験したことを参加レポートとして記しておく。
※前編・中編はこちらより
めくるめくタイインディーズの世界第13回「Music Lane Festival Okinawa 2023」参加レポート 前編
めくるめくタイインディーズの世界第14回「Music Lane Festival Okinawa 2023」参加レポート 中編
2月19日
トークライブ
Music Lane Festival Okinawa 2023、二日目。識者による音楽にまつわるトークライブから始まる。全部で3セッションが用意されていた。
最初のセッション「急成長するインド音楽マーケットへのゲートウェイ」は午前11時からスタート。連日の深夜就寝で体力がヘロンヘロンだったので(深夜食を食した後に仕事してたので毎日5時頃寝てました)、最初のセッションの終わり5分くらいから参加。しれっと最初からいる風な顔で5分くらいセッションを聴き、感銘を受けたような面持ちで拍手を送る。
第2セッションは「ASEAN諸国をツアーする際のヒント」。タイのPyさん、フィリピンのBelさん、フィリピンのMC Galangさん、インドネシアのSatriaさん、マレーシアのMakさん、アメリカのJoshさん、と、アジア各都市で音楽イベントやフェス、メディアを運営している手練れたちによる共演。Pyさんは悪酔いすることで有名なタイのウイスキーを飲んで悪酔いしてた。半分寝ながら喋ってて、人間って凄いな、って思った。
第3セッションは、Music Lane主催の野田さんが司会となり、台湾と日本を繋ぐ重要人物であり「BIG ROMANTIC REDORDS」主宰の寺尾ブッタさん、橋の下音楽祭を運営しつつアーティストマネジメントなどもおこなっている根木龍一さん、そして僭越ながら、タイと日本の音楽を草の根的に結ぶ活動をしている僕もお二方に交じってトークセッションさせてもらった。
テーマは「日本とアジアの音楽マーケットをどう繋ぐか」。どう繋ぐか。繋ぎ方にはいくつか種類がある、といった話をした。点で繋ぐか、線で繋ぐか、面で繋ぐか。
「点で繋ぐ」とはフェスも含んだ当地での単発イベント出演。「線で繋ぐ」とは当地での数ヶ所を周るツアー。「面で繋ぐ」とは当地でのプロモーション活動。
当地で既に名が売れているバンドであれば、点か線で繋いでも成功する可能性は高いだろうが、これから進出という段階であれば、ある程度のファンベースを築いてからのほうが入りやすい。なので、まずは面、プロモから始めることをオススメする。プロモである程度のファンベースを築いてから点・線で攻めるのが効率的なのではないか。
ただ、当地向けプロモを自分の力だけでやろうとしても難しいと思われる。なぜなら、当地の言語でプロモしないと響きにくいし、アートワークの好みも違うし、どんな現地メディアがあるかも知らないだろうし、有効なプロモをするのはだいぶ難しい。
当地向けのプロモをおこなう際のオススメ施策は「現地アーティストとのコラボ曲制作」。現地のアーティストとコラボすることで、現地でのプロモは先方にお任せする。現地のアーティストの知名度を借り、現地の言葉で現地のメディアにプロモしてもらう。コラボ相手の現地ファン・フォロワーへもプロモが行き渡ることが期待できるし、相手の当地での知名度やコネクション次第にはなるが、上手くいけばコラボ曲のラジオオンエアーや音楽系メディアへの露出などもあるかもしれない。
また、上記で言うところの点・線の話になるが、いつか現地でライブをすることになった際に、現地でのライブの集客にも期待ができる。コラボ相手が現地でのライブ告知を助けてくれるだろうし、さらに、ライブにゲスト出演といったライブの演出も考えられる。
※現地アーティストとのコラボ施策についてはこちら参照
事例として、2022年11月にリリースされた日・タイのバンドによるコラボ曲を取り上げた。
タイファンクを現代解釈したタイのバンド「FORD TRIO」と日本のオルタナロックバンド「Helsinki Lambda Club」のボーカリスト橋本薫さんとのコラボ曲「เปล่าเลย (なんにも)」。FORD TRIOが作曲し、曲前半はFORD TRIOがタイ語で、曲後半は橋本さんが日本語で歌唱するという面白い試み。橋本さんにはタイに来てもらい、レコーディングをおこなった。
※橋本さんのタイレコーディング記については、こちらの前編・後編を参照
橋本さんがオープンマインドな方で、また、FORD TRIOの面々が底抜けに明るくて良い奴らなこともあり、会って間もなく意気投合。良い空気感のなかでレコーディングに臨んでもらい、結果、素晴らしいコラボ曲ができあがった。この曲のおかげでFORD TRIOを聴く日本のリスナーが増えた。また、日本でもタイでも多くのメディアに取り上げられたため、日本でFORD TRIOの名前が、タイでHelsinki Lambda Clubの名前が広まった。
今年8月リリース予定のHelsinki Lambda Clubのニューアルバム「ヘルシンキラムダクラブへようこそ」では、今度はHelsinkiの楽曲にFORD TRIOがコラボさせてもらっている。
FORD TRIOとHelsinki Lambda Clubのコラボ事例は、波長の合うミュージシャン同士のコラボが実現すると、単発で終わるのではなく、その関係性が脈々と続き、ポジティブな効果が継続的に波及していく、という良い事例となっている。
Music Lane Festival Okinawa 2023 二日目
人前でまじめな話をしたので脳が焼き切れた。誰もいなくなったセミナー会場にて小休止。しばらくの間、生気の抜けた顔で一点を見つめ回復に努めた。
さて、二日目が始まる。
Amrita Soon (https://www.instagram.com/amritasoon/)
セミナー会場を出ると、ミュージックタウン音市場の一階の吹き抜けから伸びやかな歌声が聴こえてくる。マレーシアから参加のAmrita Soonさん。昨日のSPINNOFF NIGHTでDJ機材の使い方をブッタ先生に教わっていたちょうどその時、目の前で歌っていたのがAmritaさんだった。相当テンパっていたはずなのに、気候の涼しさとは裏腹に手汗が滴ってたはずなのに、Amritaさんの声はスッと響いてきてた。今日はテンパることなくAmritaさんの歌をじっくり堪能できた。良かった、おかげで生気が戻ってきた。
Panician (https://www.instagram.com/panician.official/)
前日、とある事情により、急遽出演時間と場所が変更となったPanician。マネージャーとして同行してたBook君(レーベル「Guesswhat Records」のオーナー、TELELLAMAのギターボーカル、KIKIのサポートベース)が有能なナイスガイで、デリゲーツたちに出演時間・会場を事前に周知していたため、変更の影響を気にしていた。が、変更についてはMusic Lane実行委員の方々が、デリゲーツへしっかりと周知してくれており、ライブ会場にはデリゲーツも含め多くの人だかりが。良かったね、Book君(Book君の献身的なサポートがあったものの、現在、PanicianはBook君のレーベルから離れちゃいました。頑張れBook、応援してるぞBook)。
気合い入れて作った日本ツアーTシャツを着てるのがBook君
TOSH (https://www.instagram.com/tosh_kugai/)
Panicianと同じく、TOSH君も出演時間と場所が変更となっていた。ただ、こちらもPanicianと同じく、会場には人だかりができていた。
Music Laneの前身、Trans Asia Music Meetingに初めて参加させてもらったのは2019年のことだった。そのときにもTOSH君のライブを観ていたが、今回の彼のライブは、もう別ものになっていた。世界にいこう。実際、ライブ後に海外からのデリゲーツと連絡先を交換していたので、早々に世界への扉が開けるだろうな。
※Music Lane後、モンゴルのフェス「PlayTime Festival 2023」に出演が決まったとの知らせが届いた。波乱だらけの滞在だったようで、TOSH君が出演するはずだった日は、川の氾濫を危惧して(?)中止となったとのこと。ただ、急遽、現地でのライブを組み大盛況だったと伝え聞いた。今度、話し聞かせてね。
※不屈の男、野田さんから現地レポが上がってました。
【ウランバートル / Ulaanbaatar】”Playtime Alternative Night” 2023年7月8日、ウランバートルにて。
Two Pills After Meal (https://www.instagram.com/twopillsaftermeal/)
タイのエレクトロニカポップデュオ「Two Pills After Meal」の持ち込み機材が多すぎて会場側での対応が難しいかもしれない、といった話を会場間の移動中に誰かから聞いた。聞こえないふりをしていたのだが、Two Pillsのタイからの乗り込みサウンドエンジニアが友人だったこともあり、サポートしに行くか、と一足早めにライブ会場であるミュージックタウン音市場へ。サポートしに行くか、なんて偉そうに言ってたのに、会場に到着した頃にはすでに機材のセッティングは完了しており、これからリハを始めるという段になっていた。まぁ、そうだよな、会場の方々もプロフェッショナルだし、友人のサウンドエンジニアも超優秀だしな。Two Pillsをサポートするため、観たかったアーティストを泣く泣く振り切ってきたこの気持ち、どうすればいいのだろうか。生気のない顔で一点を見つめることにした。
Two Pillsがミュージックタウン音市場メインホールでのライブの先陣を切る。壮大な音響と照明に包まれたライブは、お客さんの反応も良く、本人たちもいつも以上の演奏ができたよう。
Two Pillsが所属するタイの老舗人気音楽レーベル「smallroom」も本格的に日本進出を目指し始めたみたい。僕も、形を成さない綿菓子のようなフワッとした相談を受けている。
さらさ (https://www.instagram.com/omochiningen/)
Two Pills After Mealの音の洪水のようなライブから一転、ポロポロとギターの弾き語りスタイルでライブを始めるさらささん。一曲一曲、丁寧に曲の説明をしてから奏で始める。その静かな語り口からは想像できない、迫力に満ちた歌声。すっかり魅了された。タイから来ていたとあるレーベルのオーナーも一緒になって魅了されてた。今回のMusic Laneで、世界への扉を開けたアーティストの一人なんじゃないかな。
※先日情報公開されたが、台湾・台南でおこなわれているショーケースフェス「LUCfest」への出演が決定したとのこと。
ライブ会場を出て、さらささんの所属レーベルのスタッフの方とご挨拶。しばし歓談、と思ってたら、さらささんの物販に人が押し寄せてきて、また、デリゲーツからも話しかけられてたので、皆さんそちらの対応に。ライブが素晴らしかったという証左。
ライブ会場前のロビーを彷徨ってると、カルチャーメディア「ANTENNA」の編集長の岡安いつ美さんにお声がけいただく。ANTENNA発行のフリーペーパー「OUT OF SIGHT!!!」を頂戴した。数ページめくっただけでわかる上質なこだわり。取り上げている題材はもちろんのこと、様々な紙質のページが詰め込まれた冊子、華やかで賑やかなのに整然と魅せる編集手腕。有料誌でもなかなかお目にかかれない、素敵が散りばめられている本。アジアの音楽に興味がある、ということだったので、僕はタイしかわからないけど、面白い情報があったらシェアしていきたい。
打ち上げ
Music Lane Festival Okinawa 2023、無事閉幕。デリゲーツとしての当地での責務から解放されほっと一息(ライブ観て楽しんでただけだけど)。
Soft Pine・VINIチームにお誘いいただき打ち上げに参加。良い時間を過ごせました。
覚えたての日本語、「ビール、お願いします」を店員さんに向け乱発した数時間後のSoft PineのドラムBoom
振り返ってみて
多くの参加者に火をつけた三日間になったと思う。コザの街のそこかしこでチャンスが生まれていた。ただ、花が咲くのはこれから。皆に会えて楽しかったね、良い経験ができたね、だけで終わったらただの修学旅行。成果をだしていかないと。
今回のMusic Laneに参加したバンドやその所属レーベル、音楽関係者から打ち合わせしたいという依頼を数多く受けた。そのうちのいくつかは、すでにプロジェクト化し、成果を出すべく進めている。あのタイのバンドの日本ツアーとか、あの日本のアーティストのタイアーティストとのコラボ曲制作とか、今年の年末にかけてお披露目していけると思う。
願わくば、Music Laneをきっかけとして生まれた多くのチャンスに花が咲き、日本の音楽が世界に、世界の音楽が日本に、広く深く浸透していきますように。
※本日の夕飯(後のデザート) (AM1:23)
※ショーケースフェスに参加した・今後参加してみたいというバンド・アーティストの方に向け、「ショーケースフェスティバル参加の心得」と題したコラムも書いているので、是非、参考にしてみてもらいたい。
※Music Lane連載との連動プレイリスト「めくるめくタイインディーズの世界」も合わせてどうぞ。
■執筆者紹介
Ginn
タイ・バンコク在住15年。タイ人メンバーと結成したポストハードコアバンド「Faustus」で自身でも音楽活動をしつつ、日本とタイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」を主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、日・タイ音楽交流のための草の根活動をおこなっている。
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